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純情令息とお転婆公爵令嬢
古びたハンカチ
しおりを挟むエミリアが落ち着くまで静かに二人で月を眺めていた。ふとエミリアが話し出す。
「夜会での発表は驚きましたわ」
「そうだな・・・辛い思いをしたな・・・」
「いいえ、もう大丈夫ですわ!それより聞いてくださる?」
「なんだ?」
「私、公爵令嬢でしょう?」
「あぁ」
「爵位のせいで皆が私と一線を引いていたわ・・・友達も、本当の意味で親しくなれた方はいないかもしれないわ・・・そんな中、バージルだけが私の事を普通に扱ってくれた・・・変にへり下ったりせず、気を使わず・・・あまりいい扱いではなかったのだけれど、それでも嬉しかった・・・でも、私の事、ガサツとか凶暴とか、女じゃないとか言うのよ!」
「くくっ、それは酷いな・・・」
「でしょう?だからいつも、一発殴ってやろうと追いかけ回すのだけれど、追いつけないし、結局仕返しできず終いよ」
「ふっ・・・あんな奴・・・殴る価値もない」
「え?」
「君が痛い思いをする必要はないという事だ。殴った方ももちろん痛みはあるからな」
「・・・まぁ、確かにそうかもしれないわ」
「あぁ、君の手に傷がついたら大変だ」
「そのくらい別にいいわ」
「いや、良くない」
「別に傷くらいかまわない。どうせガサツな女を娶りたいなんて物好きいないわ」
「いる」
「え・・・?」
「ここにいる」
「セシル・・・様?」
「俺が貰い受けたい」
「何を・・・セシル様、お優しいのですね。勘違いしてしまいますわ」
「勘違いではない」
「・・・?」
「・・・」
「セシル様?」
「・・・剣術大会で、俺はあいつに負けた。怪我を負って気落ちして・・・木陰で反省していた。そんな俺に声をかけて傷の手当てをしてくれた。それでも凄いと褒めてくれた。あれがどれだけ嬉しかったか・・・救われたか・・・」
セシルはポケットから、古びたハンカチを出した。
「それ・・・」
「あぁ、君は俺の傷の手当てをして、これを巻いてくれた」
「じゃあ、あの時の・・・」
「思い出してくれたか?戦いに出るたびにお守りに持って行っていたから、ボロボロになってしまったな・・・」
「そう・・・なのですか・・・」
「こんなチャンスはもうないだろうからな・・・俺は洒落た事もできん・・・傷付いた君の弱みにつけ込むようで格好悪いが・・・君が好きだ。10年、片想いをしていた」
「・・・」
「一方的に気持ちを伝えただけだ。忘れてくれ、俺は行く」
セシルはその場を立ち去った。エミリアは、その後どうやって屋敷に戻ったか思い出せないほど上の空だった。気付けばいつのまにか自室の寝台にいた。セシルは辺境に戻り、変わらない日々を過ごしていた。早朝の鍛錬を行い、執務をし、午後から騎士達の稽古をつける。
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次回
このくらいどうってことない!
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