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1章

2話 授業は普通

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「ですから、この式を使って計算を行います」


アタシはため息を付いて、あの男の授業を受けてるわ。
でも、普通の授業でとてもつまらないの、他の教師と違うと思ったから採用したのに、ほんとにつまらない。


「もっと何かあると思ったのに・・・ねぇマエノ、もっと面白い授業をしてよ」
「そう言われましても、算数と言うのはこんな物ですよサザンカ様」
「式を覚えて、数字を使ってるだけでしょ、もう覚えたから何かお話をしてよ」


仕方ないとか言って、マエノは最初の言葉、昔むかしのお話っと口にしました。
おじいさんのお話ではなく、今度はおばあさんのお話みたいよ。


「おばあさんは川に洗濯に行きますが、一緒に男の子が1人ついて行きます」
「昨日の続きじゃないの?」
「そうですね、これはあのお話しよりも、かなり後の事です」


マエノは、前の様に語り出し、アタシはどんなお話しかソワソワよ。


「おばあちゃん、川の水が冷たいよ」
「あらあら、マレス坊はまだまだねぇ」


おばあさんは、冷たさを感じないのか
ニコニコと服を洗います。
子供は、どうして平気なのかと質問すると、おばあさんはよく見る様に言ってきます。


「何を見るの?水しか見えないよ」
「良くごらんなさいマレス坊、水の中に光が見えるだろぅ」
「え~見えないよ」


子供は直ぐに返事をしますが、おばあさんは、もっとよく見る様に言ってきます。
子供はジッと川を見始め、するとそこには光の粒が泳いでいたんです。


「見えた、見えたよおばあちゃん」
「よくやったねマレス坊、その光に手を当てない様に洗濯をしてごらん、きっと冷たくないよ」
「嘘だぁ~」


子供はそう言いましたが、よく見るとおばあさんの手は、確かに光を避けていました。
子供もそれに習って光を避けようとしますが、光は手に寄って来て冷たさからは逃げられませんでした。


「おばあちゃん、無理だよこれ」
「そんな事はないさね、しっかりと動きを見るんだよ」
「動きって、こんなにいっぱいいたら分からないよ」
「よく見てごらんマレス坊、動きには規則があるんだよ」


おばあさんの言う様に、光には規則的な動きが存在していて、手をその方向に置かなければ寄って来ません。
子供は分かったようで、光を避けて洗濯を始めました。


「冷たくない、凄いよおばあちゃん」
「フォッフォッフォッ、生き物が呼吸をする様に、水や火にも呼吸があるんだよ」
「そうなの?」


そうだとおばあさんは答え、それを見る事が大切だと教えてくれます。


「そうさね、そしてこれは相手と遊ぶ事なんだよ」
「遊んでるの?」
「うんうん、相手の事を理解してあげる事、それがなによりも大切なんだよマレス坊」


子供は理解して水と遊ぶようになり、それからは他にも応用するようになりました。


「めでたしめでたし」
「何よそれ、前のお話よりもつまらないわ、要は応用しなさいって言いたいのね」
「分かっておいでじゃないですかサザンカ様」


マエノのお話は、こうして生徒に理解させるモノよ。
アタシもそれは分かるのだけど、算数がつまらないのは変わらないの。


「だからもう覚えたのよマエノ、もう算数は必要ないわ」
「サザンカ様それは違います。応用をするというのは、他にも使いなさいという事なのです」
「算数以外に数式なんて使わないわよ」
「いいえ使えますよ」


マエノは、リンゴを取り出してアタシに渡してきます。
それがどういった意味なのか、アタシは直ぐに聞いたのよ。


「リンゴの値段は銅貨2枚、リンゴを半分にすれば半額で買えますよね?」
「そんなの当たり前じゃない」
「では、もっと高い物の場合はどうですか?直ぐに答えは出ますか」


そう言われると自信がなくて、アタシは直ぐには答えられなかった、だから算数の式を覚えて、直ぐに出せる様にする必要があるそうなの。
そうして、色々な物を使い生活を良くしていく、それを理解してほしいとマエノは言って来たのよ。


「アタシに説教かしら?」
「とんでもないですよサザンカ様。僕は教えているだけで、例え話をしているだけなんです、それを自分の物にするのは、姫様自身です」
「纏めたわねマエノ・・・でも、良く分かったわ」


勉強は、その応用に使うかもしれないから蓄えるモノ、それが良く分かった授業でした。
そして、ある晩餐会の席で優秀な騎士の話を聞く機会があって、その内容にビックリしたのよ。


「ひ、光が見える!?」
「はい姫様、ワタシは剣の軌道に光が見えるのです。それを弾いたり避けると、相手はバランスを崩してワタシは勝つ事が出来たのです」
「そ、そうなのね・・・ねぇあなた、マレスって名前に覚えはある?」


もしかしてと、好奇心で聞いてみたのだけど、その名前を聞いた騎士は、とてもびっくりした顔を見せて来たわ。
そしてある事実を口にして、今度はアタシがビックリよ。


「りゅ、流派の名前!?」
「そうですよ姫様。まさか田舎剣術の家の流派をご存じとは、感激です」
「い、いえ知ってたわけじゃ」


アタシの小さな声は、騎士の自己紹介でかき消されたわ。
彼は、マレス剣術35代目当主、マレス・オオキノだそうよ。


「家は代々、マレスの名を継いでいるんです。今回の大会で勝てたのも、ワタシの力と言うよりも、流派の剣術のおかげです」
「そ、そうなのね」


もうそれしか言えないアタシは、頭の中では他の事を考えていたわ。
急いでマエノに聞きに行きたいのを抑え、アタシは他の参加者の挨拶を聞いたのよ。
そして、次の日にはもっと驚くことが待っていて、お父様たちは喜んだわ。


「そ、そんなにすごい事ですかお父様」
「それはそうだろう、どうやったらそんなに早く計算が出来るんだ」
「ほんとね、凄いわサザンカちゃん」


お母様までが、嬉しそうにアタシの手を取って来たわ。
こんなに喜んでくれたのは、今まで見た事がないのだけど、アタシは授業で習った事を朝食の席で披露しただけなの。


「宮廷学士でも無理じゃないのか?」
「それは言い過ぎですわお父様、式を使えば誰でもできます」
「「シキ?」」


おふたりが不思議そうな顔をしてきて、どうして知らないの?っと、アタシも不思議になったわ。
式を知らないわけはないと、数字を並べる形を教えると、おふたりはまた褒めてきましたよ。


「サザンカは天才だったのか」
「そうね、サザンカちゃんは天才よ」
「ちょっちょっとお待ちください」


世間に広めようと言われ、アタシは二人を止めるのに必死でした。
そして、マエノが普通じゃない事が分かり、調べさせることにしたんです。
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