お嬢さんはある日森の中で熊さんに出会った

37、リシェリアの抱えているもの

「アル様・・・聞いて頂けますか？」

「あぁ、リシェの話は何でも聞くぞ」

「正直怖いです。アル様に嫌われてしまうかもしれません」

「俺がお前を嫌うはずがない」

「自信満々ですね」

「あぁ、リシェが好きだという事は、自信しかない」

「ふふ、そんなに言われると嬉しいです」

「お前は笑顔のほうがいい」


アリエルはリシェリアの頭をそっと撫でた。


「アル様・・・私は純潔ではありません」

「アイスフォードか・・・」

「いえ・・・相手はフラムウェル殿下です」

「なに！？何故フラムウェルなんだ・・・」

「私が王都の屋敷を飛び出した日、王宮での王子妃教育の後でした。フラムウェル殿下に、部屋に連れ込まれて・・・無理矢理襲われました」

「フラムウェル・・・許さん・・・」

「力が強くて抗えずに事は済んでしまったのです。そこにアイスフォード殿下が居合わせてしまって・・・最初は不貞を疑われました」

「リシェがそんな事をするはずがないだろう・・・」

「もちろんです。アイスフォード殿下も、シーツに散った血の跡と、私の怯えた態度から、前から続いていた不貞だという考えは改められました。近くに寄られ、慰めて頂けるものだと思いました。でも・・・殿下は・・・私に触れる事を拒まれたのです。他の男に体を許してしまった女など不潔に思われたのでしょう・・・」

「アイツは何をしてるんだ・・・大事な女が危ない目にあったのだ・・・いち早く助け出して抱きしめてやるのが道理ではないか・・・」

「それでも、お側にいて頂けたのならよかったのですが、殿下は馬車を準備させると言って部屋を出ていかれました」

「ありえんな・・・男としてなってない・・・」

「それだけなら、殿下に申し訳ない気持ちだけで済んだかもしれません」

「アイツはまだ何かしてきたのか？」

「殿下ではありません・・・まだ部屋には他にも人がいて・・・」

「誰がいたんだ？」

「フラムウェル殿下に言付ことづけに来た、側近のお二人です。両殿下が部屋から出て行かれたのを確認して、部屋に鍵をかけて閉じ込められました。そのあと・・・二人にも無理矢理・・・」

「リシェ、今使うべきだろう？」


リシェリアが何の事だろうと顔をあげると、アリエルが両手を広げていた。リシェリアは迷わず腕の中に呼び込んで、胸に頭を預けた。アリエルはしっかりと抱きしめ、背中を優しくさすった。


「辛かったな・・・三ヶ月も一人で抱え込んでいたのだな・・・」


リシェリアは涙が止まらなかった。アリエルは、アイスフォードから助け出してくれた時もすぐに抱きしめてくれた。それはまだ未然に防げたからだと思っていた。フラムウェルに襲われた事でアイスフォードには拒絶された。その後の側近の事も聞いた上で、アリエルは全てを受け入れてくれたのだ。アリエルは腕を緩め、リシェリアの顔を覗き込む。


「リシェ、もう一人で悩むなよ？俺がいる。俺からは逃げられんぞ？俺はもうお前を嫁にすると決めた。いや、随分と前から、心の中では嫁にしていたがな」

「ふふっ」

「あぁ、やっぱりお前は笑ったが可愛いな。いや、怒った顔も、泣いた顔も可愛い。どれも捨て難い。寝顔なんか、この世のものとは思えない可愛さだぞ？俺の嫁は世界一可愛いからな」


アリエルはもう一度リシェリアをしっかりと抱きしめた。




ーーーーーーーーーーーーーーー


次回

【リシェリアside】

優しく大事に扱っていたのがこんな女だなんて知ったら・・・