57 / 66
本編
そんニャこんニャで大団円(3)
しおりを挟む
――私はミルヤ。
猫族の純血種の一族、誇り高きペルシャン族最後のいっぴ……一人にして長の一人娘。
ペルシャン族は猫族と長毛種であることにこだわり、数百年間深い森に籠もって、かたくなに外の血を入れなかったの。だから、血がだんだん濃くなったんでしょうね。なかなか子猫……子どもが生まれなくなっていた。生まれても体が弱くて、長く生きられない子が多かったわ。私たちは年ごとに生息数……人口を減らしていった。
その上二十八年前、私たちが住んでいた森が一晩で洪水に飲まれ、一族はたまたま外に出ていた私いっぴ……一人を残して全滅してしまったの。でも、洪水がなくても五十年もしないうちに、ペルシャン族は滅んでいたと思う。早いか、遅いかの違いでしかなかった。
私は突然独りぼっちになって途方に暮れたわ。それまでは森での暮らししか知らなかったから。でも、水に浸かった地に住めるはずもなく、尻尾……後ろ髪を引かれながらも故郷を離れるしかなかった。
人間の世界は恐ろしいところだった。猫の姿でも人間の姿でも、「キャー、可愛い!」「うおっ、美女だ!」と感動されて、連れ去られそうになるんだもの。相手が男でも女でも、大人でも子どもでも、善人でも悪人でも、私は見ず知らずの誰かに触れられたくはなかった。飼い猫になるのも妻になるのも愛人になるのも冗談じゃなかった。私は私のものでありたかった。自由でいたかったの。
だから、王都へ向かってカレリア国王に保護を求めた。ペルシャン族には代々、「危機に陥った時には国王に保護を求めよ」、という口伝があったから。
純血種の猫族とは初対面だったみたいで、当時の陛下はそれは驚いていらしたわ。その時までまったく知らなかったんだけど、世界にはもう純血種どころか、変身できる獣人すら少なくなっていて、私はとんでもなく貴重な存在になっていたから。特に猫族のメス……女性は男性の垂涎の的になっているそうだった。陛下は「先祖代々からの獣人との約束だから」、と私を快く保護してくださった。
陛下は猫の私を撫でて感動されていた。なんでも、陛下は獣人ではない普通の猫に触ると、体中にブツブツが出て痒くなるだけではなく、咳が出て止まらなくなるそうなの。「大の猫好きなのにこんな体質ひどい」と、臣下から飼い猫自慢をされるたびに、夜ベッドの中でハンカチを噛み締めていたらしいわ……。けれども、獣化した私なら大丈夫だった。
陛下は私をそれは可愛がってくださった。……文字通り猫的な意味で。私が陛下の前で人間の姿になったのは一、二回かしらね。でも、人間の私にはまったく興味がないみたいだった。
陛下は膝の上に私を載せてモフりながら、「こんなに幸せな日々があっていいのか」と、毎日壁に向かってブツブツ呟かれていたわ。私もこんなに大切にしてくださるのなら、ずっと猫のまま、陛下の飼い猫になるのも悪くはないかと思い始めていた。
でも、私はヴァルトに出会ってしまったの。
初めて彼を見た時には男のくせに髪が長いわ妙に色白だわで、なんだかオタクっぽくてキモイ奴だと思ったわ。媚び媚びの態度も餌……食べ物も気に入らなかった。だから、ツンとした態度を取ったの。
でも、王宮でまた口説かれたある日、体に雷のようなものが走った。その時は私は発情期を迎えていた。でも、今までピンとくるオス……男性がいなくて、そんなふうに本能が反応したことはなかった。でも、ヴァルトに対しては一発交尾したい……じゃなくて、この人の子どもが産みたいと思ったの。だから、ちょっと焦らした後でプロポーズを受けた。
陛下にヴァルトと婚約したと報告すると、陛下は涙目でこう聞いて来たわ。
「じゃ、じゃあ、ヴァルトと結婚するっていうことは、私はもう君をモフモフできないの?」
ヴァルトは戦争で大活躍してカレリアを大国に押し上げた英雄。それに、陛下とは小さな頃からの親友でもあった。さすがに英雄で親友の人妻をどうこうしようとは思えなかったみたいね。それに、ヴァルトも結構な焼きもち焼きで、私が猫であろうと人間であろうと、他の男……どころか他の誰かに触られるのが嫌だと言っていたから。
陛下はメソメソしながらも最後には「わかった……」と頷いた。でも、唯一触れる私……と言うか猫を諦め切れなかったんでしょうね。結婚式の一ヶ月前になってヴァルトを呼び出し、「どうか週一でいいから私を貸してくれ」と頼み込んだそうなの。ヴァルトはその頼みを突っ撥ねて、私を連れてカレリアを出ることを決意した――
