16 / 51
第一話「月の光と胸の痛み」
016.はじめての胸の痛み(3)
しおりを挟む
「そろそろこの街を出るか」とクルトが言った時、もうマーヤでの日々は三週間が過ぎていた。この宿屋にもすっかりなんじんでいたから、ちょっとさみしいと感じたのは内緒だ。
「金もだいぶ溜まったし、路銀は問題ないだろう」
クルトはベッドにどさりと腰を下ろすと、ジャケットを脱ぎ枕のあたりに放った。お布団ににょーんと伸びる私を抱き上げ膝に乗せる。
「三日後の朝にはマーヤを出よう。ルナ、何か欲しいものはなかったか? 明後日鍛冶屋に行くつもりなんだ。その後お前の好きなところに連れて行く」
最近どうも杖の調子がおかしいんだそうだ。調整が無理なら新しいものを買うつもりだと言う。私はしばらく考えて首を振った。
『……なんにもにゃい』
「ウサギの干し肉でも、鶏肉のくんせいでも、川魚の煮干しでもいいぞ? 赤いリボンとか首輪なんかは……お前は首に巻くのが苦手だしな」
クルトはちょっと残念そうだ。私はやっぱり「いい」と首を振った。クルトはいつもと違う私が気になったのだろうか。「ルナ」と私の脇に手を差し入れ、ゆっくりと目の前にまで持ち上げる。クルトの青空色の目がすぐ近くになった。
「どうしたんだ? 最近元気ないな」
『……』
「悩みがあるなら俺に言ってみろ」
私はなんだか腹が立って、ぷいとそっぽを向いた。
「ルナ?」
『言えないし、言わにゃいもん』
「……え?」
クルトの表情が、身体がぴきっと凍り付く。私は一瞬「みゃ!?」とひるんだ。ショックを受けた顔は初めて見たからだ。それでも私は目を逸らしながらも、ありのままの思いを伝える。
『く、クルトに秘密があるみたいに、私にも秘密があるの。もう子猫じゃないんだもん……』
それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。クルトがずっとしゃべらなかったので、私はおそるおそる逸らした目をもとに戻した。クルトはまだ凍り付いている。だ、だいじょうぶなんだろうか。まさかずっとこのままじゃ……。
『く、クルト?』
クルトは私の呼ぶ声にはっとなり動き出す。
「そうだな……」
クルトの声は少しだけ、ほんの少しだけど寂しそうだった。私を膝に置き頭に手を乗せる。
「確かにお前ももう一歳なんだから、言えないことの一つや二つあるだろう」
クルトは「当たり前だな」と苦笑して私をベッドに下ろした。
「寝るぞ」
シーツをめくり、私に早く入れと促す。
『け、けど』
「お前は寒がりだろう?」
私は戸惑いながらも「う、うん」と頷き、クルトの胸のそばで丸まった。
その夜は目が冴えて夜が明けるまで眠れなかった。クルトのあの声が耳から離れなかったからだ。
「金もだいぶ溜まったし、路銀は問題ないだろう」
クルトはベッドにどさりと腰を下ろすと、ジャケットを脱ぎ枕のあたりに放った。お布団ににょーんと伸びる私を抱き上げ膝に乗せる。
「三日後の朝にはマーヤを出よう。ルナ、何か欲しいものはなかったか? 明後日鍛冶屋に行くつもりなんだ。その後お前の好きなところに連れて行く」
最近どうも杖の調子がおかしいんだそうだ。調整が無理なら新しいものを買うつもりだと言う。私はしばらく考えて首を振った。
『……なんにもにゃい』
「ウサギの干し肉でも、鶏肉のくんせいでも、川魚の煮干しでもいいぞ? 赤いリボンとか首輪なんかは……お前は首に巻くのが苦手だしな」
クルトはちょっと残念そうだ。私はやっぱり「いい」と首を振った。クルトはいつもと違う私が気になったのだろうか。「ルナ」と私の脇に手を差し入れ、ゆっくりと目の前にまで持ち上げる。クルトの青空色の目がすぐ近くになった。
「どうしたんだ? 最近元気ないな」
『……』
「悩みがあるなら俺に言ってみろ」
私はなんだか腹が立って、ぷいとそっぽを向いた。
「ルナ?」
『言えないし、言わにゃいもん』
「……え?」
クルトの表情が、身体がぴきっと凍り付く。私は一瞬「みゃ!?」とひるんだ。ショックを受けた顔は初めて見たからだ。それでも私は目を逸らしながらも、ありのままの思いを伝える。
『く、クルトに秘密があるみたいに、私にも秘密があるの。もう子猫じゃないんだもん……』
それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。クルトがずっとしゃべらなかったので、私はおそるおそる逸らした目をもとに戻した。クルトはまだ凍り付いている。だ、だいじょうぶなんだろうか。まさかずっとこのままじゃ……。
『く、クルト?』
クルトは私の呼ぶ声にはっとなり動き出す。
「そうだな……」
クルトの声は少しだけ、ほんの少しだけど寂しそうだった。私を膝に置き頭に手を乗せる。
「確かにお前ももう一歳なんだから、言えないことの一つや二つあるだろう」
クルトは「当たり前だな」と苦笑して私をベッドに下ろした。
「寝るぞ」
シーツをめくり、私に早く入れと促す。
『け、けど』
「お前は寒がりだろう?」
私は戸惑いながらも「う、うん」と頷き、クルトの胸のそばで丸まった。
その夜は目が冴えて夜が明けるまで眠れなかった。クルトのあの声が耳から離れなかったからだ。
5
あなたにおすすめの小説
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる