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第二章 ドキドキ!野外合宿編!
2日目
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コンコン、と部屋のノックする音がすると、部屋の中の人の反応を待たずして扉を勝手に開ける。
「あのー、そろそろ終わりそうですか?」
「え!壬生さん!」
「ば、バカ!変なところ触るな!って、来沙羅!やだ、見ないで!」
室内では若いテニス部の男女が裸も同然の姿で絡み合っていた。
「あのね、私も見て見ぬフリをしようかなって、思ったの。でもね、二人の声が外まで響いてて…」
きっと今の今まで二人は愛を確かめ合っていたのだろう。しかし第三者が参加することで急速に雰囲気は冷め、二人とも気まずそうな顔をしてお互いに見合わせた。
「その声がうるさくてね。私の体も火照ちゃったったの」
「「へ?」」
ガチャリ、と扉を閉めて鍵をかける。彼女は体操着を脱ぎつつ、つい先ほどまで彼女を抱いていた男子部員の方へと近づく。上着を脱ぐと、形の良い乳房がたわわに揺れた。彼女はそのまま両腕を男の首の後ろにまわして、密着する。
「私も参加していいかな?」
「ちょ、来沙羅!なに考えてるの?」
「別にいいでしょ?減るもんじゃないし」
「え、その、俺は瑞樹が良いって言うなら…」
「いいわけないだろ!」
突然の事態に困惑し、同時に怒りの感情を露わにする瑞樹。そんな彼女の反応を楽しむように、「そもそもこうなった原因って、瑞樹のせいでもあるんだよ?責任取って欲しいな」と挑発する。
「それに、私が相手でも彼氏くんは興奮できるみたいだけど?」
「このバカ!なに考えてんのよ!そんなの、絶対ダメだよ!」
彼氏が取られるかもしれない。そう思って焦るあまり、瑞樹は彼氏に抱きついてキスをする。
「こいつは私の彼氏なんだから!来沙羅は取っちゃダメ!」
「ふふ、じゃあどっちが気持ち良いか、彼氏くんの体で試してみましょうか?」
一人の男の体を求めて二人の女の体が絡み合う。
男一人、女が二人。そんなハーレムに似た状況下で再び、行為が始まろうとしていた。
…
…
…
「…え?逆寝取られ?」
気づいたら自分の部屋で目を覚ましていた。どうやら今の光景は夢だったようだ。よかった。でもなぜだろう?涙が止まらない。この涙は壬生さんが夢とは言え寝取られなかったことに対する安堵の涙なのか?それとも続きが見たかったのに途中で止められたことに対する悲しみの涙なのか?自分でもよくわからなかった。
一夜明けて、今日は合宿の二日目だ。なぜ合宿に参加していない人間が、こうも詳細にテニス部の合宿のスケジュールを管理しなければならないのだろう?意味がわからないよ。
それにしても、僕の脳内の壬生さん、なんかどんどんスケベになってる気がする。まさか寝取られどころか、他人の彼氏を誘惑して奪うとは。彼女がどこまでエロくなっていくのか、非常に興味がありますね。
今日も今日とてよく晴れた快晴だった。どうせなら雨でも降ればいいのに…いやダメだ。それでテニスを止めて室内でトレーニングなんてしてみろ。寝取られチャンスが到来しちゃうじゃないか。
いいんだよ、晴れで。健全にテニスをしている限り、エッチなハプニングなんてそうそう起きないんだから。
問題は、夜だな。
昨日の件があるだけに、今日も今日とて気が抜けない。僕は今日に備えて外出を控え、自宅で受験勉強でもすることにした。
「…物理、やるか」
文系の僕にとって、物理は鬼門中の鬼門だ。はっきり言って苦手。できれば避けて通りたい。しかし壬生さんと同じ大学に進学するとなると、もう逃げるわけにもいかないか。
壬生さんは僕のレベルに合わせてくれるといったけど……、うん、それはダメだよな。ちゃんとやるか。
そんなこんなで以前、壬生さんに選んでもらった物理の参考書で勉強を始めた。
勉強を始めてから二時間ほど経過したころだろうか。昼食を済ませて勉強を再開しようという時、スマホが鳴った。
画面を見れば、壬生さんだった。
どくん。なぜだろう?動悸が激しくなる。
いやいや、大丈夫だろ。流石にまだ昼だよ?こんな時間帯からお盛んにはならんでしょ!大丈夫だって、壬生さんを信じろ!…信じていいよね、壬生さん!
