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40、一番強いのは
しおりを挟む「アル様、あーん」
「あーん」
リシェリアは膝に乗せられ、アリエルの口に食事をせっせと運んでいる。
「団長、羨ましいっす、俺もしてもらいたい!」
「書類置いたら早く出ていけ!」
「団長、好きな女に甘えるタイプだったんですね・・・」
「邪魔するな、早く出ていけ!」
報告書やら、手続きやらで執務室に訪れる騎士達が、二人の仲睦まじ気な様子をからかっている。
「団長、僕もリシェリア嬢をお膝に乗せて抱っこしたいなぁ」
「ルクスト、お前には絶対にさせん!」
渡すものかと、アリエルは抱きしめていた腕の力を強めた。
「うぉっ・・・」
ルクストを睨みつけていたアリエルの表情が、驚きと嬉しさとで真っ赤になり、リシェリアを抱きしめたままソファの背もたれに力なく沈んだ。そう、リシェリアが不意打ちでアリエルの頬にキスをしたのだ。
「うわぁぁ・・・騎士団イチの団長を、こんなにもヘナヘナにしてしまうなんて、リシェリア嬢が一番強いかもしれませんね・・・まるで猛獣使いだ!」
「ふふっ、アル様可愛いでしょう?」
「可愛いのはリシェリア嬢ですよ」
「こら、勝手に口説くな!」
「これは口説いているうちに入りませんよ」
「リシェ・・・ルクストに惚れるなよ・・・」
アリエルはリシェリアをしっかりと抱きしめ、肩に頭を押し付けた。
「アル様、こっち見てください」
「なんだ?」
アリエルはゆっくりと顔をあげると、不安気にリシェリアの顔を覗き込む。
「アル様じゃないとダメなんですよ?何も不安に思う事はありませんわ。こんな事アル様にしかしませんし、アル様にしかしたくありません」
リシェリアは、そう言うと、アリエルの唇にちゅっと軽く触れるだけのキスをした。ルクストの目の前で。
「んっ・・・リシェ・・・大好きだ」
「あの、帰ってからやって貰えます?」
「まだいたのか、さっさと出ていけ」
「はいはい・・・」
「じゃあ、気をつけて帰れよ?」
「すぐそこなんですよ、大丈夫です」
「でも、お前は庭で攫われたんだ、心配するに決まってるだろう?」
「大丈夫ですよ」
「いや、心配なんだ。もしまた攫われでもしたら・・・他の男に言い寄られたりでもしていたらと・・・」
「あの、アル様?」
「なんだ?」
「もう、着きました」
「へっ!?あっ・・・あぁ、よかった」
心配だと言いながら、歩くリシェリアについて来ていたら、屋敷についてしまっていた。
「ふふっ、アル様、早く帰って来てくださいね?」
「わかった」
詰所に戻ろうと踵を返すと、またあの感覚が。
「ん?」
振り返ると、またリシェリアが服を掴んでいる。そしてその顔は・・・頬を膨らませ、何やら不満気だ。
「リシェ!?どうした?」
手招きをされ、姿勢を低くする。
「んっ!」
「ふふっ、行ってらっしゃいませ」
本日二度目の行ってらっしゃいのキス。さすがに朝だけだと思っていた熊さんは、思わぬご褒美を貰った。
「お帰りなさいませ、アル様!」
「あぁ、ただいま」
リシェリアがアリエルの服をグイグイと引っ張る。本日三度目の、玄関でのキスに、熊さんはもう、デレデレだ。
「はぁ、嫁がかわいい・・・」
そう呟くと、リシェリアを抱きあげ、自室に連れて行く。着替え終わるとまた、リシェリアを抱きかかえダイニングに向かった。
「最近、旦那様と一緒にいる時、リシェリア様の歩いているお姿を見ていない気がします・・・」
フローラは呆れてため息をついた。食事を終え、湯浴みをすませると、いつものようにアリエルの部屋で過ごす二人。
「アル様、私また初めてを見つけましたわ!」
「ん?」
「初めて罰を与えました!」
「罰?・・・罰なのか?あれは俺にとっては罰にはならなかったぞ?」
「そうなのですか?」
「あれは・・・おねだりだな。くくっ」
「じゃ、じゃあ、私にたくさんキスする罰です!」
「リシェ・・・それも罰じゃないな」
「んっ・・・あっ・・・そんなとこっ、だめぇっ、んっ」
「リシェ・・・可愛い声を出すなよ」
「だって・・・アル様が・・・」
「俺は今、リシェからの罰を実行中だ」
「あっ、んっ・・・思ってたのと、違いますぅ・・・」
アリエルは唇だけではなく、額に、頬に首筋、肩へとどんどんキスしていった。だがここから先へは進まない。王宮で襲われて純潔を散らしたリシェリアは、こんな風に焦らされたり、愛を請うような行為は知らない。リシェリアにとってもこれが初めての事で、もちろんアリエルも人生経験はあっても、そっちの経験はないわけで・・・。
「ちょっと、やりすぎたな・・・」
リシェリアの瞳がとろんとしていた。
「その表情は・・・ダメだ」
そう言いながら、リシェリアの身体を優しく抱きしめる。そう・・・ただそれだけ。怖気づいているのではない。リシェリアがしたいと思うまで待つつもりでいる。
「その顔は、熊さんにしか見せるんじゃないぞ?」
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次回
【アリエルside】
猛獣使いの腕が凄いだけだ
38年の童貞を舐めるなよ?
応援ありがとうございます!
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