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第三幕 想定外

vs45 ギルベルト猊下

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「これはルド・ルギオス猊下」
エルガファルが恭しく迎えた。その首には赤珊瑚が輝いている。
〈ここで突っ込まない上官は居ないだろう〉
そう思い喋る。
「その首輪はどうした」
「はっ…こ、この頃の流行りでして!」
「ほお…部屋はあるか」
「は、客間がございますので、どうぞごゆるりと…」
エルガファルは猊下を案内して行こうとする。
「待て」
「はいっ⁉」
「地上には、連絡蝶なる物があったな、用意しろ。それと極上のワインだ!」
「はっ!」
エルガファルは飛んでいく速さで走っていった。



 一方。
マリミエド一同は、聖魔塔でとても沈んだ様子で座っていた。
誰も、何もいい案が出せない…。
「…また明日にしよう…」
そうアルビオンが力無く言い、解散となった。

 屋敷に着いて部屋に入るとマリミエドは泣いていた。



 翌日。
自習の授業中、マリミエドのもとに黒い連絡蝶が飛んできて紙になる。

 リュミ、心配いらないよ
 出来るだけ早く帰る

それだけ書いてあったが、兄の筆跡だとすぐに分かった。
マリミエドはガタンと立ち上がって廊下に飛び出す。
すると、ユークレースとアルビオンとベルンハルトとレアノルドとクリフォードも同時に廊下に出て来た。
「ギルベルトが!」
そう言い紙を見せ合う。
皆の紙はリュミの所が友人となっていた。
しかし、それだけだった。
何処に居るのか、何をしているのかも分からない。
「我々に出来る事は無いのか…?」
紙を握り、アルビオンが悔しげに言う。
誰も何も言えなかった。



その頃のギルベルト猊下は広いローマ風の風呂に入っていた。
「なんて広い風呂だ」
泳げそうな浴槽だ。
〈さて、どうするか…〉
何の作戦も無い。
とにかく皆に連絡を取る為だけにここに来て、連絡蝶を用意させただけだ。
ギルベルト猊下は風呂から上がって鏡を見ながらヒゲを剃る。
〈今の内に人間の内通者を調べねばな…〉
そう思い執事を呼ぶ。
「グレイオス!」
「はい!」
「人間はどうだ?」
そう聞けば、大抵内通者の情報が出てくる。
「はっ、オルケイア王国はそこの宰相を取り込んでおり問題はございません。グルヴェイル王国は、宰相が2人おりまして…」
「やれぬのか」
「いえ! ヴィルヘルムの方が操れております、はい。何しろ媒介の娘が闇の中ですからな…力が弱まりまして」
「…うむ」
「他に御用は…」
「…晩餐は肉を食いたい」
「はっ!」
答えてグレイオスは下がった。
〈咄嗟に肉を食いたいと思ったが……魔族の肉だったらどうするか…〉
ギルベルト猊下は冷や汗を掻きながらも体を洗って風呂を出た。

 晩餐は豪華で、人間が食べる物だった。
久し振りにたらふく食べてワインを飲んでいると、デザートを運んできたグレイオスが言う。
「猊下、今日はお珍しくたくさん召し上がられますな」
その言葉にギクッとしながらも笑う。
「久し振りの体であった故……」
そう誤魔化してデザートのゼリーを食べる。
黒いからコーヒーかと思ったらコーヒーとは違った苦みがあった。
嫌いではないので果物と一緒に食べる。
〈人間の食べ物であれば何でもいい…〉
多分大丈夫だと思いながら食べると、人間の子供が3人運ばれてくる。
「猊下、本日のは、いかが致しますか?」
そうエルガファルが聞いてくる。
しかし、この体には人間の血を飲むという記憶が無い。
〈他に血を使った事は…ーーー〉
考えてハッとする。
人間の血は邪神への祈りで使う物だ…。
そしてこの体は〝猊下〟…恐らくは枢機卿のような存在。
〈人を殺す……戦争でもないのに…〉
ギルベルト猊下はワインを飲みながら考えて答える。
「今宵は良い」
「は、しかし…」
「…戻ったばかりで、もう働けと申すのか」
そう言うとエルガファルは首をブンブンと振って両手を前に出す。
「違います! いつも人間界に来られた時は一人捧げてらしたのでつい…!」
「…それは、お前が飲みたそうな顔をしていたからだ。もっと顔を引き締めろ」
「はっ! 申し訳ございません!」
そう答えてエルガファルは人間を連れて行こうとする。
「待て」
「はっ…」
「側に置く者を置いていけ」
「猊下もはお好きでしたか!」
パアァーと明るい笑顔になってエルガファルが一押しの処女を連れてきた。
「この娘が良いと思います! 何処かの貴族で、ハリ艶もあり、触り心地がいいんです!」
そう言って奴隷印を額に付けた娘を隣りに立たせた。
「…ん、ではそのように」
「はっ!」
答えて娘を連れて行く。

 寝室に入ると、ベッドの上では先程の少女が透けたネグリジェ姿で座っていた。
〈…幼い少女で良かった…〉
自分とて男だ…これが色気のある女性であったら、魔族の体だという事すら忘れて抱いてしまうだろう。
〈触り心地がいいとか言っていたな…〉
ギルベルト猊下は隣りに座り、その少女の腕を撫でてみた。
人間の時では〝女の子だな〟と思う程度なのに、スベスベとした感触が〝心地良い〟と思えた。
〈まるでシルクのようだな…〉
手を持ってシルクの感覚で撫ででいると少女が涙目になったのでハッとしてやめた。
〈まずい…魔族にとって人間は麻薬のような存在だ…〉
ずっと手に収め、触れていたくなるような…そして、その血はどれ程美味なのかと興奮する…そんな感覚だ。
ギルベルト猊下は自分の手を握り締めて理性を保ち、少女を見る。
「名は」
「……お好きにどうぞ」
死んだ魚のような目で少女が言う。
ギルベルト猊下は目を細めて言う。
「何処の者だ」
「………」
少女は答えない。
〝側に置く者〟と言った手前、エルガファルやグレイオスに怪しまれないようにしなくてはならないので、ギルベルト猊下は少女を抱き上げて共にベッドに入り、腕枕をする。
「…⁉」
「もぞもぞと動くな、眠れん」
そう言いギルベルト猊下は目を閉じる。
〈ユークレースであれば、この少女が何処からさらわれたかビジョンで分かるのだろうな…〉
そういう魔法も身に着けておかねば、と思いながら久し振りの人肌に安心して眠ってしまった。
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