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第二に贈られた三女ルーナ
【番外編最終話】男爵様の欲しいもの
しおりを挟むレオンは椅子から立ち上がると、ルーナの前に跪いた。
「レオ様?」
「ルーナ・・・僕は今までこんなにも欲しいとは思った事はなかった」
レオンはルーナの左手を取った。
「初めて・・・なんだ。欲しくてたまらなくて、僕だけのものにしたくて・・・もう誰れにも触れさせたくなかった。決して綺麗ではないやり方になってしまったけど、早く手に入れたくて・・・安心したくて・・・」
レオンはじっとルーナを見つめる。
「欲しいんだ・・・ルーナが」
ルーナの瞳から涙がこぼれた。言葉を発する事ができず、床に膝をついて目の前にいるレオンに抱きついた。
「私も・・・私もレオ様が欲しいです」
「ルーナ・・・好きだよ」
落ち着いてきたルーナは、レオンに疑問をぶつける。
「レオ様・・・もしかして、私の為に男爵様に?」
「ルーナの為っていうのもあるんだけれど、僕の為でもあるんだ。ルーナを迎え入れる事を考えれば、侯爵家ではルーナの負担になるかと思ったんだ。社交界にも呼ばれるし、元のご家族にも会うことになるだろう?」
「えぇ・・・そう・・・ですね」
「その点、男爵なら、必ず出席しなければいけない社交の機会も少ない。それにこんな辺鄙な土地だ。ルーナの事を知っている者も少ないしね。これはね、ルーナを欲しいが為、ルーナを僕のお嫁さんにしたいが為にした、僕の身勝手なわがままさ。僕がこの歳まで結婚しなかった事に、両親も半分諦めていたよ。でも、初めて自分から望んだんだ。ルーナと一緒になりたくて、必死に頑張った。一生懸命、説得だってしたし、最後は両親が折れてくれた。両親は君に会いたがっている。初めて僕が好きになった人が君だと知って驚いてはいたけれどね・・・まさか、あのルーナ嬢を!?ってね」
「なんだか悪目立ちしていたでしょうから、恥ずかしいわ・・・」
「いいや、母はとっても喜んでいる」
「喜んで?・・・なぜかしら・・・」
「わかりやすく言うと、サラと同じさ。息子ばかりで娘が産まれなかった。娘ができるのが嬉しいのさ。弟の婚約者は同じ家格の令嬢で、少し気位が高いが、社交に関しては抜群だ。むしろ、侯爵夫人として向いていると思う」
「そうですの・・・そう考えると、私はレオ様に何もしてあげれませんわね・・・」
「何を言っているんだ。君は僕の生きる理由だ。ルーナがいたから僕は初めて頑張る事を選択したんだ。初めて考えて自分から動いた。両親も喜んでくれたよ。君が僕を変えてくれたし、ルーナが僕の生きる理由であり、頑張れる理由なんだよ?」
「レオ様・・・」
「両親に会ってくれる?っていうか、今日来るって言われてるんだよ・・・」
その時、屋敷から賑やかな声がした。
「ここかしら?いたわ!本物のルーナちゃんだわっ!やっぱりかわいいわぁ!」
そう言いながら女性が抱きついてきた。
「ちょっと、母上!ルーナがびっくりしているじゃないですか!辞めてください!」
「いいじゃない!可愛い娘ができたのよ?」
「ヘレン、いきなり駆け出して・・・私を置いていかないでくれるか?」
「父上・・・」
「おぉ、レオン」
「父上、母上を止めてください」
「無理だ」
「そんなはっきりと!」
「おぉ、これはこれは、レオンには勿体無い美人さんがいるな。やっぱり娘もいいもんだな・・・レオン、孫は女の子で頼むぞ!」
「ちょっと、父上!その話はまだ!あぁ・・・もう・・・ルーナ、ごめんね」
「ふふっ・・・」
三人が目を見開いてルーナを見つめる。
(((笑った・・・可愛いっ!!!)))
