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公爵令嬢ナディアに恋した伯爵令息

婚約破棄と見ていてくれた人

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「ナディア、君との婚約は破棄する。僕は守らなければならない女性ができた」


そう言い放ったのは、この国唯一の王子である王太子アルフレッド。


「婚約・・・破棄ですか・・・それは、カプリ男爵令嬢でございましょうか?」

「わかってるなら話は早い」

「私にお気持ちが向いていないのはわかっておりました。しかし、これまでの王太子妃教育に費やした時間は戻ってこないのですよ・・・カプリ男爵令嬢がこれからそれを行うなど・・・大丈夫でしょうか?」

「心配はいらん。ソフィアは優秀だ。そんな言い訳を使ったところでこの話は覆らん」

「陛下はこの事をご存知なのですか?」

「問題ない。ソフィアなら受け入れられるだろう」

「そうですか・・・わかりました。そこまでおっしゃるなら、そのように」

「正式な手続きは追って連絡する」

「では、失礼します・・・」


アルフレッドとの話を終えたナディアは、力のない足取りで庭園に来ていた。



(アルフレッド様と初めてお話したのは、この庭園で開かれたお茶会だったわ・・・まだお互い10歳・・・あれから7年、辛かった王太子妃教育にも必死に耐えてきたわ。私の7年はなんだったの・・・)



「ナディア様?」

「・・・マルクス様」

「泣いて・・・おられるのですか?」

「っ・・・すみません・・・お恥ずかしいところを」

「恥ずかしくなどありませんよ。誰しも涙することはあるものです。良ければお話聞かせてもらえませんか?」


声を掛けてきたのは、アルフレッドの側近で、伯爵令息のマルクス・エレノス。宰相の息子である。


「お構いなく・・・目に、ゴミが入ってしまっただけですわ」

「・・・あなたって人は・・・はぁ・・・王太子妃教育を長年こなされてきたあなたが、目にゴミが入ったくらいで、感情が表に出るような事はないと思いますが?・・・これでも長年、あなたを見てきたのです。そのくらいわかりますよ?」

「・・・マルクス様・・・」

「何があったんです?そこまで感情的になられる事があったのでしょう?王太子殿下が原因ですね?」

「・・・お見通しですね・・・婚約破棄を・・・言い渡されました」

「・・・チッ・・・あいつは馬鹿なのか?・・・いや、これは・・・好機か・・・」


聞こえるか聞こえないか、小さな声でマルクスはつぶやいた。


「マルクス様?何かおっしゃいまして?」

「あっ、いえ、何も」

「?」

「しかし、あなたには何の落ち度もない。ナディア様はお美しくて聡明であられる。これからいくらでもお声がかかりますよ。あんな馬鹿な王太子なんて忘れてしまえばいいんです」

「ふふっ、マルクス様、不敬罪に問われてしまいますわ」

「あなたは優しい・・・自身が傷つけられたというのに、私の心配をしてくださる。まるで女神様だ」

「大袈裟です・・・女神様に申し訳ありませんわ」

「大袈裟なんかではありませんよ・・・私には・・・そうですね・・・ナディア様、毎日、花を贈らせてください」

「そんな、頂くわけには」

「いいえ、私の身勝手なわがままです。王太子殿下によって傷つけられたあなたの癒しに・・・少しでもなればと思います」

「・・・マルクス様」


その後、ナディアは屋敷に戻ると、公爵家当主である父に事の次第を話した。


「そうか・・・まぁ、お前が王太子殿下のお心を繋ぎ止める事ができなかったという事だな。しばらくゆっくり休みなさい」


そう強くない口調で話す父だったが、その言葉には優しさは感じられなかった。



(きっと王家との縁がなくなって、悔やまれていらっしゃるんだわ・・・私は政略結婚の駒にすらなれなかった女なのね・・・)



ナディアは部屋に戻ると、静かに涙を流した。気付けば眠っていたようで、外は薄暗くなっていた。ふと廊下に出ると、遠くで声がした。


「まぁ・・・なんて事・・・王太子殿下との婚約が破断なだんて広まったら、いい縁談は望めなくなるかもしれないわ」

「そうだな・・・話はすぐに広まるだろう・・・まともな貰い手は見つからんかもしれんな」

「どこかの後妻か・・・嫁を欲しがっている家があればいいのですが・・・」

「まだ16ではあるが、急いで探さんと年齢が増すにつれて難しくなるぞ」



(・・・私は・・・厄介者の娘なの?邪魔・・・なのね・・・)



その日は自室から出ることはなく、泣き疲れて眠りについた。





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次回

この恋に気付いて・・・?

勘違いはいけないわ


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