「も、もしもし」
『もしもーし、根東くん?今はなにしてるの?』
壬生さんの声だ。彼女のこの綺麗な声を聞いていると心が洗われ、癒される。頼む、ひと時でいいからこの癒しを奪わないで!お願いします!
「今は物理の勉強してるよ」
『そうなんだー。偉いね!』
「うん!壬生さんのために頑張ってるよ!」
『うーん?私のために受験勉強してるの?』
「そうだよ!それ以外に進学する理由ないよ!」
『じゃあ、付き合う前はなにを理由に勉強してたんだろ?』
さすが壬生さんだ。冷静に突っ込んでくる。
「あの頃は、働きたくないから頑張ってた。今は違うよ!」
『そうなんだ。じゃあ付き合って正解だったね』
「そうだよ!危うく目的もないダメ人間が製造されるところだったよ!」
あれ?なんで自分のことディスってんだろ?
『それで、今はどこを勉強してるの?』
「え、熱力学について勉強してるところだけど…壬生さん、なにかコツってある?」
『うーん、公式を丸暗記するしかないかもね。PV=nRTの状態方程式と、Q=ΔU+Wの熱力学第一法則の二つは絶対忘れちゃダメだよ』
「う、うん。そうなんだー」
『熱力学は公式を適用させることだけ考えればなんとかなるよ』
「うん、わかった!そうするよ!」
正直よくわかっていなかったが、まあ壬生さんが言うなら間違いないだろう。
『おーい、来沙羅ー!今暇してる?』
『あ、ごめん、友達がきた。ちょっと待っててね』
誰かが来たようだ。
『どうしたの?』
『いや、暇なら俺とラリーの練習しない?』
『うーん、どうしようかなあ』
俺という主語を使っているが、声の質からして女の子だろう。これが男の声だったら僕の脳が壊れるところだが、あくまで口調が男っぽいだけの俺っ娘さんならばそれほど脳は破壊されない。むしろ女の子同士、仲良くテニスをするなんて癒される光景じゃないか。
『それにしても元気だよね』
『え?なんで?』
『だって瑞樹、昨日彼氏とエッチしてたじゃん』
前言撤回しよう。ちょっと脳が破壊されそうだわ。
っていうかこの女子かあ、昨日壬生さんが廊下で待つことになった原因作ってたのは!
『いやー、あれは本当に悪いなって思ってるよ。ごめんな』
『ううん、もう気にしてないからいいよ』
『お、そうなの?いや、うーん、どうなんだろう?実はさ、俺の彼氏がさあ、迷惑かけて申し訳ないってことで、今夜部屋に集まって一緒に遊ばないかって言ってたんだよ。来沙羅、よかったら今夜、一緒に遊ぶ?』
このクソ女ああああ!俺の彼女にななななな、なんてもん誘ってんだよ!男がいる部屋に俺の彼女を連れ込もうとすんじゃねえよおおおおおおおお!
『うん、いいよ』
壬生さああああああん!なんであっさり提案を受け入れるの!え、遊びってキッズがやるようなお子様の遊びだよね!まさか男子と女子が集まってくんずほぐれつの大人の遊びとかしないよね!しないよね!
