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突然告げられる
しおりを挟む「お嬢様、旦那様がお呼びです」
昔から我が家に使える執事が恭しく頭を下げながらそう言った。普段差程興味がなさげである父が、急に何の用だと言うのだろうか。もしかすると、待ち望んでいた王太子の婚約者に決まったという話かもしれない。侯爵令嬢であるスティファニアは足取り軽く、しかしまわりには悟られないように静かに廊下を進んだ。
「入れ」
ノックをすると、どれぐらいぶりだろうか、久しぶりに父の声を聞いた。
「失礼します」
スティファニアは執事に促され、父の執務室へと足を踏み入れる。ここに入ったのもどれぐらいぶりだろうか。覚えていないほど昔かあるいは数えるほどしか来たことがないからだろうかなどと思案する。
「座れ」
父である侯爵に、執務室にあるソファの向かいに促され、静かに腰をおろす。これが娘に対する態度だろうか。そのような事を考えながら、父の顔をじっと見つめる。その口から何を話すつもりでいるのか、様々な憶測を立てながら。
「スティファニア、お前の嫁ぎ先が決まった」
「嫁ぎ先・・・ですか?」
父の口からから予測していなかった言葉が飛び出した。嫁ぎ先。そう言われて、王太子の婚約者などと話が結びつくだろうか。否。どちらかといえば、すぐにでも結婚、しかも政略結婚の相手がいるとしか思えない言葉。幼い頃から待ち望んでいた王太子の婚約者の座。嫁ぎ先という言葉に、その夢がもろくも崩れ去った事をスティファニアは悟った。そして絶望した。
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