猫族の純血種の一族、誇り高きペルシャン族最後のいっぴ……一人にして長の一人娘。
ペルシャン族は猫族と長毛種であることにこだわり、数百年間深い森に籠もって、かたくなに外の血を入れなかったの。だから、血がだんだん濃くなったんでしょうね。なかなか子猫……子どもが生まれなくなっていた。生まれても体が弱くて、長く生きられない子が多かったわ。私たちは年ごとに生息数……人口を減らしていった。
その上二十八年前、私たちが住んでいた森が一晩で洪水に飲まれ、一族はたまたま外に出ていた私いっぴ……一人を残して全滅してしまったの。でも、洪水がなくても五十年もしないうちに、ペルシャン族は滅んでいたと思う。早いか、遅いかの違いでしかなかった。
私は突然独りぼっちになって途方に暮れたわ。それまでは森での暮らししか知らなかったから。でも、水に浸かった地に住めるはずもなく、尻尾……後ろ髪を引かれながらも故郷を離れるしかなかった。
人間の世界は恐ろしいところだった。猫の姿でも人間の姿でも、「キャー、可愛い!」「うおっ、美女だ!」と感動されて、連れ去られそうになるんだもの。相手が男でも女でも、大人でも子どもでも、善人でも悪人でも、私は見ず知らずの誰かに触れられたくはなかった。飼い猫になるのも妻になるのも愛人になるのも冗談じゃなかった。私は私のものでありたかった。自由でいたかったの。
だから、王都へ向かってカレリア国王に保護を求めた。ペルシャン族には代々、「危機に陥った時には国王に保護を求めよ」、という口伝があったから。
純血種の猫族とは初対面だったみたいで、当時の陛下はそれは驚いていらしたわ。その時までまったく知らなかったんだけど、世界にはもう純血種どころか、変身できる獣人すら少なくなっていて、私はとんでもなく貴重な存在になっていたから。特に猫族のメス……女性は男性の垂涎の的になっているそうだった。陛下は「先祖代々からの獣人との約束だから」、と私を快く保護してくださった。
陛下は猫の私を撫でて感動されていた。なんでも、陛下は獣人ではない普通の猫に触ると、体中にブツブツが出て痒くなるだけではなく、咳が出て止まらなくなるそうなの。「大の猫好きなのにこんな体質ひどい」と、臣下から飼い猫自慢をされるたびに、夜ベッドの中でハンカチを噛み締めていたらしいわ……。けれども、獣化した私なら大丈夫だった。
陛下は私をそれは可愛がってくださった。……文字通り猫的な意味で。私が陛下の前で人間の姿になったのは一、二回かしらね。でも、人間の私にはまったく興味がないみたいだった。
陛下は膝の上に私を載せてモフりながら、「こんなに幸せな日々があっていいのか」と、毎日壁に向かってブツブツ呟かれていたわ。私もこんなに大切にしてくださるのなら、ずっと猫のまま、陛下の飼い猫になるのも悪くはないかと思い始めていた。
でも、私はヴァルトに出会ってしまったの。
初めて彼を見た時には男のくせに髪が長いわ妙に色白だわで、なんだかオタクっぽくてキモイ奴だと思ったわ。媚び媚びの態度も餌……食べ物も気に入らなかった。だから、ツンとした態度を取ったの。
でも、王宮でまた口説かれたある日、体に雷のようなものが走った。その時は私は発情期を迎えていた。でも、今までピンとくるオス……男性がいなくて、そんなふうに本能が反応したことはなかった。でも、ヴァルトに対しては一発交尾したい……じゃなくて、この人の子どもが産みたいと思ったの。だから、ちょっと焦らした後でプロポーズを受けた。
陛下にヴァルトと婚約したと報告すると、陛下は涙目でこう聞いて来たわ。
「じゃ、じゃあ、ヴァルトと結婚するっていうことは、私はもう君をモフモフできないの?」
ヴァルトは戦争で大活躍してカレリアを大国に押し上げた英雄。それに、陛下とは小さな頃からの親友でもあった。さすがに英雄で親友の人妻をどうこうしようとは思えなかったみたいね。それに、ヴァルトも結構な焼きもち焼きで、私が猫であろうと人間であろうと、他の男……どころか他の誰かに触られるのが嫌だと言っていたから。
陛下はメソメソしながらも最後には「わかった……」と頷いた。でも、唯一触れる私……と言うか猫を諦め切れなかったんでしょうね。結婚式の一ヶ月前になってヴァルトを呼び出し、「どうか週一でいいから私を貸してくれ」と頼み込んだそうなの。ヴァルトはその頼みを突っ撥ねて、私を連れてカレリアを出ることを決意した――
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる