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心のぬくもり
しおりを挟む「・・・陛下?」
「あ・・・す、すまん・・・」
「い、いえ・・・」
思わず笑みがこぼれてしまったレイドルート。その表情を、まさかローゼリアに見られているとは思わなかった。にやけてはいなかっただろうか。気持ち悪いなどと思われていないだろうかと、居た堪れない気持ちになった。気まずい気持ちのまま、ローゼリアを伺うと、先程までの思い詰めたような様子はなく、表情が随分と柔らかいものになっていた。
「・・・眠れそうか?」
「はい・・・随分と温まりましたから」
「そうか。それはよかった。今度茶を飲むときは、また私が手ずから淹れてやるからな」
「えっ・・・?・・・また・・・があるのですか?」
「ん?・・・ある・・・だろう?」
レイドルートは、変わらずローゼリアに会えるものだと疑っていなかった。だが、ローゼリアにとっては、ライモンドが自分以外の女性の純潔を奪ってしまった以上、これまで通りとはいかないと思っている。婚約破棄という言葉が重くのしかかっているのだ。
「・・・陛下?私は・・・ライモンド殿下の婚約者ではいられないのでは?」
「ローゼリア嬢は、ライモンドの婚約者でいたいのか?」
「・・・い、いえ・・・陛下は・・・まだそう、お望みですか?」
「いや、その必要はないと思っている」
「でしたら、殿下と私の婚約は無かった事になるということですよね?さすれば、私は王宮に来ることもなくなるかと・・・」
「私が茶に招待するさ。別にライモンドを介さずとも、私の客人であれば、王宮に来る事にも理由になる。だから、何の問題もない。また茶を一緒に飲んでくれると約束しただろう?」
レイドルートは務めて明るく笑顔でローゼリアを見つめる。ローゼリアはその笑顔に、安堵と心にぬくもりを感じていた。どうしてこの人は、いつも寄り添ってくれるのだろうかと、心が解きほぐされていくような感覚を覚えていた。
「そうですね。お約束しましたものね」
「あぁ。これは命令ではないぞ?お誘いだからな?」
「ふふっ、はい」
「さぁ、随分と遅くなってしまった。ゆっくりと休んでくれ。明日の朝、侯爵邸に送り届ける予定だ」
「承知しました。何から何まで本当にありがとうございます」
ローゼリアは寝台の上から頭を垂れておじぎをする。
「いい夢を見れるといいな。おやすみ、ローゼリア嬢」
「はい、おやすみなさいませ、陛下」
挨拶を交わし、レイドルートは離宮を去っていった。部屋に残ったローゼリアは、寝台に横になると、胸に手を当てて、今のあたたかな幸せを覚えていたいと静かに眠りについた。
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