明日のさよなら

宇田 るう

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「ああテオ、こんなに泣いて・・・かわいそうに」

隠し扉から突然現れた人に抱きしめられてギョッとしたけど、俺この人知ってる。
テオのお兄さんだ。

この亜麻色の髪にオパールの瞳をしたイケメンはアルフレッドといって、つい先日宰相代理になった。
ちなみに、今の宰相はテオとアルフレッドのお父さん。つまり、ウォールデン公爵家は代々宰相をしてる。
という知識が、なぜか自然と頭に入ってきた。

そんな次期宰相様に「さぁ、ここからお逃げ」と出てきた穴に背中を押されて戸惑う。

「えっ、この中に俺一人で?」
「俺・・・?ああ、混乱してるのか。心配いらない。この隠し通路は王族と宰相、そして神官長と騎士団長しか知らない。私も今日、父から重要機密として教わったばかりだ。まさかこんなに直ぐ使うことになるとは」

「え」
それって緊急時の王族の逃走ルートなんじゃ。
そんな重要な通路、身内といえど罪人を逃がすためにばらしちゃっていいの?

「さあ、急いで。行くと城の裏手にある井戸に出る。通用門に馬車が隠れてるから、ほとぼりがさめるまで領地で身を潜めてるんだ」

なんか分からないけど、たぶん俺のために危ない橋を渡ってくれてるみたいだし、ここは従った方がいいのかな?

「分かりました」
「私はお前の振りをしてベッドに潜りこんでおく。しばらくは時間稼ぎできるだろう。夜明けまでには私も抜け出すから。さぁ行って」

「ありがとう、兄さん」
「兄さん・・・?ふふ、今日は自分のことを俺と言ったり、まるでやんちゃな頃のお前に返ったようだね」

え。あ!貴族は俺とか兄さんとか言わないのかな。気をつけないと。

「あ・・・、ありがとうございます、あにうえ」
通路への壁に手をかけ、振り向きながらそう言ったら、一瞬目を見張ったアルフレッドが俺を見てふわりと微笑んだ。

うわぁ、この人も貴族オーラ持ってんなぁ。

「気をつけてお行き、テオ。私の愛しい弟。神のご加護を」
「・・・」

おでこにチュッてされた。

「あにうえも気をつけて」

俺は恥ずくてチュッはできないけど、捕まらないでね!
後ろでゴゴゴって壁が閉まる音を聞きながら、暗い通路に足を踏み入れる。

光り苔がほんのり照らす通路を進む。

この通路、神官長や騎士団長も知ってるってことは、さっき俺をこの部屋に連れてきてくれた2人もゆくゆくは知ることになるのかな。

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2人の家も代々神官長と騎士団長をしていて、今は2人のお父さんがそれぞれの役職に就いてる。

王子も入れたこの3人は幼馴染みで、今向かってる城の裏手の井戸辺りでも、昔はよくこの面子で遊んでた。
今は3人とも王子の側近だ。

ここら辺も、思い出というより知識として入ってくる。
テオの記憶が伝えてくれる感じかな。

それにしてもあの2人、騎士じゃないはずなのに、なんで護衛兵の格好してたんだろ。
俺を連行する時も捕まえて引っ立てるってより、まさに護衛してくれてる感じだった。

幼馴染みだから、優しくしてくれたのかな?
せっかく良くしてくれたのに、俺がいなくなったら怒られちゃうかも。
ちょっと心配。

暗闇に紛れて無事馬車に乗り込んだ俺は、ひたすら街道をすすむ。
御者が一人の二頭立ての馬車は黒塗りで、夜に溶けこむようにひたすら駆けていく。

ウォールデン公爵家の領地は王都の西側にある湖の先にある。
行くには湖を大きく迂回するか、湖の南側に隣接する山を越えていくしかない。

御者は山を越えるルートを取ったようだ。
窓は開けるなと言われたので外は見られないけど、ガラガラと険しい山道に入ったのが馬車の揺れでわかった。

湖畔をまわるより、山道ルートの方が早い。
明日の朝には領地に着くだろう。

あれ、王都の西の山?
確かこの山は夜になると。

「その馬車止まれ!」
「!!」

ガラガラガラと急停車する馬車と、山道に響き渡るドラ声。

そうだ。
この山は夜になると野盗が出るんだったー。
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