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2章 成長チート

33話 ろくでもない男

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「あいつ、馬車から出ないわね」


アタシは、御者台から馬車の中をじろっと見て睨みましたが、その対象は横になって寝ているだけです。
こんな人を連れて行って平気なのか、アタシはかなり疑問を持っていて、会うのもイヤなんじゃないかと心配です。


「デートリマさん、そろそろ国の境にある街【インサーツ】です」
「ありがとうクライル君・・・それとちょっと聞きたいのだけど」
「あれの事ですよね?」
「そうよ、どう思う?」


護衛として歩いているクライル君のPT【シャインブレード】とジャシモル君のPT【ルーンウォール】が頑張っているのにっと、不満がとても溜まっている感じです。
だからこそ、このまま会わせて良いのかと聞いたら、来ていたメンバー全員に止めるように言われてしまったわ。


「やっぱりそうよね」
「それはそうですよ、誰があんな奴に会いたいんですか」
「あたいだったら、勢い余って殺しちゃうわ」
「物騒だな・・・でも、気持ちは分かるぜ」


全員イヤそうでアタシもそう思うから、会う時はアタシだけで最初にお話をする事を決めました。
そして、同伴しているはずのカーリーさんに話を付け、その後どうするのかを検討する流れを提案したわ。


「それだ良いだろうな」
「でもデートリマさん、断られたらどうするの?」
「その時は、あいつは用無しね」


アモスだけがそうなる予定で、クライル君とジャシモル君のPTは、今後もダンジョンで活躍してもらう事を伝えたわ。
出来れば、リケイルさんに謝りたいようだけど、それも叶わないかもしれません。


「まぁそうだよな」
「その時は仕方ねぇな」
「頑張って来たあなた達の事は伝えます、最悪言葉だけでも貰いますよ」
「「「「「お願いします」」」」」


全員に頭まで下げられ、リケイルさんが慕われているのを再確認しました。
出来れば戻って来てほしいですけど、それは言わない方が良いのは確実で、先頭を歩くあの二人に視線が向きました。


「リゼとシューリ、彼女たちはどうするのかしらね」


アモスとも仲違いをしている様で、ふたりだけでダンジョンに入ったりもしていました。
ギルマスは、アモスとは違う処分と言っていましたけど、リーダンではPTに誘ってくれる人はいませんから、出来ればリケイルさんにしごいてほしい所です。


「でも、嫌よねぇ」


普通顔も見たくないわけですから、それも難しいでしょうし、同じ街にいるのもイヤかもしれません。
最悪、奴隷としてPTに参加させる方法を取るかもしれません。


「おい、そろそろ飯だろう、早く止まれよ」
「アモスさん、あなたにそんな指示をされる言われはありません、黙って運ばれていなさい」
「ふんっ!予定も組めない無能職員だな」


イラっとしたアタシは、馬車を段差のある道にワザと向かわせ、ドスンっと振動を加えたわ。
寝ていたアモスが頭と腰をぶつけていて、痛そうにしているのを見て笑ったのよ。


「おい、今笑ったな」
「だったら何ですか?そんな事で痛がるとか、あなた本当に冒険者ですか?」
「っち、下手くそな運転しやがって、ダメ職員」


ダメクズ冒険者に言われたくはないけど、そんな奴を相手にもしていられないので、門の列に並び入場しました。
そこで、後ろのダメクズアモスが何か言って来たから、仕方なく干し肉でも食べていろと指示を与えました。


「街に着いたんだから、普通の飯を食わせろよ」
「何か勘違いしていませんか?あなたにそんな資格はありませんよ」
「資格なんていらねぇんだよ、俺がいないと困るのはお前だ、そうだろう?」
「それが勘違いだと言うんです、アタシは全てを任されているんですよ」


ダメクズを奴隷にする事も出来ると、アタシはもうそれで良いかと思って忠告しました。
でも、ダメクズはやれるモノならやって見ろとか言ってきます。


「アタシに出来ないとでも?」
「ああ出来ないな」
「へぇ~それは一体どうしてですかね?」
「頭の悪いお前に教えてやる、俺が拒否するからだよ」


自分が了承しなければ契約は成立しないとか言って来て、奴隷商は街から出ないから時間が掛かると、ダメクズは無い知恵を出して来たようです。
でもアタシは、なんだそんな事かとため息を付いて呆れてみせたわ。
その仕草を見て、ダメクズは焦って来たから、その理由を教えてあげる事にしたのよ。


「薬を使い、あなたを廃人にすれば簡単よ」
「そ、そんな事をしたら、冒険者として活動できないぞ」
「あらあら、今まで散々馬車で寝ていたのは何処の誰でしたっけ?」
「うっ!」


弱くても唯一の取り柄だったのに、それを放棄したのだから当然と、アタシはこの街で奴隷商に頼むかどうかを聞いてやったわ。
正直、アタシはもうそれで良いと思っていて、使えない男でもアタシの弾除けにはなります。


「さぁどうするの?」
「そ、そんな事をしたら、俺の本心からの謝罪が出来ないぞ、リケイルが許さんぞ」
「まったく、あなたにはプライドと言うのが無いのね、リケイルさんに頼るとか最低よ」


今まで、リケイルさんの名前を嫌がっていたのに、最後にはその人に頼った。
こんなダメクズはもういらないと、奴隷商の元に行き契約をする事にしたわ。


「イ~ヒッヒ、いきなり薬を使うのは初めてじゃから、楽しみじゃのう」
「分量は気にしないで、死ぬ寸前でお願いします」
「ままま、待ってくれ!分かった、契約を了承する、だから止めてくれ」
「了承する?やめてくれって何かしら、言い方が違うわよね?」


注射器を見て怖気づいたのか、ダメクズは涙目で言い直して懇願して来たわ。
契約させてくださいお願いしますっと、プライドも無ければ根性もないダメクズで、契約は普通に行われたわ。


「つまらない、ワシャ~ガッカリじゃ」
「すみませんね、契約料は冒険者ギルドにお願いします」
「追加料金を貰うからのう」
「当然です、しっかりと貰ってください」


こんなダメクズの為に時間を使ってもらったのだからと、初対面の奴隷商のおばあさんに謝罪したわ。
契約が済んで宿に泊まったのだけど、奴隷となったダメクズは馬小屋で、あいつの今後をお願いする為、アタシはリゼとシューリを部屋に呼びました。


「お、オレたちが管理するのか!?」
「ええ、おふたりは今後も冒険者を続けますよね?その為の道具にしてください」
「だ、だけどよ」
「良いんじゃないかしら、ワタシは賛成だわ」


シューリが了承して来たので、このまま奴隷の移行を済ませたけど、命令を拒まない前衛を得られた事をリゼに説明してたわ。
アタシの様に弾除けとして使う様で、この後の扱いが想像できました。


「じゃあ、今後は護衛としてしっかりと使ってください」
「はい、リゼの負担を減らせてよかったわ」
「そうですね、さぼっていた分もお願いしますね」
「勿論です、鞭でも買ってビシビシ行きますわ」


これは、想像よりも厳しそうとは思いましたが、命があるだけマシかもしれません。
でも、死ぬ事も出来ないので、こっちの方が苦しいかも知れないと、退出する二人を見て思ったんです。


「でも、これが一番穏便に済んだ結果ですかね」


部屋着に着替え、アタシはこの旅の終わりを感じたわ。
後はリケイルさんとの顔合わせで、それが出来なければ何も出来なかった結果しか残らず、そんな最悪な想像してしまったわね。
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