義弟の卒業~過保護な義姉さん押し倒される~

東 万里央(あずま まりお)

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そうだ、結婚しよう(9)

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 薫のキスとセックスはどちらも激しい。すべてを食らい尽くすかのように、その日も何度も容赦なく貪られ、真琴は息も絶え絶えに涙目で薫を見上げた。

「か、おる。お願い……。もっと優しく……」

「そんな顔をする真琴が悪いんだよ」

「ああっ……」

 続け様に最奥を強く抉られ、白い喉を仰け反らせる。

(死んじゃう……。このままじゃ、死んじゃう)

 下腹部から脳髄までが薫の熱に侵され、それ以外を何も感じられなくなっている。

(こ、わい……怖い……)

 真琴にとってセックスとは快楽を得られる以上に、愛する男への思いを確かめられる行為だった。だが、薫とのそれは暴力的なまでにただ感じさせられるだけだ。身も心も屈服させようという執拗な意志が真琴の心身を暗く苛んでいた。

(もう、やだ……。怖い……)
 
 この半年で繰り返し体を重ねたからか、薫は真琴の微妙な体調や心境の変化を、肌に触れれば感じ取れるらしい。

「真琴、俺を見てよ」

 瞼をかたく閉じた真琴を見下ろし、苦笑しながらあやすように頬を撫でた。

「そんなに俺が怖い? なら、こうしようか」

 細い体を腕の中で半転させ背から伸し掛かる。

「これなら顔を見ずに済むだろう」

「んっ……」

 確かに涼しげな目元は見えなくはなったが、感覚がより敏感になっただけだった。

 一旦引き抜かれていた薫の分身が、今後は腰を持ち上げられたかと思うと、背後からぐっと押し込まれる。

「あ、あっ……」

 すっかり薫の熱に慣らされた真琴の蜜口は、隠微な音を立てて容易くそれを飲み込んでしまった。

「い、いやぁ……」

 回された手で胸を強く、弱くと揉み込まれ、喉の奥から熱い吐息を漏らす。指先できゅっと頂を摘ままれると、首筋にピリリとした痺れが走り、つい「あっ」と喘ぎ声を上げてしまった。

(ど……して、感じちゃうの)

 羞恥心と罪悪感がより体を刺激するのだろうか。真琴は枕に頬を押し当てて声もなく涙を流し、薫に与えられる責めを耐えるしかなかった。

 肌に食い込んだ薫の爪が紅い痕を作る。

「真琴、昔の写真では髪が長かったよな。どうして切ったんだ?」

「……」

 真琴にはすでに答えるだけの気力がなかった。

 それでも、髪を伸ばしていた頃の、無邪気な少女時代が一瞬脳裏を過った。

 和歌子が家を出て行くまでは、真琴の髪は母親と同じく長く、背の中ほどまであった。鳶色の艶やかさを我ながら気に入っていた。

 だが、父と二人きりとなってからは、大切に手入れをしてきた髪を、心残りがありながらも切るしかなかった。裏切った元妻そっくりの娘を見るたび、その目が苦しそうに背けられたからだ。髪型を変えて別人だと認識させたかった。

 美容師に「これも女の子らしいよ」と勧められ、現在の髪型にしてもらったのは十二歳の頃。そして、真之が亡くなった今でも、少々長めのボブヘアのままだ。

「せっかく綺麗な髪なんだから伸ばせばいいのに」

 不意に腰が引かれたかと思うと、今度はズンと奥深くまで征服され、真琴は喘ぎながら拳を握り締めた。

「ああ、でも、今のままの方がいいか。真琴がこれ以上綺麗になったら困る。俺以外の男の目にもう留まってほしくはない」

 薫の屹立の圧迫感に耐えながらクッションの端を掴む。

「か……おる……。もう、やめて……。お願い……」

 だが、薫は絶妙な位置から真琴の胎内を巧みに揺すぶった。

「あんっ……」

 意図せずして甘い声がリビングに響き渡る。
 
「なあ、真琴。真琴は、俺がいつか真琴に飽きて、別れるのを狙っているだろう?」

――図星だった。

 義弟の洞察力が空恐ろしくなり、束の間だが正気が戻った。

「そんな、ことは……」

「だから、婚約に留めておいたんだろう? 生憎だけど、ありえないよ。随分舐めてくれるな」

 どこが弱く、どうすれば感じて、達して、屈するのか、薫はすでに本人以上に真琴の体を知り尽くしていた。

 分身が一気に引き抜かれたかと思うと、また深々と根本まで埋め込まれ、言い訳が体の奥から沸き起こる快感に曖昧になってしまう。何度も雄の熱を放たれたそこは、ねばついた光を放つほどぬかるんでいた。

「ごめん……。ごめんなさい……。お願い、もう……許して……。ああっ」

 真琴はやはり悟られていたのかと、徐々に遠のく意識の中で、心が絶望に染まるのを感じていた。

 人生は何年もあり、若い時はそう長くはない。そして、人とは飽きて忘れる生き物だ。

 薫も自分を抱くだけ抱いて熱が冷めてしまえば、別の女性に目が向くだろうと考えていた。たまたま初恋の相手が義姉で、告白しにくかったので思いが募ったのだろうが、恋はいずれは終わるものなのだから。

 だから、早々の入籍をどうにか回避しようと、婚約期間を一年設けようと提案したのだ。

 薫は微笑みながら「いいよ」と二つ返事で頷いた。これで逃げられるかもしれないと胸を撫で下ろした真琴は、直後に墓穴を掘ったのだと凍り付くことになった。

『その代わり、一緒に金沢に来るんだ。八ヶ月も真琴を一人にしておくなんて冗談じゃない。婚約なんていつでも破棄できるし、心変わりなんてされたらたまらない。いいな?』

 薫の言葉には法律的な強制力があるわけではない。なのに、ひたすら薫が恐ろしく、嫌だとは言えずに逆らえなかった。

 熱と狂気を孕んだ眼差しが真琴を見下ろす。

「アフターピルは七十二時間以内でなければ効果がないんだよな。ピルも、飲む暇がないなら避妊にならない。なら……いっそ妊娠するまで閉じ込めておこうか。なあ、真琴……」

「……」

 だが、真琴にはもうそれに応えるだけの力はなかった。

 どうしてこんなことになってしまったのか、いくら考えてもわからなかった。

 薫が無事に卒業し、独り立ちをしてしまえば、ようやく和歌子の呪いから解放されて、自分の人生を歩く資格ができる気がしていた。だが、現実はこうして薫の腕の中に囚われ、身動きすらできずに犯されている。

「母さんも死んだ俺の父親をずっと怖がっていたよ」

 愛おしげに真琴のうなじに口付けながら、薫は薄い笑みを浮かべてこう呟いた。

「……ひょっとすると義父さんと母さんは、あいつの悪霊が嫉妬して取り殺したのかもしれないな」

 だが、真琴の耳にもはやその言葉は届かなかった。

『改めて卒業おめでとう!』――あの日笑ってワインを口にした思い出が、義弟としての薫との最後の記憶だった。
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