『お、いいの?じゃあ、どこでやろうか?俺たちの部屋、二人部屋で狭いしな』
『一年の女子が五人部屋だって言ってたから大きいみたいだよ』
壬生さん?なに大人の都合に後輩を巻き込もうとしてんの?壬生さんってやっぱり、ちょっとビッチなところあるよな。
『確か、ちーちゃんの部屋が五人部屋なのに他の子が全員欠席して一人しかいないって嘆いてたから、ちーちゃんを誘おうよ』
『お、いいね。じゃあ俺も適当に男子誘っとくよ』
『うん、任せるね』
壬生さん?それは任せていいやつなの?その女、男を連れてくるって言ってんだよ?ねえ、君の彼氏はそこには行けないんだよ?わかってる?
たったった、と誰かが走っていく音がする。やがて音が消えると、壬生さんの声がスマホから聞こえてきた。
『根東くん、よかったね。今夜、なにかが起こるかもしれないよ』
「壬生さん…」
『うん?なーに?』
なんでそんな優しい声で、まるで彼氏のために一肌脱いだよ、みたいな反応をするの?
まったく、僕の彼女はなにを考えているやら。ここは一言、きっちり彼氏として彼女を叱るべきだ。
「夜、楽しみにしてるよ」
『うん、任せて』
あ、しまった。つい口が滑った。考えていることとまったく逆のことを言ってしまった。どうやら僕の脳はもうピンク色の感情に制圧されてしまったのかもしれない。
おのれこの寝取られ性癖め!お前のせいで壬生さんがとんでもないことになったらどうすんだよ!
…もしそんなことになったら…やべ。ちょっと興奮してきた。
大丈夫だよね?なんか凄い不安だよ。でも不安が増大するほど興奮も大きくなるんだよなあ。どうなってんだよ、この体。
その後、しばらく連絡はなく、僕は期待と興奮に胸をドキドキさせながら受験勉強をしていた。なぜだろう?素晴らしく集中できた。彼女が寝取られるかもしれないというこの危機に、なぜか心中が穏やかだ。
本来であれば、もっとこう、危機感を持つべきなのかもしれない。しかし僕の心はもう、どんなことが起こるのだろうという期待でわくわくが止められないのだ。完全に遠足前日のキッズだよ。
まだかな。まだかな。
やがて壬生さんから通話がきた。
僕はさっと通話をオンにする。すると、外が騒がしく、男女が楽しく歓談に耽っている様子がうかがえる。
『それじゃみんな集まったし、乾杯するか!カンパーイ!』
『『カンパーイ!!!!』』
男の声が乾杯の音頭をとると、それに合わせて男女の声が乾杯と一斉にあがり、がやがやと会話が弾む。
一体なにを飲んでいるのだろう?お酒じゃないよね?ジュースだよね。きっとオレンジジュースとか、ウーロン茶とか、そういうのだよね?
『壬生さんとこうやって話すの初めてだよね!』
『そうだっけ?』
『そうそう、同じ部活なのに、あんまり話せないよね!』
『うん、じゃあ今夜は一緒にいれて良かったね』
『え!あの、そうだね!よかったらもっと仲良くしよう!』
なんだこいつ?俺の彼女と仲良くなってんじゃねえよ。普段あまり他人に対して興味を抱かない僕も、今夜ばかりは他の男に対して殺意が湧いてしょうがないよ。
『そういえば美紀ちゃんが言ってたんですけど、壬生先輩って彼氏いるって本当なんですか?』
『うん、本当だよ、ちーちゃん』
ナイスだよ、ちーちゃん。顔も知らないような女子に対して僕はこの時、盛大なる感謝の念を捧げた。
『え!壬生さん、彼氏いるの!ウソでしょ』
本当だよ、クズが。だから近寄るんじゃねえぞ。
『うわあ、ショックだわ。俺、壬生さん大好きだったのに』
『あらあら、可哀そうに』
『え、そう思う?じゃあ杏さん、俺と付き合おうよ』
『ダメだよ。私も彼氏いるから』
どうやら杏さんという女性も彼氏がいるらしい。それだとほとんどの女子が彼氏持ちってことにならないか?
『そういえば、ちーも幼馴染の彼氏がいるって聞いたけど?』
『ええ!なんで百崎先輩、知ってるんですか?』
『いや、その彼氏と俺の彼氏が知り合いだから』
『うう、内緒にしてたのにー』
あれ?全員彼氏持ちじゃん。なんというか、陽キャ感、半端ねえな。
いや、もう気づいているよ。これ、陽キャの集まりだよ。だってすごく楽しそうに会話が弾んでいるんだもん。陰キャにこの楽しい空気は再現できないって。
しかし、スマホ越しに会話を聞いている限り、確かにエッチな会話もときどきするが、あからさまに他人を貶めるような下品な会話はなかった。本当に友人同士、気兼ねなく場の空気を楽しんでいる、そんな感じだ。
男だからといって、必ずしも狼になるというわけではないのだろう。ここの連中は少なくともそういうタイプではない。
なんだか急に自分が恥ずかしくなった。たかが彼女が他の男と会話する程度のことで嫉妬をするだなんて、すごくバカバカしい。彼らにその気なんてないよ。彼らにあるのはただ純粋に、同じ部活動の仲間と楽しい思い出を作ること、それぐらいだよ。
これが青春か。こういうのも悪くないかな。
『みんな大変!』
そんな陽キャの空気を壊す声がする。
『先生が見回りにきたよ!早く解散して!』
ん?先生が来たか。まあ合宿だし、当たり前だよね。そういえばそろそろ深夜だ。
『やべ!』
『早く部屋に戻らないと!』
『じゃあみんなおやすみ!』
『急がないと、イテッ!』
『ちょっと、もう時間ないよ!隠れて!』
…ん?なんか、変な会話があったな。
『お前たち、いつまで騒いでんだ。もう消灯だぞ、寝なさい』
『『はーい』』
『じゃあ電気消すぞー』
パチン。おそらく教師によって電気が消されたのだろう。今までの陽キャの空気が消失し、一斉に静けさが訪れる。
…どうしよう?もうこれ以上聞いても無駄かな?
さっさとスマホの通話を切ればいいんだけど、なぜか壬生さんはスマホを切らない。一体なぜ?
『…』
『…』
がさがさ。
『……あ♡』
なんか変な音しなかった?
『ご、ごめん。つい…』
『ううん、いいよ。それより、どうする?』
スマホが男と女の声を拾っていた。
『そろそろ先生も行ったし、もう部屋戻るよ』
『いいの?なにもしなくて?』
『え?』
え?
奇跡的に僕の心の声と謎の男子の声が一致する。
『もうみんな寝たみたいだし、今ならエッチしてもバレないよ?』
『…いいのか?』
よくねーよ。
『もう、布団の中に一緒に隠れたせいで、変な気分になっちゃったよ。どうしてくれる?』
『…わかったよ。じゃあ他の女子にバレないように、布団の中でやるか』
『うん♡』
え、こいつら始める気?始めるつもりなの?っていうかこの女子、誰だ?壬生さんじゃないよね!壬生さんが僕の寝取られ性癖に気を遣って男を誘ってるとかないよね。
『……ブツ』
あ、通話が切れた。しまった、バッテリーがもうない!
充電しないと!一刻も早く充電しないと!
僕はすぐにケーブルを差し込んで充電を開始する。まあ充電をしたところで通話ができなきゃ意味ないんだけどね。
…どうなったのだろう?あの謎の男子と女子は一体その後、どうなったんだろう?やべえ、なんかすごい気になってきた!どうなるの?
…壬生さん、じゃないよね?他の女子だよね?そうだと言ってよ、壬生さん!
それから二時間ぐらい経過した頃だろうか?
ピロンという軽快な音とともに壬生さんからメッセージが来る。
やばい、どうしよう?見たくない。でも見たい、一体壬生さんはどんなメッセージを送ってきたんだ?お願いだから、寝取られ報告じゃありませんように!でもそれはそれでなんか興奮してしまう!僕はどうすればいいんだ!
『聞いてた?』
メッセージを返す。
『うん』
『じゃあここでクイズ』
え、そんなクイズを出す雰囲気だったっけ?
