明日のさよなら

宇田 るう

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山賊に襲われる数刻前ー。
舞踏会での騒動直後、俺は2人の騎士に連れられて別室にひとり軟禁されていた。

てっきり地下牢にでも入れられるかと思ってたのに、通されたのはお城の奥まった先にある貴賓室。
なんでだろう。
王子は俺のことをテオって呼んでたけど、テオって人が貴族だから?

暖炉でほどよく温められた部屋の中は美味しそうな匂いにあふれていて、腹のすいてた俺はテーブルにのってた食事をありがたくいただく。

「うまぁ・・・」

王子が言ってたランバート王国。
俺はその世界を知ってる。
それは前世でやったことのある、NL、BLなんでもありの選択分岐型の恋愛シュミレーションゲームで出てきた中世ヨーロッパのような世界だった。

ランバート国は穏健な王が治める豊かでいい国とあったけど、罪人の俺にまで、こんないい部屋に美味しいご飯まで用意してくれるのか。
あのザ!王子も、キラキラしてて超カッコよかったし。

俺、あの人から大勢の紳士淑女の前で婚約破棄されちゃったけど、このテオノアなんとかとして生きてきた記憶がないせいか、なにかの映画を見てるみたいであまり現実感がない。
着てる服も見慣れなさすぎて、バリバリ違和感を主張してくる。

王子とお揃いっぽい刺繍の柄が入った黒の礼装。
袖にフリルのついた手触りのいいブラウス。
あのあと返された短剣は、柄や鞘に品よく宝石があしらわれていた。

つまり、何もかもが高そう。
こんなの、日本で普通の大学生してた俺に絶対持てっこない。

けど、暖炉の上の鏡に映った俺は、黒目黒髪のフツメンだった。
背格好だけはまあまあいいガタイしてるかな?

それにしても、あまり取り柄のなさそうな見た目のテオがあんなに見目麗しい王子と婚約関係にあったとは驚きだ。
ここは同姓婚ができる世界で、男同士でも魔法を使えば子作りできる。
(不思議なことに、この世界の一般常識は頭に入ってるのに、登場人物やストーリーは全く思い出せない)
チートも加護もない異世界転生なんて、どんだけポンコツなんだ。

ふと、スープをすくっていたスプーンをおろす。
ひと息ついて脳裏に浮かぶのは、あの婚約破棄を言い渡された苛烈なシーン。
顔立ちは柔和なのにあの気迫、さすがは王族。
凛とした声は覇気があり言葉にも力があった。

おおかた王子とあの少女は相思相愛で、それに嫉妬したテオが何を思ったのか、短剣であの少女に切りかかりでもしたんだろう。
背中のドレスに短剣がかすったような跡があった。

鏡のなかにおさまるテオは落ち着いた佇まいで、とてもじゃないけどそんな思いきったことをする人に見えないけど、よっぽど追いつめられてたのかな。

そして王子の逆鱗に触れ婚約破棄された。
異世界転生でもバドエンのお約束パターンだ。

これから俺はどうなるんだろう。
表舞台を失脚して領地で隠棲とかならまだいいけど、死刑とかだったらやだな。

怖い。

どちらにしても、このままみんなに忘れられてひっそりと死ぬんだろうか。
自業自得とはいえ、なんてはかない人生。

あれ、なんだろ。
ポトポトとスープに水滴が落ちる。
頬に違和感を感じて手でぬぐえば、指先が濡れてた。

ああ・・・、泣いてるのか。
俺の気持ちと違うどこかで、テオが涙を流している。

そうか、テオは王子が好きだったんだな。
テオの悲しみがひたひたと心に押し寄せてくる。

テオ、君はこんな風に静かに泣く人生を送ってきた人なんだね。

そう思ったら俺まで悲しくなってきた。

この人は可哀想な人だ。
好きな人を思いながら、声も出さずに泣くなんて。

「テオっ!」
「!?」

俺以外は誰もいないはずの部屋の中から、誰かの声が聞こえてびっくりして振り向いたら、ちょっと年上っぽい男の人が立ってた。

壁の一部がぽっかりと開いて、暗い通路に続いている。

何その秘密通路!めっちゃお城あるあるなんですけど!
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