明日のさよなら

宇田 るう

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一方、昨夜のテオといえば。

こちらもまた、イーサンにあれこれお世話を焼いてもらったあと、ベッドに横になったはいいものの、なかなか寝つけずにいた。

完全にキャパオーバーな一日だったと思う。
今世の記憶を失って、前世の記憶を思い出すとともに王子に婚約破棄され、そこで何らかの罪を犯して軟禁されるも兄の助けで脱出し、領地への逃亡中に野盗に襲われそうになり、そこを間一髪ヒーローっぽい野盗のボスに救われた。

不可思議な点もいっぱいある。
はずせない服のボタン。
王族でないとはずせないと言ってた。
贈られた本人ならはずせるらしいのに、何でテオはできなかったんだろう?
あれ?ってことはイーサンは王族?
野盗のボスだけど王族???
んんん?
やっぱり謎だらけだ。
とにかく明日もいろいろ聞かないと。

それと、黒い鳥。
さっきはそれが何なのか答えらしい答えをもらえなかったけど、そのワードを聞いて思い出したことがある。

この異世界を舞台にした小説のタイトル。
それは「黒い鳥を探して」っていう分岐型のBLシュミレーションゲームだった。

「黒い鳥を探して」通称「クロトリ」は、複数いる攻略対象の誰かを選んで進めるゲームで、上手く攻略できればハッピーエンドだけど、失敗してバッドエンドになると闇堕ちさせられたり、酷いと処刑されたりする。
しかもその分岐が細かすぎてエンドパターンが計り知れないほどあり、未だコンプリートした者はいないらしい。

そんなにBL好きでもなかった俺がなんで「クロトリ」を知ってたのかっていうと、その分岐をつぶすバイトをやっていたから。

そのバイトも大学の先輩から頼まれて始めたんだけど、誰だったっけ?
名前が思い出せそうで思い出せない。
なんかキラキラした人だった気がするんだけど。

はぁ。
前世も今世もこんな記憶が曖昧じゃ先が思いやられるなぁ。

腹の底から深いため息が出る。
イーサンから聞くテオはなんだかおっかないし。
落ち着いた人で空間転移ができたらしいけど、俺は魔法なんて使えない。

ここに来る直前の記憶がないけど、前世の俺はどうなってんだろう。
おふくろや親父や香菜はどうしてるかな。
俺がいないことに気がついて探してるかな。
それとも存在そのものが無かったことになってるのかな。

ああ、帰りたいな。
みんなに会いたいよ。

はぁ・・・
気がつけばため息ばかりついている。

ふと目をつぶると思い浮かぶのは、なぜかあの青い瞳。

イーサンの瞳を見たせいだろうか。
あの人とイーサンの瞳の色は似ている。
綺麗なロイヤルブルー。
どこか懐かしくなるような。

「・・・っ」

ぽろり涙がこぼれた。

命の危険にあい、気力も体力も限界を超えたところで、思いがけず与えられた清潔で安全な寝床。
ここには雨風をしのげる屋根も温かいベッドもある。
それがなんて幸せなことか。

なのにさっきから思い出すのは、婚約破棄を言い渡された時に見たあの鮮烈で綺麗な青い瞳。

深い悲しみと絶望が心のなかを占拠する。

俺はあの美しい人に嫌われたんだ。

今はそれが、なによりも苦しい。




明け方になり、ようやくうつらうつらし始めた頃、夢を見た。

(また昨夜も遅かったんですか?)
(ああ、少し気になることがあって調べものをしていた)

(マルクール領のことですか?)
(そうだ、テオも知っていたか)

(はい。ですがその話しはまたあとで。今は少しお休みください)
(そうだな、ドミニクが来る前に起こしてくれ)

(はい、殿下・・・)




俺は王宮の一室で、王子に膝枕をしていた。
それはテオの過去の記憶だったのかもしれない。
夢の中のテオはとても幸せそうだった。




ひとり目覚めた時にその幸せが懐かしくて、朝の静寂のなか俺はまた少し泣いた。




テオの見ていた優しい景色が、無性に恋しかった。
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