『女の子四人、男の子一人がいるこの部屋で、可愛い女の子が男の子に食べられちゃいました。狼さんに食べられちゃった村娘はだーれだ?』
え、そんなスケベな人狼ある?
『四人の女の子は、百崎瑞樹、高坂千幸、宗像杏、そしてわたしの壬生来沙羅。正解は、明日帰ってから教えてあげる』
合宿の二日目にして、NTR式人狼が始まってしまった。
「あのー、そろそろ終わりそうですか?」
「え!壬生さん!」
「ば、バカ!変なところ触るな!って、来沙羅!やだ、見ないで!」
室内では若いテニス部の男女が裸も同然の姿で絡み合っていた。
「あのね、私も見て見ぬフリをしようかなって、思ったの。でもね、二人の声が外まで響いてて…」
きっと今の今まで二人は愛を確かめ合っていたのだろう。しかし第三者が参加することで急速に雰囲気は冷め、二人とも気まずそうな顔をしてお互いに見合わせた。
「その声がうるさくてね。私の体も火照ちゃったったの」
「「へ?」」
ガチャリ、と扉を閉めて鍵をかける。彼女は体操着を脱ぎつつ、つい先ほどまで彼女を抱いていた男子部員の方へと近づく。上着を脱ぐと、形の良い乳房がたわわに揺れた。彼女はそのまま両腕を男の首の後ろにまわして、密着する。
「私も参加していいかな?」
「ちょ、来沙羅!なに考えてるの?」
「別にいいでしょ?減るもんじゃないし」
「え、その、俺は瑞樹が良いって言うなら…」
「いいわけないだろ!」
突然の事態に困惑し、同時に怒りの感情を露わにする瑞樹。そんな彼女の反応を楽しむように、「そもそもこうなった原因って、瑞樹のせいでもあるんだよ?責任取って欲しいな」と挑発する。
「それに、私が相手でも彼氏くんは興奮できるみたいだけど?」
「このバカ!なに考えてんのよ!そんなの、絶対ダメだよ!」
彼氏が取られるかもしれない。そう思って焦るあまり、瑞樹は彼氏に抱きついてキスをする。
「こいつは私の彼氏なんだから!来沙羅は取っちゃダメ!」
「ふふ、じゃあどっちが気持ち良いか、彼氏くんの体で試してみましょうか?」
一人の男の体を求めて二人の女の体が絡み合う。
男一人、女が二人。そんなハーレムに似た状況下で再び、行為が始まろうとしていた。
…
…
…
「…え?逆寝取られ?」
気づいたら自分の部屋で目を覚ましていた。どうやら今の光景は夢だったようだ。よかった。でもなぜだろう?涙が止まらない。この涙は壬生さんが夢とは言え寝取られなかったことに対する安堵の涙なのか?それとも続きが見たかったのに途中で止められたことに対する悲しみの涙なのか?自分でもよくわからなかった。
一夜明けて、今日は合宿の二日目だ。なぜ合宿に参加していない人間が、こうも詳細にテニス部の合宿のスケジュールを管理しなければならないのだろう?意味がわからないよ。
それにしても、僕の脳内の壬生さん、なんかどんどんスケベになってる気がする。まさか寝取られどころか、他人の彼氏を誘惑して奪うとは。彼女がどこまでエロくなっていくのか、非常に興味がありますね。
今日も今日とてよく晴れた快晴だった。どうせなら雨でも降ればいいのに…いやダメだ。それでテニスを止めて室内でトレーニングなんてしてみろ。寝取られチャンスが到来しちゃうじゃないか。
いいんだよ、晴れで。健全にテニスをしている限り、エッチなハプニングなんてそうそう起きないんだから。
問題は、夜だな。
昨日の件があるだけに、今日も今日とて気が抜けない。僕は今日に備えて外出を控え、自宅で受験勉強でもすることにした。
「…物理、やるか」
文系の僕にとって、物理は鬼門中の鬼門だ。はっきり言って苦手。できれば避けて通りたい。しかし壬生さんと同じ大学に進学するとなると、もう逃げるわけにもいかないか。
壬生さんは僕のレベルに合わせてくれるといったけど……、うん、それはダメだよな。ちゃんとやるか。
そんなこんなで以前、壬生さんに選んでもらった物理の参考書で勉強を始めた。
勉強を始めてから二時間ほど経過したころだろうか。昼食を済ませて勉強を再開しようという時、スマホが鳴った。
画面を見れば、壬生さんだった。
どくん。なぜだろう?動悸が激しくなる。
いやいや、大丈夫だろ。流石にまだ昼だよ?こんな時間帯からお盛んにはならんでしょ!大丈夫だって、壬生さんを信じろ!…信じていいよね、壬生さん!
