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【2-18】「悪魔との共闘」
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「最初に見つけた七名パーティーがいたろ? あれが俺たちを襲ってきやがったんだ。それほど強(つえ)え奴はいなかったんだけどよ、途中からあいつが加勢して、一気に形勢逆転だ。まず、オレが死んだ。そして他のメンバーも……」
敵は七名ではなかった。七名編成のパーティーが二つも存在していたのだ。
そしてその中の一人が、ゲームマスターというわけか。
「アンノルは……死んだのか」
「いや、死んでない。ゲームマスターの権限を行使されて、強制ログアウトした」
「ゲームマスターだと? ……あいつが、そうなのか?」
ゆっくりと旋回し、中心にいるマルベラの姿を視認する。
既にマルベラは立ち上がっていて、こちらを見上げていた。
「あんまり何度も権限を行使するとぉ、他のぷれいやーに見られちゃうからぁ、本当はもう使いたくないんだけどぉ、……でも、あと一回ぐらい大丈夫よねぇ?」
にんまりと笑い、マルベラはレッカスに視線をぶつける。
このままだと、ロアと同じようにレッカスまでも強制ログアウトされてしまう。
そうなれば、今度こそオレは一人になる。
「レッカスッ、なんでもいいからマルベラの口を塞げっ」
「? ……おおっ、了解したぜっ」
何の説明もしていないのに、レッカスは状況を把握する。
訳を問わずに短めの呪文を唱え、すぐさま反撃の一手を繰り出した。
「ゲームマスターのぉ、権限を行使してぇ、レッカス=ヨシル――ぅぐっ」
声が途切れる。
レッカスの放った黒い牙がマルベラの体に突き刺さったのだ。
「よし、予想通りだ」
魔法を行使する際、呪文を唱える必要がある。それと同じで、ゲームマスターが権限を行使するためには、自ら宣言しなくてはならないようだ。
「いったあぁいじゃないのぉっ」
エフェクトが消滅する牙をあえて手掴みで引っこ抜き、握りつぶしてしまう。
しかしまだ終わらない。
レッカスがお見舞いする空中からの長距離攻撃は、旋回をし続けていることもあって、マルベラも目で追うのがやっとのようだ。
両翼の先端に付いた棘がホーミング機能を持ち、マルベラの手のひらに貫通し、文字通り地面へと釘づけになった。
「こんのっ、ふざけた悪魔めぇっ」
マルベラは怒りに我を忘れ、炎の精霊としての魔力を思う存分に開放し始めた。
「うわっ、あっつ」
地面が赤に染まり、ドロリドロリと炎の柵を越えて辺りを侵食する。これはもはや火の海と言うよりはマグマだ。
逃げ遅れたプレイヤーがマグマの流れに呑み込まれ、悲鳴を上げながら四散する。今のが三回目の死だとすれば、あのプレイヤーは七日後に現実世界において死に至ることになるだろう。
「こりゃあ、降りれねえな……」
夜森の上空を旋回し、辺り一面を見下ろす。
レッカスの両足に肩を掴まれ、少しばかし食い込んだ爪の先が痛みを生み出す。
魔王軍のプレイヤーは魔王に攻撃することができないので、幸いなことにダメージは受けていない。だが、もう少し丁寧に扱ってほしいものだ。
ロアの場合は背中から抱きかかえられていたので、ほどよい胸の感触を満喫することができたわけだが、勿論そんなことは本人の前では言えるわけもない。
「どうすんだ、サンタ」
「オレに聞くな、特技も魔法も使えないんだぞ。それを言うならレッカスがなんとかしてくれ」
「んなこと言われても俺はバカだからなー、あいつの倒し方が思い浮かばねえぜ」
笑っている場合か、と突っ込みたくなったが、正直オレもレッカスのことを責められる立場ではない。