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「・・・父上、母上、天使がいるよ・・・」
「えぇ、そうみたいね」
「あぁ、間違いないな」
「あの・・・」
「ルーナ、いいんだよ。これからたくさん笑おう。幸せになろう!」
「・・・はい、レオ様」
「まぁ、レオ様ですって!私もアルヴィンの事、アル様って呼ぼうかしら?」
「いいな、久しぶりに恋人気分でも浸るか?」
「いいですわね!」
侯爵夫妻は賑やかにやってきて、また賑やかに去っていった。
「ルーナ、なんか・・・ごめんね・・・雰囲気ぶち壊しだ・・・折角のプロポーズが・・・」
「いいえ、賑やかなご家族でいいではないですか」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
ルーナはそれから、メイドのサラと執事のハイドに屋敷の事、家事、領地の事などたくさんの事を教えてもらいながら穏やかに過ごした。
男爵家のレオンの婚約者として初めて参加した夜会は、レオンにあわせて穏やかな女性に仕上がった姿だった。元はトワイライト家の令嬢、見目は整っている。以前のような派手さはないが、慎ましやかに飾られたルーナは、美しさが際立っていた。レオンの隣で幸せそうに微笑むルーナは、夜会で会場中の令息達の視線を集めた。声をかけられたり、ダンスに誘われるのもひっきりなしで、女性達が妬んでしまうほど。そして、レオンが隣でおろおろして不安になってしまう程に。
「始めまして、私、キーストン伯爵家のレオリオと申します。美しいご令嬢、一曲いかがでしょう?」
金の髪をさらりと揺らしながら、女好きのする見目のいい男が声をかけてくる。
「お誘い頂き光栄ですわ」
対応するルーナの様子をレオンは不安そうに見つめる。
(ルーナ・・・行ってしまうのだろうか?・・・こんな見目のいい相手なら、ルーナも嬉しいだろうな。僕にはないものだ・・・ルーナ・・・行かないでくれ・・・そう言えたら、いいのにな・・・ルーナ・・・)
「ですが、一曲目は婚約者であるレオ様との時間ですの」
「ではその次に・・・」
「二曲目も、三曲目も全てレオ様で埋まっておりまして、飽きる頃には疲れておりますでしょうから、本日は他の殿方とのダンスはお断りしてますの。申し訳ありませんが、他を当たっていただけませんか?」
「そ、そうか・・・しかし、男爵もこんな素敵な婚約者を独り占めせずとも良いではないか?他の令息達も声をかけようとウズウズしているんだぞ?」
「え・・・あ、はい・・・」
「ふっ・・・ご令嬢、こんなはっきりしない男のどこがいいんだい?他にもいい男はたくさんいるぞ?」
「あら、いい男ですか・・・私にはレオ様一人しか見当たりませんわ。それに、レオ様が私を独り占めしているのではなく、私がレオ様を独り占めしているのです。私が他の殿方の手を取らないように、レオ様にも他の女性に触れて欲しくはありませんの。ですから、レオ様のダンスのお相手は私のみ。私も、レオ様としか踊りません。キーストン伯爵令息様、貴方様が嫌とかそういう事ではなく、一時もレオ様から離れたくないのは私の方なのですわ。私を悲しませる殿方など、どう考えても素敵だなんて思えませんの。私は、レオ様のお側にいることが幸せなのですから、引き裂くような事をして、悲しませる事をされるのは、私にとっていい男ではありませんの」
ルーナは令息ににこっと笑顔を向ける。
「・・・そこまで言われたら・・・し仕方ないね・・・マグノリア男爵、愛されているようで羨ましいよ。では、素敵な夜になるよう願っているよ」
そう言い残し令息は立ち去った。そのやりとりを見ていた他の令息達も声はかけてはこなくなった。
「ルーナ・・・」
「レオ様は、他のご令嬢をダンスにお誘いしたかったでしょう?・・・勝手にごめんなさい・・・」
「そんな事あるはずないだろう?僕は・・・嬉しかったよ。ルーナはたくさんの男を虜にさせる美貌を持ってる。そんなルーナが僕の婚約者だなんて、本当にいいんだろうかって思ってしまう程だ。ルーナも僕なんかよりもっと見目のいい男だったり、女性が喜ぶ事をしてあげられるような男がいいだろうと思う。それだけルーナには価値があって、それが正しいんだと思う。でもね、僕はもうルーナを諦めきれない。言っただろう?欲しくてたまらなくて、頑張ったんだって。僕はルーナだけだ。ルーナとの時間を削ってまで他の令嬢と過ごす時間などに価値はない。だから、他のご令嬢に構っている暇はないんだ。僕だってルーナを独り占めしたいんだよ?だから、ルーナ・・・このレオン・マグノリアとだけ、ダンスを踊っていただけますか?」
「はい、喜んで!」
とびきりの笑顔をレオンに向ける。ルーナはもう、レオン以外には触れられたくはなかった。彼の優しい手だけが支えだった。彼の手だけが自分を守ってくれたから。
婚約者である間は、部屋は別々に暮らし、体を重ねることもなかった。第二騎士団で、何人もの騎士達から精を注ぎ込まれたルーナの身体を気遣うレオンと、もし妊娠していたらという不安から、ルーナが怯えていたというのも大きい。
ルーナが屋敷に来て一年が経ち、二人は領内で小さな結婚式を挙げた。式が終わり、二人は寝室のソファに並んで座っている。