「も、もしもし」
『もしもーし、根東くん?今はなにしてるの?』
壬生さんの声だ。彼女のこの綺麗な声を聞いていると心が洗われ、癒される。頼む、ひと時でいいからこの癒しを奪わないで!お願いします!
「今は物理の勉強してるよ」
『そうなんだー。偉いね!』
「うん!壬生さんのために頑張ってるよ!」
『うーん?私のために受験勉強してるの?』
「そうだよ!それ以外に進学する理由ないよ!」
『じゃあ、付き合う前はなにを理由に勉強してたんだろ?』
さすが壬生さんだ。冷静に突っ込んでくる。
「あの頃は、働きたくないから頑張ってた。今は違うよ!」
『そうなんだ。じゃあ付き合って正解だったね』
「そうだよ!危うく目的もないダメ人間が製造されるところだったよ!」
あれ?なんで自分のことディスってんだろ?
『それで、今はどこを勉強してるの?』
「え、熱力学について勉強してるところだけど…壬生さん、なにかコツってある?」
『うーん、公式を丸暗記するしかないかもね。PV=nRTの状態方程式と、Q=ΔU+Wの熱力学第一法則の二つは絶対忘れちゃダメだよ』
「う、うん。そうなんだー」
『熱力学は公式を適用させることだけ考えればなんとかなるよ』
「うん、わかった!そうするよ!」
正直よくわかっていなかったが、まあ壬生さんが言うなら間違いないだろう。
『おーい、来沙羅ー!今暇してる?』
『あ、ごめん、友達がきた。ちょっと待っててね』
誰かが来たようだ。
『どうしたの?』
『いや、暇なら俺とラリーの練習しない?』
『うーん、どうしようかなあ』
俺という主語を使っているが、声の質からして女の子だろう。これが男の声だったら僕の脳が壊れるところだが、あくまで口調が男っぽいだけの俺っ娘さんならばそれほど脳は破壊されない。むしろ女の子同士、仲良くテニスをするなんて癒される光景じゃないか。
『それにしても元気だよね』
『え?なんで?』
『だって瑞樹、昨日彼氏とエッチしてたじゃん』
前言撤回しよう。ちょっと脳が破壊されそうだわ。
っていうかこの女子かあ、昨日壬生さんが廊下で待つことになった原因作ってたのは!
『いやー、あれは本当に悪いなって思ってるよ。ごめんな』
『ううん、もう気にしてないからいいよ』
『お、そうなの?いや、うーん、どうなんだろう?実はさ、俺の彼氏がさあ、迷惑かけて申し訳ないってことで、今夜部屋に集まって一緒に遊ばないかって言ってたんだよ。来沙羅、よかったら今夜、一緒に遊ぶ?』
このクソ女ああああ!俺の彼女にななななな、なんてもん誘ってんだよ!男がいる部屋に俺の彼女を連れ込もうとすんじゃねえよおおおおおおおお!
『うん、いいよ』
壬生さああああああん!なんであっさり提案を受け入れるの!え、遊びってキッズがやるようなお子様の遊びだよね!まさか男子と女子が集まってくんずほぐれつの大人の遊びとかしないよね!しないよね!