現状ではむしろオレの方が役立たずなわけだからな。
足場を必要としないレッカスはともかく、オレは足場が無ければ攻撃の際に勢いをつけることすら不可能だ。
「ロアがいてくれたらな……」
こんな時に頼りになるのは、やはりと言うべきか、ロアだ。
ゲームマスターの権限によって強制ログアウトを余儀なくされてから、まだ一分も経っていない。再びEGOへと姿を見せるまでには、もう少しだけ時間が必要となるだろう。
「おいおい、生まれたての魔王さんよ、俺だけじゃ不安だってのか?」
「不安に決まってるだろ、元チーターさんよ」
「んなっ、……てめっ、なんで知ってやがんだっ、まさかアンノルの野郎ッ」
そのまさかだが、今此処で話しておけてよかった。
最悪の事態を考えれば、どちらか片方、或いは共に死に至ることもある。
「あくどいことやってんだからEGOでも抜け道っぽいこと知ってんじゃないのか?」
「んなもん、アンノルに聞きやがれ。此処での俺は生けるシバカネ(・・・・)なんだからよ」
鼻息を荒くした。
肩の上からレッカスが覗き込み、ニヤリと笑みを浮かべてみせる。
だが残念ながら言葉を間違えているので、様になどなっていない。
「それじゃあ、仕方ないな。……二人で、最後まで戦おう」
「……魔王と共に死ねるってんなら、俺も本望だぜ」
軽口で語り合い、幼い頃からの親友であったかのように、互いにほくそ笑む。
やがて、マルベラが炎の渦を巻いてゆっくりと上昇してくる。ゲームマスター対魔王軍の決着をつける時が訪れたようだ。
「回復されたら厄介だ、呪文を唱えさせる暇を与えるな」
「悪魔使いの荒い魔王だぜ、ったくよ……」
そう言いつつ、レッカスの口元を見やれば不満を感じていないことが理解できる。
「行くぞっ」
レッカスの声を聞き、オレは心の中で頷く。
瞳の先に映るのは、マルベラただ一人。
旋回を止め、両翼を畳み込み一気に降下を始める。
目と鼻の先に炎の渦が熱気を振り撒き、その中へ躊躇なく飛び込んだ。
敵は七名ではなかった。七名編成のパーティーが二つも存在していたのだ。
そしてその中の一人が、ゲームマスターというわけか。
「アンノルは……死んだのか」
「いや、死んでない。ゲームマスターの権限を行使されて、強制ログアウトした」
「ゲームマスターだと? ……あいつが、そうなのか?」
ゆっくりと旋回し、中心にいるマルベラの姿を視認する。
既にマルベラは立ち上がっていて、こちらを見上げていた。
「あんまり何度も権限を行使するとぉ、他のぷれいやーに見られちゃうからぁ、本当はもう使いたくないんだけどぉ、……でも、あと一回ぐらい大丈夫よねぇ?」
にんまりと笑い、マルベラはレッカスに視線をぶつける。
このままだと、ロアと同じようにレッカスまでも強制ログアウトされてしまう。
そうなれば、今度こそオレは一人になる。
「レッカスッ、なんでもいいからマルベラの口を塞げっ」
「? ……おおっ、了解したぜっ」
何の説明もしていないのに、レッカスは状況を把握する。
訳を問わずに短めの呪文を唱え、すぐさま反撃の一手を繰り出した。
「ゲームマスターのぉ、権限を行使してぇ、レッカス=ヨシル――ぅぐっ」
声が途切れる。
レッカスの放った黒い牙がマルベラの体に突き刺さったのだ。
「よし、予想通りだ」
魔法を行使する際、呪文を唱える必要がある。それと同じで、ゲームマスターが権限を行使するためには、自ら宣言しなくてはならないようだ。
「いったあぁいじゃないのぉっ」
エフェクトが消滅する牙をあえて手掴みで引っこ抜き、握りつぶしてしまう。
しかしまだ終わらない。
