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2、誰かに見られている
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10年後
(やっぱり、見られてる・・・)
「はぁ・・・」
「どうしたんだ、バージル、ため息なんかついて」
「あぁ、これはこれは、テオドール・ジャンク騎士団長様ではないですか」
「はははっ、なんかあったのか?」
2人の男が騎士団の詰所に向かって歩いている。
ため息をついていたのは、第二騎士団所属の騎士、バージル・ユリシール。黒髪に、アメジストのような紫の瞳が特徴で、騎士団に入団し10年、現在25歳。
「俺の人生、もうすぐ終わりかなぁって・・・」
バージルは遠くを見つめている。
「病気か?」
「そういうわけではない・・・」
「話してみろ、解決できるかはわからんが、心ここにあらずでは、職務にも支障をきたすぞ」
テオドールは、純粋に心配をしてくれているようで、話してみてもいいかとバージルは考えた。
「いや、数日前から、見られてるみたいなんだよ」
「見られてるって、誰から?」
「それがわかってたらこんなに悩まない」
「お前に惚れたご令嬢かメイドあたりじゃないのか?」
「そんなかわいい理由なら大歓迎だ。黄色い声援なら、振り返れば顔ぐらい拝めるさ」
「ということは、それが誰なのか、何の為かもわからないってことか」
「視線を感じて振り返っても、周りを探しても、見つからない」
「まさかとは思うが、婚約者のいるご令嬢に手を出したりとかしてないよな?」
「やめてくれよ、若くして騎士団長になったお前みたいに、こっちはご令嬢には人気ないもんでね。その点は安心しろ」
相談にのっている長身の彼は、第二騎士団・騎士団長のテオドール・ジャンク、25歳。15歳で騎士団に入団し、17歳で一つの隊を任され、20歳で騎士団長になった。
ミルクティの様な茶色の髪に、若草の様な瞳は柔和な印象を与え、穏やかな印象ながらも見目麗しく、おまけに騎士団長で侯爵家嫡男となれば、結婚適齢期のご令嬢には優良物件である。
それに比べ、しがない子爵家の次男で、役職もない一般騎士であるバージル。
嫡男でない貴族子息の次男や三男は、次ぐ爵位がなければ、文官や騎士など、自身で身を立てる事を考えなくてはならない。
騎士は大抵、入団後5年から10年で、一つの小さな隊を任される隊長職に
くらいは就いている。
バージルの様に、10年経っても役職につかず一般騎士のままというのは、謹慎するほどの事や、何か荒事でも起こさない限り珍しい。
「まあ、何にせよ、気をつけるにこしたことはないな、何かあったらすぐ言え」
「せめてあと2、3年生きられたらいいかなって思ってる」
「身辺には気を付けとけよ、急に襲い掛かってくる事はないと思うが」
「へいへい」
後ろ手に、やる気なさげに手を振って、バージルは歩いていった。
バージルと別れたテオドールは、そのままの足で、騎士団の執務室へと向かった。
「おかえりぃ、テオ」
「トーマス、報告書できてるか?」
「机に置いといたよ、じゃあ僕、先に帰るけどいいかなぁ?」
「今日もお早いお帰りだな」
「可愛い奥さんが待ってるからねぇ。じゃあ、お先ぃ」
「ああ、お疲れ」
ゆるい話し方の、第二騎士団・副騎士団長のトーマス・ルノール。髪も瞳も濃い茶色の伯爵家次男。
テオドール、トーマス、バージルは学園でも、騎士団でも同期である。
テオドールが騎士団長に任命されると同時に、トーマスも副騎士団長に任命された。
面倒見のいいテオドール、人付き合いの上手いトーマスは、剣の実力も人望も申し分ない。
ただ、実のところは、剣の実力はバージルが一番なのだが、中々表に出そうとせず、他の団員達は知らない。
バージルは、戦略や頭の回転、機転のよさは、全ての騎士団員達の中でも群を抜く才があるのだが、これもまた隠している。
なぜ10年以上もの間、役職にも就かずいるのかといえば、彼は極端に出世欲がないのだ。
実戦でも策でも、手柄は他に譲り、自身は目立つ事なく過ごしている。
テオドールはぽつりと呟く。
「本当に面倒くさがりだな・・・アイツ」
執務室の窓から見える、第二騎士団の稽古場を眺めていたテオドール。
翌日に、そのバージルが稽古場で襲われる(?)事になるとは思っていなかった。
(やっぱり、見られてる・・・)
「はぁ・・・」
「どうしたんだ、バージル、ため息なんかついて」
「あぁ、これはこれは、テオドール・ジャンク騎士団長様ではないですか」
「はははっ、なんかあったのか?」
2人の男が騎士団の詰所に向かって歩いている。
ため息をついていたのは、第二騎士団所属の騎士、バージル・ユリシール。黒髪に、アメジストのような紫の瞳が特徴で、騎士団に入団し10年、現在25歳。
「俺の人生、もうすぐ終わりかなぁって・・・」
バージルは遠くを見つめている。
「病気か?」
「そういうわけではない・・・」
「話してみろ、解決できるかはわからんが、心ここにあらずでは、職務にも支障をきたすぞ」
テオドールは、純粋に心配をしてくれているようで、話してみてもいいかとバージルは考えた。
「いや、数日前から、見られてるみたいなんだよ」
「見られてるって、誰から?」
「それがわかってたらこんなに悩まない」
「お前に惚れたご令嬢かメイドあたりじゃないのか?」
「そんなかわいい理由なら大歓迎だ。黄色い声援なら、振り返れば顔ぐらい拝めるさ」
「ということは、それが誰なのか、何の為かもわからないってことか」
「視線を感じて振り返っても、周りを探しても、見つからない」
「まさかとは思うが、婚約者のいるご令嬢に手を出したりとかしてないよな?」
「やめてくれよ、若くして騎士団長になったお前みたいに、こっちはご令嬢には人気ないもんでね。その点は安心しろ」
相談にのっている長身の彼は、第二騎士団・騎士団長のテオドール・ジャンク、25歳。15歳で騎士団に入団し、17歳で一つの隊を任され、20歳で騎士団長になった。
ミルクティの様な茶色の髪に、若草の様な瞳は柔和な印象を与え、穏やかな印象ながらも見目麗しく、おまけに騎士団長で侯爵家嫡男となれば、結婚適齢期のご令嬢には優良物件である。
それに比べ、しがない子爵家の次男で、役職もない一般騎士であるバージル。
嫡男でない貴族子息の次男や三男は、次ぐ爵位がなければ、文官や騎士など、自身で身を立てる事を考えなくてはならない。
騎士は大抵、入団後5年から10年で、一つの小さな隊を任される隊長職に
くらいは就いている。
バージルの様に、10年経っても役職につかず一般騎士のままというのは、謹慎するほどの事や、何か荒事でも起こさない限り珍しい。
「まあ、何にせよ、気をつけるにこしたことはないな、何かあったらすぐ言え」
「せめてあと2、3年生きられたらいいかなって思ってる」
「身辺には気を付けとけよ、急に襲い掛かってくる事はないと思うが」
「へいへい」
後ろ手に、やる気なさげに手を振って、バージルは歩いていった。
バージルと別れたテオドールは、そのままの足で、騎士団の執務室へと向かった。
「おかえりぃ、テオ」
「トーマス、報告書できてるか?」
「机に置いといたよ、じゃあ僕、先に帰るけどいいかなぁ?」
「今日もお早いお帰りだな」
「可愛い奥さんが待ってるからねぇ。じゃあ、お先ぃ」
「ああ、お疲れ」
ゆるい話し方の、第二騎士団・副騎士団長のトーマス・ルノール。髪も瞳も濃い茶色の伯爵家次男。
テオドール、トーマス、バージルは学園でも、騎士団でも同期である。
テオドールが騎士団長に任命されると同時に、トーマスも副騎士団長に任命された。
面倒見のいいテオドール、人付き合いの上手いトーマスは、剣の実力も人望も申し分ない。
ただ、実のところは、剣の実力はバージルが一番なのだが、中々表に出そうとせず、他の団員達は知らない。
バージルは、戦略や頭の回転、機転のよさは、全ての騎士団員達の中でも群を抜く才があるのだが、これもまた隠している。
なぜ10年以上もの間、役職にも就かずいるのかといえば、彼は極端に出世欲がないのだ。
実戦でも策でも、手柄は他に譲り、自身は目立つ事なく過ごしている。
テオドールはぽつりと呟く。
「本当に面倒くさがりだな・・・アイツ」
執務室の窓から見える、第二騎士団の稽古場を眺めていたテオドール。
翌日に、そのバージルが稽古場で襲われる(?)事になるとは思っていなかった。
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