「ルーナ・・・まだ信じられないよ」
「何をですか?」
「だって・・・ルーナが僕のお嫁さんになったんだよ?」
「夢見ているとでもおっしゃるんですか?」
「あぁ、その通りだ」
「夢で終わってしまわれたら困りますわ・・・やっと・・・抱いて貰えると思ったのに・・・」
「ルーナ・・・あ、あの・・・僕さ・・・その・・・」
「レオ様、私こそ、初めてでなくてすみません。純潔で穢れのない女性を妻に迎えたかったですわよね・・・本当にすみません・・・寝ましょうか?今日はこのまま、眠ってしまいましょうか?」
「いや、それはダメだ・・・」
「レオ・・・様?」
レオンは立ち上がると、ルーナを横抱きにして寝台に運び、上から見下ろすように覆いかぶさった。
「ルーナは穢れてなんかいない。とっても綺麗だ。全部僕のものにしたい。もう、君に触れられるのは僕だけだ・・・どれだけ我慢したか・・・」
「我慢?」
「あぁ、騎士団にいた時、君の介抱をしながらも、内心、いつも欲情していた。自身のモノが反応してしまってね・・・君が目隠しされていて助かったと思ったぐらいだよ。なんなら、自室に戻ったあとに、君の姿を思い起こしては一人でしていたんだ・・・ごめん・・・気持ち悪かったね・・・」
「レオ様・・・キスして」
「ルーナ・・・ん」
「ん・・・レオ様・・・あの時、できないと言われてどれだけ絶望したか・・・全部・・・全てをレオ様のものにしてください。お願いします」
「ルーナ・・・ごめん・・・」
「・・・やっぱり穢れた女は抱けませんよね・・・」
「違う・・・」
「?」
「初めてでさ、自信がないんだ・・・上手くできないかもしれない・・・でも・・・ごめん、もう我慢できないっ!」
「んっ・・・」
レオンは貪るように深いキスをすると、ルーナの身体に触れていく。膣に入ると、初めて女の身体を知ったレオンは、ルーナに自身の愛を刻み付けるように身体を揺さぶっていく。
「・・・ルーナっ!・・・るーなっ!はぁ、はぁ・・・あい、してる!」
「れお、さまっ!あっ、んっ・・・あんっ、あい、して、ますっ!」
心も身体も繋がって、二人は愛し愛される夫婦になった。二人には、のちに長女、長男、次男と三人の子に恵まれる。
レオンの両親であった侯爵夫妻は、次男の息子に家督を譲った後、レオンの屋敷の敷地内に別邸を建て移り住んだ。ルーナを娘同然に可愛がり、孫も溺愛する優しいおじいちゃん、おばあちゃん。男爵家はいつも笑顔で溢れている。
「母上!エミリーはともかく、ルーナまで連れて行かないでください!」
「あらまぁ、執着の激しい男は嫌われるわよ?」
「うっ・・・それは・・・」
「お義母様、それは間違いですわ」
「間違い?」
ルーナはレオンに歩み寄る。
「私の方が執着していますの」
そう言うと、ルーナはレオンの胸に身体を寄せる。思わず飛び込んだぬくもりに、レオンの腕がルーナを抱き止める。
「ここは私だけの特別な場所ですの。一番安心できますから」
「・・・母上・・・この屋敷には天使が住み着いたみたいだ・・・」
「・・・えぇ、そのようだわ・・・」
「もっとぎゅっとしてくださいませ。私だけの騎士様」
「・・・ルーナっ!!」
レオンはぎゅうぎゅうに抱きしめると、ルーナの首や肩に頭を押し付け、自分のものだと示すかのように甘えていた。
今日も男爵家は賑やかな時間が流れている。
番外編(完)
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ここまでお付き合い頂きありがとうございました。最後にトワイライト家三女のルーナのその後を書かせて頂きました。ざまぁ展開もありだとは思うのですが、よくよく考えると、ルーナは事件に関して実行犯ではありません。悪知恵を働かせる事もありましたが、人を殺めたり貶めたりという事はルーナ自身は起こしていません。婚約者でもない令息数人と婚前交渉を行うなど、貞操の低さもありトワイライト家から追い出されるような形になりました。結果、第二騎士団で、のちの夫となる優しいレオンと出会います。罪に見合わない罰を与えられたという結果、幸せになってもいいのではないだろうかと思い、このような結末となりました。見目のいい、地位のある男性が好みだったルーナが、最後に結ばれたのは地位を捨てた平凡な容姿の男でした。望んだものばかりが結果幸せになれるとは限らないということなのかもしれません。愛し愛される関係になれる事、意外と思いも寄らないところに転がっているのかもしれませんね。
新作お知らせ!!
『騎士団長様からのラブレターーそのままの君が好きー』
当主である父に無理矢理参加させられたある夜会。辺境伯家の次女レティシアは、ダンスの誘いの多さに、断るのにも疲れ、辟易して王城の中を進んでいた。人気のない暗がりの中、うめくような声がする。一人の騎士が座り込んでいた。レティシアは彼を介抱する。
応急処置!わかった?
この出会いの行方は・・・?
2022/8/13より投稿スタートします!お楽しみに♪
応援ありがとうございます!
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