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Introduction

プロローグ

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 昏き森の奥深く。

 昏き館の地下深く。

 毎夜毎夜、聞こえてくるは、淫靡に絡み合う、苦虐と悦楽の漏れ声。

 氷壁の如き冷たさを放つ氷結玄武岩を加工して設えられた館の、陽の光の欠片すら届くことのない地の底の一室で。

 今宵も、貧しく憐れな少年が、森に守護されし地を領する絶対主の慰み者として、凌辱の憂き目に遭っている。

「うっ……く……っ」

 凍てつくような冷気が薄く漂う地下室には、両の手首を鎖環で繋がれた少年が、一糸まとわぬ姿で幽閉されている。
 手首に巻き付いた鎖は冷やりとした壁と係属されていて、少年がその部屋から抜け出ることを断固として禁じている。

「未だに、捨てきれぬというのか?」

 その少年へと声を掛けるのは、館の主である、亭々たる長躯の貴人。

「その強情、いつまで持つかな?」

 紅の混じった漆黒の長髪を翻して、冷え冷えとした壁に拘禁している裸身の少年へと近付いていく。一歩、床を踏むごとに、靴の革が立てる甲高い靴音が高い天井へと木霊する。
 天鵞絨びろうどの外套を羽織った絢爛なる着衣、麗人の妖艶さを思わせる超越的な美貌、それらを内包して総身より漏れ出ずる圧倒的な闇の雲気を滾らせて、主は布一枚すらも纏っていない幼き捕囚の少年の眼前に聳立する。

「お、おれは……」
「ん?」
「お前みたいな……奴には、ぜったい……」
「屈さぬ、とでも言うのか?」

 艶美なる館の主は、白き手套を嵌めた右手の指先を、まだ童子の面影を残す少年の細い顎許へと添え、壊れやすい硝子細工を敢えて乱暴に取り扱うような手付きで上方へと傾けさせる。

「んん……っ!」

 抵抗の念を強く誇示する少年の唇を己がそれで塞ぎ、そして口許を、ゆっくりと左斜め下へと降下させていく。

「や、やめろ……」
「受け入れるが良い。それで、楽になれるのだぞ?」
「や、やめ……っ、ろ……」

 剥き出しの肌。土と麦穂の香りが染みついた貧農の肉体に、ぬらぬらとした舌先を滑らせる。

「苦しむこともない。嘆くこともない。お前が望んだこと。こうなることを、あの時、お前が望んだのだ」
「や……っ、やめ……」
「人を捨てると、お前は誓ったのだ……あの時。今さら、何にしがみついて、何を惜しんで、俺の血を拒むというのだ?」
「うあ……っ、ああっ、ああああああ!」

 そして。

 牙は立てられる。

 少年の、細く、柔らかな、首筋の肉……そこに流れる外頸動脈へと。

 夜毎、繰り返される、苦痛の真紅に彩られた漆黒の快楽――。
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