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第三幕 想定外

vs43 世界樹の実

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 ギルベルトの夢の中。
女神と世界樹の精霊が言い合っていた。
「願いは叶えるんだからきちんとするでしょう⁉」
「リュミ、そんな事を言ってもね、誰も〝罪を侵さず〟なんて願わなかったんだよ!」
そこにギルベルトがやってくる。
「という事は、もう何か罪を犯したのか?」
「いや、まあ、うん……」
世界樹の精霊が言葉を濁すと、リュミエリーナが言う。
「人間をさらってオルケイアの奴隷商に売り付けたらしいの……」
「それで? その金は何に使ったんだ?」
「…その奴隷商で売られていた魔族を買ったんだ。あの国では世界樹を信仰してる奴が少ないから入れないんだよ!」
「人さらいに人身売買か…」
やりたくも無い罪だ。
しかし、魔族のやる事は正しくもある。
「…我々人間が勝手に売った奴隷だ…人間であがなわせようとするのは当然だろうな」
「君が頭が良くて助かるよ! 止めてはいるんだが…君の中に入った奴の意志が強いんだよ、許してくれよ」
「…責めはしない。ただ…その事は、仲間達に言わないでくれ…どうせ人間が広めるだろうから……」
「ああ…」
世界樹の精霊とリュミエリーナが頷いた。
「それから……他の人間に乗り移ったり、何か人間になれる方法は無いか?」
「君の体を取り戻す、手っ取り早い方法ならある」
世界樹の精霊が言う。
「それは?」
「……君に乗り移った魔族の身体に乗り移る事だ」
「ーーーなる程、体の交換か」
「君に、これをやるよ」
そう言い世界樹の精霊は自身の体から光によって七色に見える実を取り出す。
「五体満足で君に体を返すけれど、罪まで見れなかったお詫びと……大勢の者に慕われる君に敬意を表して」
「……世界樹の実…」
「ああ」
「え…いや、無理だ、受け取れない」
「何故?」
「だって実は千年に一度しか付かなくて…万能の元で…」
「いいからお食べよ。食べないと魔族の身体を乗っ取れないんだよ」
「……ああ、確かにそうだな……しかし…」
「ごちゃごちゃ言うと無理矢理食わすよ?」
「いや、ただ…少しでいいからリュミに分けたいんだ……無理かな?」
「仕様のない奴だな…支配が無くても妹思いなのはいいけどね」
言いながら世界樹の精霊は実を少し削る。
「この欠片を君の体の下に置いてやるから食べさせるといい。何の効果が出るかは、信仰次第さ」
「ありがとう、世界樹」
「ユーデクスだ」
「え?」
「私の名前。…リュミが付けてくれた名前さ。カッコいいだろう?」
「ああ…呼んでもいいのか?」
「多分、君もになるだろうからさ。早く食えよ」
「分かったよユーデクス」
実を食べてふと思った。
〈どことなくユークレースと似ている…〉
だから、なんとなくユークレースに厳しいのか?
そんな事を思った。


 翌朝。
目が覚めてすぐに子犬は起き上がって体の下を見る。
『あった!ユーデクスは凄いな!』
そう言い喜んで子犬はマリミエドの顔まで実の欠片を足で弾いて運んだ。
『リュミ、リュミ! これをお食べ!』
「ん…お兄様…?」
『早くこれをお食べ、消えてしまいそうだよ!』
せっかくの実が消えかかっていて、子犬は焦ってグイグイと実をマリミエドの顔に押し当てる。
「食べ…む…」
何か喋ろうとしたのでその口に放り込んだ。
子犬ははち切れんばかりに尻尾を振って言う。
『世界樹の精霊が来てね、今の実をくれたんだ! どうだい?』
「甘い……ふふ、お菓子みたい」
そう言って笑い、マリミエドは起き上がる。
『体は…』
「…分かりませんわ…」
その答えに子犬の尻尾が下がった。
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