上 下
20 / 211

20、私はあなたを望まない

しおりを挟む
「ライアン殿下、マーガレットとカトレアには何度も会っておられたな?」

「ええ、こちらの王宮での茶会や夜会などで何度もお会いしてますよ。年々美しくなられて引く手数多でしょう?」

「まぁ、殿下はお世辞がお上手ですわ、ねぇ、マーガレットお姉様」

「ええ、ライアン殿下は令嬢みんなに優しいのだから」

「いやいや、本当の事しか言えないだけですよ」

「して、ライアン殿下は今回の滞在で、行きたい場所や見たいものはあるのか?」

国王が案内場所の詮索をする様に尋ねた。

「そうですね、こちらの国は繊維事業が盛んだと聞いてますので、技術や知恵などを勉強できたら嬉しいですね。ミーティア王女殿下との今後も考えて、教会やドレス、宝飾品など参考にできる店も見ておきたいですね」

「まぁ、ライアン殿下、ミーティアとそのようなお話まで進んでいるのですね!」

「ち、違いますわ、カトレアお姉様!」

「ミーティア王女殿下、そのように照れなくても良いのですよ?いずれ必要になる物ですし、今から考えておくのも悪くないでしょう?」

「わたくしは望んでおりませんわ!」

「まぁ、ミーティアよ、食事の場でそんなに声を荒げるな」

「そうですわよミーティア、淑女として恥ずかしいですわよ、ねぇマーガレットお姉様」

「そうよ、もっとお淑やかにしないと、ライアン殿下に嫌われますわよ?」

「べ、別に構わないわ!」

(もう、いや!早くここから去りたい)

俯くミーティアを心配そうに見つめるバージルであったが、それをライアンはしたり顔で見ていた。

「照れていらっしゃるようだ、そんなミーティア王女殿下もお可愛らしいですよ」

「・・・わ・・・わたくし、食欲がありませんわ・・・失礼します」

力なく呟くような声で言ったミーティアは部屋を出る。少し歩いた先の通路で苦しくて涙が出た。

「うっ・・・うっ・・・」

「ティア・・・」

「いつもそう・・・誰も助けてはくれない・・・止めてもくれない」

ミーティアは、バージルの腕の中にすっぽりとおさまるように体を預けた。

「なんでこんな事になるの・・・もう無理よ・・・」

「ティア、庭園に行こうか、少し話をしよう」

そう言うと、バージルはミーティアを抱き上げ、王宮の通路をゆっくり歩いた。

もう3月も終わろうとしているが、夜風は冷たい。

庭園のベンチにミーティアを乗せて座る。

二人はお互いの温もりを確かめるように、静かに抱き合った。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:353

冷徹義兄の密やかな熱愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:511pt お気に入り:1,233

離宮に隠されるお妃様

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:837pt お気に入り:153

巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:3,345

冷遇側妃の幸せな結婚

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,880pt お気に入り:7,244

処理中です...