レッカスがお見舞いする空中からの長距離攻撃は、旋回をし続けていることもあって、マルベラも目で追うのがやっとのようだ。
両翼の先端に付いた棘がホーミング機能を持ち、マルベラの手のひらに貫通し、文字通り地面へと釘づけになった。
「こんのっ、ふざけた悪魔めぇっ」
マルベラは怒りに我を忘れ、炎の精霊としての魔力を思う存分に開放し始めた。
「うわっ、あっつ」
地面が赤に染まり、ドロリドロリと炎の柵を越えて辺りを侵食する。これはもはや火の海と言うよりはマグマだ。
逃げ遅れたプレイヤーがマグマの流れに呑み込まれ、悲鳴を上げながら四散する。今のが三回目の死だとすれば、あのプレイヤーは七日後に現実世界において死に至ることになるだろう。
「こりゃあ、降りれねえな……」
夜森の上空を旋回し、辺り一面を見下ろす。
レッカスの両足に肩を掴まれ、少しばかし食い込んだ爪の先が痛みを生み出す。
魔王軍のプレイヤーは魔王に攻撃することができないので、幸いなことにダメージは受けていない。だが、もう少し丁寧に扱ってほしいものだ。
ロアの場合は背中から抱きかかえられていたので、ほどよい胸の感触を満喫することができたわけだが、勿論そんなことは本人の前では言えるわけもない。
「どうすんだ、サンタ」
「オレに聞くな、特技も魔法も使えないんだぞ。それを言うならレッカスがなんとかしてくれ」
「んなこと言われても俺はバカだからなー、あいつの倒し方が思い浮かばねえぜ」
笑っている場合か、と突っ込みたくなったが、正直オレもレッカスのことを責められる立場ではない。
現状ではむしろオレの方が役立たずなわけだからな。
足場を必要としないレッカスはともかく、オレは足場が無ければ攻撃の際に勢いをつけることすら不可能だ。
「ロアがいてくれたらな……」
こんな時に頼りになるのは、やはりと言うべきか、ロアだ。
ゲームマスターの権限によって強制ログアウトを余儀なくされてから、まだ一分も経っていない。再びEGOへと姿を見せるまでには、もう少しだけ時間が必要となるだろう。
「おいおい、生まれたての魔王さんよ、俺だけじゃ不安だってのか?」
「不安に決まってるだろ、元チーターさんよ」
「んなっ、……てめっ、なんで知ってやがんだっ、まさかアンノルの野郎ッ」
そのまさかだが、今此処で話しておけてよかった。
最悪の事態を考えれば、どちらか片方、或いは共に死に至ることもある。
「あくどいことやってんだからEGOでも抜け道っぽいこと知ってんじゃないのか?」
「んなもん、アンノルに聞きやがれ。此処での俺は生けるシバカネ(・・・・)なんだからよ」
鼻息を荒くした。
肩の上からレッカスが覗き込み、ニヤリと笑みを浮かべてみせる。
だが残念ながら言葉を間違えているので、様になどなっていない。
「それじゃあ、仕方ないな。……二人で、最後まで戦おう」
「……魔王と共に死ねるってんなら、俺も本望だぜ」
軽口で語り合い、幼い頃からの親友であったかのように、互いにほくそ笑む。
やがて、マルベラが炎の渦を巻いてゆっくりと上昇してくる。ゲームマスター対魔王軍の決着をつける時が訪れたようだ。
「回復されたら厄介だ、呪文を唱えさせる暇を与えるな」
「悪魔使いの荒い魔王だぜ、ったくよ……」
そう言いつつ、レッカスの口元を見やれば不満を感じていないことが理解できる。
「行くぞっ」
レッカスの声を聞き、オレは心の中で頷く。
瞳の先に映るのは、マルベラただ一人。
旋回を止め、両翼を畳み込み一気に降下を始める。
目と鼻の先に炎の渦が熱気を振り撒き、その中へ躊躇なく飛び込んだ。
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