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本編
王女様救出大作戦!(3)
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アト子様の部下いわく、結界とは魔術で作り上げた空間領域らしい。
結界内では魔術師の設定した法則が適用される。例えば炎の魔術を水の魔術で相殺するとか、自分以外は誰も立ち入れないようにするとか、あるいは誰が立ち入ったかすぐにわかるとか、用途は魔術師によって様々らしい。また、効果は魔術師の魔力量と技量に左右される。
「リンナの王宮には衛兵による警備だけではなく、全体的に結界が張られています」
そこで早速結界の法則を調査したところ、「一定以上の大きさで、魔力を持った存在が結界内に足を踏み入れた途端、感知して魔術師に連絡が行く」というシステムになっていたのだとか。その結界が網の目のように張り巡らされているらしい。
この術式は複雑で、相当実力のある魔術師でなければできない。アト子様も部下も一体誰の仕業なのかと首を傾げているのだそうだ。つい最近までリンナにはそれだけの魔術師はいないはずだった。
なるほど、王宮全体が魔力の赤外線センサーで警備されているみたいなものね。この世界の人間は大なり小なり全員魔力を持っているところを利用したんだ。そして、私ならその魔力センサーに引っ掛からない大きさということか。
「先の大戦中には、猫族はその小ささと魔力が表に漏れにくいことを利用し、間諜として利用されたはず。奥様でしたら王宮に潜入し、マリカ様の情報を掴めるのではないかと……」
マリカ様がカイに王宮に連れ込まれたことは確実らしい。まず、マリカ様がどこにいてどんな状況なのか知りたいのだそうだ。
うん、まさしく確かに私にしかできないじゃない!?
ところが、アト子様が「却下だ」と一言で切り捨ててしまう。アト子様らしくもない感情的な態度だった。
「冗談ではない。お前は、アイラをなんだと思っている」
いや、そりゃ猫でしょと突っ込もうにも突っ込めない。アト子様が本気で怒っていたからだ。
「ですが、副総帥……」
「なんと言おうと却下だ。この作戦における指揮官は私だ」
低く重い声には有無を言わせぬ迫力があって、部下の魔術師もすぐに「申し訳ございません」と謝り、私がスパイになる話はそこで終わった。
でも、結局うまく王宮内に潜入する方法が見つからず、明日改めて私をカレリアに戻してから、作戦を立て直そうということになったらしい。
その夜、私はアト子様からアトス様へと戻った旦那様と、王都内の宿に泊まることになった。
アトス様は人間に戻った私を、ベッドの中で抱き締めて離さなかった。夜更けになってようやく眠ったのを見計らい、猫に変身してその腕からするりと抜け出す。
案の定私を逃がすまいとして、窓にも扉にもしっかり鍵が掛けられている。
けれども、抜け道が一つだけあった。ベッドの下に潜り込んでニヤリと笑う。
アトス様は人間だから気付かないけど、猫視点だとベッドのヘッドボードがくっついている壁の下側に、拳二つ分くらいの穴が空いているのよね。猫なら十分潜れる大きさだから、まずは隣の部屋へ抜け出そうと思ったのだ。
幸い、隣の部屋に泊まっていた親子連れはぐっすり眠っていた。人間に戻って「お邪魔しました~」と頭を下げつつ廊下へ出る。
また猫になって玄関まで来たところでぎょっとした。昼間にアトス様といた部下の魔術師が、腕を組んで扉近くにもたれかかっていたからだ。
「ニャ、ニャ、ニャ……」
なんであんたがこんなところにいるの!?と聞く前に、部下の魔術師が「やはり行くつもりですか」と苦笑した。
「副総帥が言っていた通りだ」
と言うことは、アトス様は私が取るであろう行動なんて、とうのとっくにお見通しだったわけですか!
アカン、部屋に連れ戻されるとがっくりしていると、部下の魔術師は私の前で腰を屈めて顔を覗き込んできた。
「奥様は不思議な女性ですね。副総帥ほどの方と結婚されたのですから、屋敷で贅沢三昧の暮らしをするだけでいいでしょう。地位ある男性の奥方は皆そうしている」
と言われても、贅沢にはまったく興味がないしね。ドレスとか宝石をもらったところで、まさに猫に小判状態だもの。私が望むものはチキンジャーキーと、チキンジャーキーと、チキンジャーキーなのだ!
「なのに、なぜ危険な役目をみずから買って出ようと言うのですか?」
これはちゃんと答えるべきだと感じ、私は人間に戻って魔術の顔を見上げた。
「あのね、私はアトス様と結婚して可愛がられて……それだけでいいって思えないの」
前世で社畜であった頃の記憶が蘇る。そう、毎日苦しいくらい働きながら、私はいつも自分に、神様にそれを問い掛けていた気がする。
「誰かの、何かの役に立ちたいの。……そうすることで自分を認めてあげたいの。私がこの世界に、私として生まれた意味が欲しいの」
――私はどうして生まれたの?
今の私になってもその思いは変わっていない。
生まれながらに高い魔力を持って皆に尊敬され、エリート街道まっしぐらの魔術師にはわからないかもしれない。でも、それでもわかってほしくて私は必死になって訴えた。
「そんな理由じゃいけない? お願い、見逃して。それに、こうやってグズグズしているうちに、マリカ様だってどうなるかわからない。私にしかできないんでしょう!?」
マリカ様は確かにどSなワガママ王女よ。だからってひどい目に遭っていいわけがない。
部下の魔術師は黙って私を見つめていたけれども、やがて溜め息を吐いてすっと横へ退いた。
「奥様のおっしゃることはさっぱり理解できません。ですが、私もマリカ様をお救いしたいので……」
アトス様に解雇され、撲殺される覚悟はできていると、部下の魔術師は呟いた。
「……ありがとう!」
私は扉を開けて外に飛び出ると、獣化して王宮に向かって駆け出す。
さあ、これは絶対に失敗はできないわ。マリカ様の命だけではなくて、部下の魔術師のクビも預かったんだからね!
結界内では魔術師の設定した法則が適用される。例えば炎の魔術を水の魔術で相殺するとか、自分以外は誰も立ち入れないようにするとか、あるいは誰が立ち入ったかすぐにわかるとか、用途は魔術師によって様々らしい。また、効果は魔術師の魔力量と技量に左右される。
「リンナの王宮には衛兵による警備だけではなく、全体的に結界が張られています」
そこで早速結界の法則を調査したところ、「一定以上の大きさで、魔力を持った存在が結界内に足を踏み入れた途端、感知して魔術師に連絡が行く」というシステムになっていたのだとか。その結界が網の目のように張り巡らされているらしい。
この術式は複雑で、相当実力のある魔術師でなければできない。アト子様も部下も一体誰の仕業なのかと首を傾げているのだそうだ。つい最近までリンナにはそれだけの魔術師はいないはずだった。
なるほど、王宮全体が魔力の赤外線センサーで警備されているみたいなものね。この世界の人間は大なり小なり全員魔力を持っているところを利用したんだ。そして、私ならその魔力センサーに引っ掛からない大きさということか。
「先の大戦中には、猫族はその小ささと魔力が表に漏れにくいことを利用し、間諜として利用されたはず。奥様でしたら王宮に潜入し、マリカ様の情報を掴めるのではないかと……」
マリカ様がカイに王宮に連れ込まれたことは確実らしい。まず、マリカ様がどこにいてどんな状況なのか知りたいのだそうだ。
うん、まさしく確かに私にしかできないじゃない!?
