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第1章

第6話 お嬢様の独占欲

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「こちらにいらしたのですか、シアお嬢様」

「ネオ…っ」


入口に立っていたのは、燕尾服に身を包んだネオ。
ネオはクライムに視線を向けると、すっと腰を曲げた。


 
「クライム様、ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。シア――…シルヴィアーナお嬢様がご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます」

「挨拶はいいよ。シアのお迎えで、走ってきたんだろう?」

「えぇ」


急いでいても、礼儀正しく挨拶をするネオ。


今日は一日、暇を与えたはずなのに…。

稽古にはいく、と嘘をついたことがバレたようだ。
稽古をサボったことを知り、探しにきたのだろう。

 
ゆっくりすごせば良いのに。
忙しくさせた本人がいうことではないが…。

どこか、心の奥で喜んでいる自分がいた。


優雅なティータイムを過ごしていた、シア。
コツコツコツ、と靴の音が近づく。 



怒られる…っ!!



身構えていると、ネオがスッと紅茶を奪った。

「まったく……どうしてあなた様は、私のいうことがきけないのですか」

怒鳴られるのを覚悟していたが、発せられたのは、ため息混じりの低い声。
呆れたような声…。


「べ、べつにいいじゃない。ティータイムくらい」

口を尖らせ、開き直ったように主張する。
その言葉に、ネオはうなずいた。

「お稽古をきちんと終えたあとでしたら、存分に堪能していただいて構いません」

奪った紅茶をそっとテーブルに置くと、大きなため息をついた。


「ルードヴィッヒ家を継ぐ者としての自覚を、改めて説き伏せなければならないのでしょうかね」

「…ネオには関係ないじゃない」

 
そう…。
ネオには関係がない。



どんなに世話を焼いてくれても、いずれは離れていってしまう。

自分のものだと宣言して独占したいのに…。
叶わない現実。



お嬢様と執事――…


 
揺らぐことのない、主従関係。
2人の間で大きな壁となり、行く先を阻む。


ずっとネオをそばに置くために、ルードヴィッヒ家を継ぐと決めていた。

執事として、ずっと隣にいさせるために。


…我ながら、子どものような独占欲丸出しだ。
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