上 下
36 / 86
第一章 始まりの館

Chapter34 小さいお客さん

しおりを挟む
 翌日は小雨だった。
ニワトリ小屋に行くと、ローズパイロットはニワトリと一緒にエサを食べていた。
「あら美味しい?たくさん食べないと飛べないものね」
そう言いながらアルシャインは卵を取って汚いワラを取り除いてエサを足す。
ミュージはノアセルジオとマリアンナが世話をしている。
アルベルティーナとリュカシオンとフィナアリスとティナジゼルが料理の下ごしらえをしている。
作り方を書いたノートがあるので、それを見て作れるようにしてあるのだ。
「俺さ、雑貨とか家具とか作って売りたいからダンヒルさんに弟子入りしたくて」
そうリュカシオンが言う。
アルシャインは驚いて駆け寄った。
「弟子入りしたの?!」
「まだだよ。もっと文字と数字の勉強をしろって言われて…カシアンに夜習ってるんだ」
「カシアンに?!」
更に驚いて言うと、後ろからカシアンが来て言う。
「夜に男共で集まって勉強会してるよ。ちょっと森に行ってくるよ」
「え、でも雨よ」
「このくらいなら大丈夫。ノアとジュドー連れてくよ。剣の稽古があるからね」
そうカシアンが言うと、リュカシオンが慌ててキッチンから離れる。
「カシアン待って、俺も行く!ごめんアイシャ!」
そう言い、カシアン達は言ってしまう。
「気を付けてね!」
そう声を掛けてキッチンに入ってパイやミートソースやデミグラスソースなどの準備に入る。
「あの鳥さん、帰っちゃうかな」とティナジゼル。
側のテーブルでレース編みをしているマリアンナも言う。
「鳥カゴ用意したら、居てくれるかな?」
「ニワトリさんがいるじゃない」
アルシャインが言うとマリアンナが言う。
「ニワトリは指や肩に乗らないもん!」
「そうね~…」
アルシャインは他のテーブルで小物を作るレオリアムやクリストフ、編み物に挑戦しているメルヒオールを見つめる。
確かにみんな動物の世話も出来ているしいいかもしれないが…。
「野生動物だから、人間の思うようにはいかないわ」
そう言うとみんなはニワトリ小屋を見つめた。
 旅人はコロコロドーナツをたくさん買って旅立った。

仕込みも終わり、雨が止んだのでアルシャインはローズパイロットを外に出してあげる。
「ほら、あっちの木々に仲間がいるわ…行きなさい」
そう言い手を離すと、ローズパイロットは飛び立った。
どうやら無事に仲間の所に行けたらしい。
「良かったわ」
そう呟いて戻ると、マリアンナがじーっと涙目で木の方を見つめていた。
「アンヌ…」
「分かってるもん…」
悲しそうに言うマリアンナの肩を抱いてアルシャインは戸を閉めた。

 その後に土砂降りとなり、客足が途絶えた。
「困ったわね…お昼にお客さんが来なかったら、冷蔵庫に入れましょうね」
アルシャインが言い、みんなが頷いて家具作りの手伝いに行く。

みんなで色んな分担をしてやったので部屋作りがはかどった。
クリーム色の部屋も出来て、次の薄藤色ウィステリアも小物をペンキで塗り、布団を置けば完成だ。
その次はアイスグリーン。
その次は薄赤紫色リラ…。
微妙な調節をしながら塗っていくと、コロンコロンと戸が開く音がする。
「はーい、いらっしゃいませ~…?」
見ると、小さい子供が2人、レインコートを着て立っていた。
「ここが金の羊亭ですか?」
男の子が聞く。
「ええ、そうだけど……」
「もう部屋は満室ですか?」
今度は女の子が聞いた。
「えー…とね2人で一緒に泊まるのかな?」
アルシャインが聞くと2人はコクリと頷いて、フードを取る。
「あ、部屋は空いてるけど…レインコートはそこで脱いでこっちに掛けといてね。宿泊は30Gだけど大丈夫?」
そう聞くと2人は頷いた。
レインコートを脱ぐと、女の子は背に大剣を背負っていて、男の子はバックパックに杖を差していた。
2人は小袋を出して数えながら30Gずつ出してテーブルの上に置く。
「ありがとう。えっと、2人で一部屋なら…そうね、20Gずつでいいわ」
そう言い10Gずつ返して、鍵を見せた。
「それでね、色があるのよ。白と水色とクリーム色。どの部屋がいいかしら?」
「色…?」
宿屋と言えば茶色しか知らないので、2人は興味深げな顔で鍵を見た。
「今はお客さん居ないから、見て決めても大丈夫だけど…」
「見ます!」
と女の子が興奮気味に言うので、案内した。
すると、女の子が言う。
「クリーム色がいい!」
「水色がいいよ」
意見が分かれた…2人で見合って眉を寄せて譲らずにいるので、アルシャインはクスクス笑って2人にそれぞれ、水色とクリーム色の鍵を渡した。
「え、でもさっき10G…」
「あなた達はどう見ても大人ではないわ。それに、ディナーで使ってくれたらみんなも喜ぶから」
笑って言い、アルシャインは2人の背を押す。
「荷物を置いてリラックスしてね。あ、お水は無料だから取りに来てね。何か食べる時は黒板に食べ物の名前と金額が書いてあるから!」
そう言ってドアを閉めた。
「今の…お客さん??」
「ええ、ティーナくらいなのに大剣を持ってたわ。きっとジュドーみたいに強いのね」
そう言いながらアルシャインは門から入ってくる人影を見てキッチンに行く。
「いらっしゃいませー!」
そう大きな声で言うと、マリアンナとアルベルティーナとフィナアリスとティナジゼルとクリストフとメルヒオールが駆けて集まってくる。
「いらっしゃいませ、何にしますか?」
メルヒオールとクリストフが聞くと、席に着いた男女が黒板を見ながら言う。
「ではわたしは日替わりパスタとラビオリとパン2つかな」
「わたくしはスープとパスタをお願いね」
そう注文されてクリストフが書いてカウンターに置く。
「お水は飲みますか?」
ティナジゼルが聞くと、女性が微笑んでコクリと頷いた。
ティナジゼルは2つ水を注いで置く。
「どうぞ!」
「ありがとう」
答えて女性はカップを見て目を見張る。
「あら、綺麗なのね」
「お客さんに出すお水は、井戸の水を清潔なタオルでしているんです」
アルシャインが答えると女性は感心した様子だった。
 その男女は食事をするとキャンディとコロコロドーナツとクッキーとパイを大量に買ってくれた。
午後のお茶会で使うのだと言う。
フィナアリスは憧れの眼差しで見送った。
アルシャインは苦笑してパイを作る。
〈お茶会なんて嫌味と自慢の嵐でつまらないのに〉
そう思いながらも、ベリーを並べた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

書捨て4コマ的SS集〜思いつきで書く話

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:2

妻が森で幼女を拾い、我が家の養女に迎えました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:106

貴方を想っていた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:12

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:69,616pt お気に入り:6,909

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:211,118pt お気に入り:12,356

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:147,418pt お気に入り:8,004

小さなうさぎ

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:1,341pt お気に入り:1

処理中です...