ところが、アト子様が「却下だ」と一言で切り捨ててしまう。アト子様らしくもない感情的な態度だった。
「冗談ではない。お前は、アイラをなんだと思っている」
いや、そりゃ猫でしょと突っ込もうにも突っ込めない。アト子様が本気で怒っていたからだ。
「ですが、副総帥……」
「なんと言おうと却下だ。この作戦における指揮官は私だ」
低く重い声には有無を言わせぬ迫力があって、部下の魔術師もすぐに「申し訳ございません」と謝り、私がスパイになる話はそこで終わった。
でも、結局うまく王宮内に潜入する方法が見つからず、明日改めて私をカレリアに戻してから、作戦を立て直そうということになったらしい。
その夜、私はアト子様からアトス様へと戻った旦那様と、王都内の宿に泊まることになった。
アトス様は人間に戻った私を、ベッドの中で抱き締めて離さなかった。夜更けになってようやく眠ったのを見計らい、猫に変身してその腕からするりと抜け出す。
案の定私を逃がすまいとして、窓にも扉にもしっかり鍵が掛けられている。
けれども、抜け道が一つだけあった。ベッドの下に潜り込んでニヤリと笑う。
アトス様は人間だから気付かないけど、猫視点だとベッドのヘッドボードがくっついている壁の下側に、拳二つ分くらいの穴が空いているのよね。猫なら十分潜れる大きさだから、まずは隣の部屋へ抜け出そうと思ったのだ。
幸い、隣の部屋に泊まっていた親子連れはぐっすり眠っていた。人間に戻って「お邪魔しました~」と頭を下げつつ廊下へ出る。
また猫になって玄関まで来たところでぎょっとした。昼間にアトス様といた部下の魔術師が、腕を組んで扉近くにもたれかかっていたからだ。
「ニャ、ニャ、ニャ……」
なんであんたがこんなところにいるの!?と聞く前に、部下の魔術師が「やはり行くつもりですか」と苦笑した。
「副総帥が言っていた通りだ」
と言うことは、アトス様は私が取るであろう行動なんて、とうのとっくにお見通しだったわけですか!
アカン、部屋に連れ戻されるとがっくりしていると、部下の魔術師は私の前で腰を屈めて顔を覗き込んできた。
「奥様は不思議な女性ですね。副総帥ほどの方と結婚されたのですから、屋敷で贅沢三昧の暮らしをするだけでいいでしょう。地位ある男性の奥方は皆そうしている」
と言われても、贅沢にはまったく興味がないしね。ドレスとか宝石をもらったところで、まさに猫に小判状態だもの。私が望むものはチキンジャーキーと、チキンジャーキーと、チキンジャーキーなのだ!
「なのに、なぜ危険な役目をみずから買って出ようと言うのですか?」
これはちゃんと答えるべきだと感じ、私は人間に戻って魔術の顔を見上げた。
「あのね、私はアトス様と結婚して可愛がられて……それだけでいいって思えないの」
前世で社畜であった頃の記憶が蘇る。そう、毎日苦しいくらい働きながら、私はいつも自分に、神様にそれを問い掛けていた気がする。
「誰かの、何かの役に立ちたいの。……そうすることで自分を認めてあげたいの。私がこの世界に、私として生まれた意味が欲しいの」
――私はどうして生まれたの?
今の私になってもその思いは変わっていない。
生まれながらに高い魔力を持って皆に尊敬され、エリート街道まっしぐらの魔術師にはわからないかもしれない。でも、それでもわかってほしくて私は必死になって訴えた。
「そんな理由じゃいけない? お願い、見逃して。それに、こうやってグズグズしているうちに、マリカ様だってどうなるかわからない。私にしかできないんでしょう!?」
マリカ様は確かにどSなワガママ王女よ。だからってひどい目に遭っていいわけがない。
部下の魔術師は黙って私を見つめていたけれども、やがて溜め息を吐いてすっと横へ退いた。
「奥様のおっしゃることはさっぱり理解できません。ですが、私もマリカ様をお救いしたいので……」
アトス様に解雇され、撲殺される覚悟はできていると、部下の魔術師は呟いた。
「……ありがとう!」
私は扉を開けて外に飛び出ると、獣化して王宮に向かって駆け出す。
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