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1章 新たな人生

1話 恩恵だけの奴隷紋

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「来たなリケイル」


俺はリケイルと言って、20年冒険者をしている35歳のベテランで、今日は10年前から指導をしているアモスに呼ばれ、リーダー部屋に来たんだ。
新人時代からずっと世話をしているから何でも言い合える仲で、部屋にはPT仲間の格闘士のリゼと回復魔法士のシューリがいて、何だか空気が重くどうなってるんだと思ったな。


「どうしたんだアモス?」
「リケイル、お前をドラゴンの翼から追放する」
「は?」


もう一人、攻撃魔法士のカーリーがいるんだが、彼女は今新人の指導にダンジョンに入っている。
しかし、俺が追放なんて冗談が過ぎると言ってやったんだが、アモスも他の二人も本気の様で、どうしてなのかと聞き返してしまった。


「分からないのかリケイル」
「当然だろう、俺が何をしたんだ」
「では言ってやる、お前の作ったクランの紋章、あれは奴隷紋だな」
「それがどうしたんだ?」


秘密にはしていたが、そもそも奴隷として使ってないのだから、ステータスアップや経験値アップ等の恩恵だらけの紋章だ。
俺が奴隷商のユニークスキル持ちだから出来た事だが、クランの仲間を奴隷にしていると言って来た。


「ちょっと待てよアモス」
「いいや待たないっ!お前は仲間を裏切ったんだ」
「この卑怯者」
「仲間を奴隷にしていたなんて信じられないわ」


リゼもシューリも怒って睨んでくるが、俺にも言い分はあり聞いてほしかった。
本来の奴隷紋とは違い強制力はなく、仮契約を利用した強化魔法みたいなモノなんだ。


「俺は皆を強くしていただけなんだ、それのどこが悪いんだ?」
「良く言うわ、それでいかがわしい事でもしようとしてたんでしょ」
「いかがわしい事って、何を言ってるんだリゼ」


10年ずっとPTを組んでいて、俺は一度も3人には手を出していないし、それを言うならここにいる2人はアモスと良い仲だろうと言いたかった。
カーリーが聞いたらなんて言うか分からないが、兎に角強くなる以外デメリットは無かった。


「兎に角、クランの紋章を変更し、お前は追放だリケイル」
「そんな事をしたら、紋章の恩恵は無くなるぞ、せっかく世界最高峰の7つ星冒険者クランになったのに」
「だからだよリケイル、20人しかいない家はこれから大所帯になる、そのクランが奴隷扱いだったなんて知られたら、それは汚点だ」


そういう事かっと、俺は納得してしまった。
俺の恩恵は要らず、これからは自分たちでやっていくと言う事で、年寄りの俺を追い出したいんだ。


「確かに、年齢的にもそろそろ引退だが、アモスほんとに良いんだな?」
「くどいぞリケイル、さっさと荷物を纏めて出ていけ」
「そうか、それならもう何も言わない」


じゃあなっと、俺は手を振るだけで部屋を出て、自室に戻って荷物をまとめ始めた。
奴隷は身分としても最悪だが、俺はそんな扱いはしていなかったし、疑われる行動も控え仲間と思って接していた。


「仮契約でうまく使っていたんだが、それもダメなのかよ」


だから言わなかったが、縛られる事は一切ないのにどうしてだよっと、知られた原因よりも信じてもらえなかった事の方がショックだった。
こうなるのが分かっていたから、俺も言わなかったのかもしれないが、俺の努力が全て否定された気分で落ち込んだよ。


「ユニークスキルが奴隷商でも、冒険者としてやっていくために努力をしてきたんだがな」


ユニークスキル【奴隷商】は、奴隷とした相手の教育に関してとても優秀で、更にステータスアップなどの恩恵が多数存在していた。
そのおかげで俺も強くなって知識も蓄えたが、要らないと言うのなら子守は終わりでここを去ろうと俺も考えを変えたよ。


「俺がいなくなって困っても知らない」


カーリーに挨拶出来ないのは寂しいが、事情を知れば俺の所に来るだろうと、アモスたちとは違って信じて部屋を出た。
クランの屋敷を外に向かって歩いている間、他のPTにも会ったんだが、全員から恨み言を言われたよ。


「まぁ騙していたのは確かだけどな」


はははと笑って、俺は屋敷を出たんだが、目から涙が流れていたよ。
俺の作った強化護符と同じような仕様なのに、何がいけなかったのかと言いたいが、話しを聞いて貰えないのなら仕方ないので、俺は脱退の申請の為に冒険者ギルドに向かったんだ。


「またイチからやり直すとしても、今度は正直に言ってみるかな」


新人なら、もしかしたら了承してくれるかもしれないと期待したんだが、ギルドに入ると俺はそこにいた数名に睨まれてしまった。
その状態で受付に向かったんだが、途中で冒険者に遮られたよ。


「何だよお前たち」
「お前、仲間を奴隷にしていたってやつだろ?」
「何で知ってるのか知らないが、強化護符の様なモノだし、強制力はない」


そう言ったんだが、どうしても通して貰えない様で、これは何か変だと思ったんだ。
そこに受付から女性が出て来て、俺のギルドカードが抹消された事を宣告された。


「な、なんだよそれは!」
「当然でしょう、あなたは世界でも3グループしかいない7つ星のクランを奴隷としていたのです」


死刑にならなかっただけマシと言われたが、正直そこまでするかと思ってしまった。
奴隷紋をしっかりと胸元に刻めば、確かに強制力を持たせて奴隷にしてしまう。


「だけどな、俺の行っていた仮契約は強化アクセサリーとかと同じだ、身体ではなく物に刻んで恩恵を与えていただけなんだぞ」
「こいつ、開き直ってやがる」
「こんな奴が7つ星なんてありえないぜ」
「お前ら・・・ここら辺で見ない顔だな」


遮ってきている冒険者だけでなく、俺の資格を抹消すると言っている職員も、ここで4年間ダンジョンに入っていて見た事が無い。
これが誰かの罠なのが分かり、その程度の信頼だったかと、カードを床に捨ててギルドを出たんだ。


「別に、ここがダメでも他がある」


丁度良い再出発と思い、俺はそのまま街を出た。
途中の野営時、どこに行くかを考えたが、隣の国にダンジョンがある事を思い出しそこに行くことにした。


「西の国【ベラーラ】なら、俺の事を誰も知らないし、再出発には丁度良いよな」


罠に嵌めて来た奴が誰なのかも分かっていないので、それだけでは心配なので次の事を始めた。
まず名前をリケイルからリイルと変えて、髪の色を青から白にして姿も若くしたんだ。


「魔法は便利だな」


時魔法や生活魔法と、難しい物から簡単なものまで俺は何でも使える、それがユニークスキルの奴隷商の強みだ。
扱う奴隷よりも弱い事はありえず、普通の奴隷商とは違うと独り言が飛び出したよ。


「さて、これだけ変われば平気だろうが、もう使うのは止めだな」


これからは、何処にも属さないオールラウンダーの冒険者として生活しようと決めた。
奴隷にしたとか、色々言われるのはもう嫌になったよ。


「後は、誘ってくれるPTがいるかどうかなんだよなぁ」


人員が不足している可能性は高いので、1度だけと言うのは期待できるが、その後本契約と言われても断る事になるだろう。
もう誰も信じられないと考えてて、俺は1月かけて西の国に到着した。
罠に嵌めた奴が襲撃してくると思ったんだが、次の国に着くまで何も起こらず、ちょっと拍子抜けしてしまった。
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