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第一章 始まりの館

Chapter03 新たな孤児

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 翌日は晴天だった。
アルシャインは朝早くから起きて、荷物に入っていたワンピースを一枚切って短くして縫っていた。
「…お嬢様、早いですね……」
「毎朝4時に起きて神に祈っていたから中々抜けないのよね…」
そう言うアルシャインの前のテーブルには、シャツとズボンが並んでいて、手にはワンピース…あの子供達にあげるのだとすぐに分かった。
「…これ、作ったんですか…?」
「そうよ。いらないシャツとかシーツとかで。どうせ布は買ってこないといけないし…」
そう言いワンピースをテーブルに置く。
「…頂いたお金はまだあるのに……」
「私は宿屋をやりたいのよ?お金はそちらに掛けないとね」
そう言ってアルシャインは立ち上がって弓矢を手にした。
「朝ご飯を狩るわよ!」
「ええ?!」


アルシャインは森に来てウサギを狩った。
「…聖女ですよね?」
ね。…狩りは初めてだわ」
「初めて?!」
「ええ、殺生は禁止だもの。…このウサギ、どうやって捌くか知ってる?」
そう言いウサギを差し出す手は震えていた。
「…どうして、狩りを…」
カシアンが受け取って血抜きをしながら聞くと、アルシャインが言う。
「こうして生きると決めたんだもの。向き合わないと。…それに、あの子達にはお肉が必要でしょう?」
そう言って笑うアルシャインに、迷いは見えなかった。
「あんたは強いな…」
「ふふ、ありがと」
その返事にカシアンも笑い、共に帰る。

すると、子供達は掃除をしていた。
「おかえりなさい、アルシャイン」
2人が笑顔で出迎えてくれた。
「…アイシャでいいわ」
「じゃあ、俺もジュドーでいいよ」
ルベルジュノーが言うと、マリアンナも言う。
「あたしもアンヌでいい!」
「ふふ、じゃあみんなでそう呼びましょうね。さ、お肉をスープに入れるわよ!」
アルシャインが言い、カシアンが捌いて見せた。
ウサギのスープはとても美味しかった。

 食事の後でタライにお湯を入れて、男女別々の部屋で体を洗う。
体を綺麗にしてからみんなで新しい服に着替えた。
着ていた服はアルシャインが洗濯をする。
「洗濯はこうやるのよ、覚えてね!」
そう言って手本を見せると、ルベルジュノーとマリアンナも手伝う。
その間にカシアンが家中の廃材を集めて庭に置く。
「カシアン、その板は磨いておいてね!」
「はいはい」
答えてカシアンは雑巾で板を磨いた。


 洗濯を干してみんなでベッドを作っていると、繁みから覗く子供が2人見えた。
…同じ顔の子供…恐らくは双子だろう。
その後ろに少年もいた。
「…彼らは知り合い?」
アルシャインが聞くと、ルベルジュノーが答える。
「少し前からうろついてる。…多分、同じ…」
それを聞いて、アルシャインは微笑して大きな声で喋る。
「あー、もっと支えてくれる人がいたらなー」
「それなら俺が…」
カシアンが分からずに言うと、ルベルジュノーがカシアンの足を叩く。
「馬鹿、ちげーよ!」
そのやり取りを見てから、アルシャインが続ける。
「もう2・3人居ないかなー、もう少しベッド作りたいのになー」
そう言うと、カサカサと双子が出てくる。
「あの…ティーナ手伝えるよ……」
「僕も出来る…」
「あら、本当?私はアルシャイン、アイシャって呼んで。あなた達は?」
「ティーナはアルベルティーナ」
「僕はレオリアム…」
2人が答える。その様子を見て大丈夫そうに見えたので、少年もおずおずと出てきた。
「あの、俺も…俺ノアセルジオ…」
「3人も居たわ!じゃあ3人にはこの板を押さえててもらおうかしら」
「うん」
答えて3人が板を持った。

人手が増えたので、ベッドが3つも出来た。
みんなでそれを2階の部屋に運んで、ベッドにワラを敷き詰めてシーツを敷いた。
「…さて…今日はもう遅いから明日、街に行って布と綿を買いましょうね」
「買えるの?」
アルベルティーナが聞く。
「布と糸と綿を買って、枕や服を作るのよ。いち、に、さん、よん、ご、ろく、なな…7人分ね!」
アルシャインは一人ずつ指差し確認をしてから言った。
この子達は戦争孤児だ。
まともな教育を受けずに育っているから、言葉では理解が出来ないのだ。
だから、一人ずつ指差し確認をする事で〝自分の事だ〟と分からせる必要があった。
「ティーナも?」アルベルティーナが聞く。
「俺も?」ノアセルジオが聞く。
「みんなよ!」
そう言ってアルシャインはみんなを抱き締めた。
みんなは喜んで笑う。
「さあ、狩りに行かないとね!」
「…俺が行くから、アイシャお嬢様は他の事してなよ」
カシアンが言って弓矢を手にすると、ノアセルジオとルベルジュノーとレオリアムが立ち上がる。
「俺がやる」とルベルジュノー。
「俺、狩り出来る」とノアセルジオ。
「僕も」とレオリアム。
「えっと…一人の方が楽だけど、まあ狩りは覚えないとな。行くぞ」
カシアンは言いながら男の子達を連れて行った。
「じゃあ、私達はジャガイモとニンジンと玉ねぎを切りましょう!」
「切るの?」マリアンナが聞く。
「大丈夫よ、ナイフの使い方を教えるわ、アンヌ、ティーナ、こっちに来て」
アルシャインが台所に行ってナイフとジャガイモを持ってきてテーブルに置いて、ジャガイモの皮むきから教えた。

スープを飲んで、男女別れて部屋に入った。
アルシャインはマリアンナとアルベルティーナと共にベッドに入ってシーツを掛ける。
「ね…アイシャ」
アルベルティーナが喋る。
「なぁに、ティーナ」
「…ママって呼んでいい…?」
「…いいわよ」
「ママぁ…」
アルベルティーナがぎゅっとアルシャインに抱き着くと、マリアンナがずるがる。
「あたしも!あたしも呼ぶ!」
マリアンナがアルシャインに抱き着いて言う。
「ええ、もちろん!」
アルシャインは2人を抱き締めて寝た。
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