『お、いいの?じゃあ、どこでやろうか?俺たちの部屋、二人部屋で狭いしな』
『一年の女子が五人部屋だって言ってたから大きいみたいだよ』
壬生さん?なに大人の都合に後輩を巻き込もうとしてんの?壬生さんってやっぱり、ちょっとビッチなところあるよな。
『確か、ちーちゃんの部屋が五人部屋なのに他の子が全員欠席して一人しかいないって嘆いてたから、ちーちゃんを誘おうよ』
『お、いいね。じゃあ俺も適当に男子誘っとくよ』
『うん、任せるね』
壬生さん?それは任せていいやつなの?その女、男を連れてくるって言ってんだよ?ねえ、君の彼氏はそこには行けないんだよ?わかってる?
たったった、と誰かが走っていく音がする。やがて音が消えると、壬生さんの声がスマホから聞こえてきた。
『根東くん、よかったね。今夜、なにかが起こるかもしれないよ』
「壬生さん…」
『うん?なーに?』
なんでそんな優しい声で、まるで彼氏のために一肌脱いだよ、みたいな反応をするの?
まったく、僕の彼女はなにを考えているやら。ここは一言、きっちり彼氏として彼女を叱るべきだ。
「夜、楽しみにしてるよ」
『うん、任せて』
あ、しまった。つい口が滑った。考えていることとまったく逆のことを言ってしまった。どうやら僕の脳はもうピンク色の感情に制圧されてしまったのかもしれない。
おのれこの寝取られ性癖め!お前のせいで壬生さんがとんでもないことになったらどうすんだよ!
…もしそんなことになったら…やべ。ちょっと興奮してきた。
大丈夫だよね?なんか凄い不安だよ。でも不安が増大するほど興奮も大きくなるんだよなあ。どうなってんだよ、この体。
その後、しばらく連絡はなく、僕は期待と興奮に胸をドキドキさせながら受験勉強をしていた。なぜだろう?素晴らしく集中できた。彼女が寝取られるかもしれないというこの危機に、なぜか心中が穏やかだ。
本来であれば、もっとこう、危機感を持つべきなのかもしれない。しかし僕の心はもう、どんなことが起こるのだろうという期待でわくわくが止められないのだ。完全に遠足前日のキッズだよ。
まだかな。まだかな。
やがて壬生さんから通話がきた。
僕はさっと通話をオンにする。すると、外が騒がしく、男女が楽しく歓談に耽っている様子がうかがえる。
『それじゃみんな集まったし、乾杯するか!カンパーイ!』
『『カンパーイ!!!!』』
男の声が乾杯の音頭をとると、それに合わせて男女の声が乾杯と一斉にあがり、がやがやと会話が弾む。
一体なにを飲んでいるのだろう?お酒じゃないよね?ジュースだよね。きっとオレンジジュースとか、ウーロン茶とか、そういうのだよね?
『壬生さんとこうやって話すの初めてだよね!』
『そうだっけ?』
『そうそう、同じ部活なのに、あんまり話せないよね!』
『うん、じゃあ今夜は一緒にいれて良かったね』
『え!あの、そうだね!よかったらもっと仲良くしよう!』
なんだこいつ?俺の彼女と仲良くなってんじゃねえよ。普段あまり他人に対して興味を抱かない僕も、今夜ばかりは他の男に対して殺意が湧いてしょうがないよ。
『そういえば美紀ちゃんが言ってたんですけど、壬生先輩って彼氏いるって本当なんですか?』
『うん、本当だよ、ちーちゃん』
ナイスだよ、ちーちゃん。顔も知らないような女子に対して僕はこの時、盛大なる感謝の念を捧げた。
『え!壬生さん、彼氏いるの!ウソでしょ』
本当だよ、クズが。だから近寄るんじゃねえぞ。
『うわあ、ショックだわ。俺、壬生さん大好きだったのに』
『あらあら、可哀そうに』
『え、そう思う?じゃあ杏さん、俺と付き合おうよ』
『ダメだよ。私も彼氏いるから』
どうやら杏さんという女性も彼氏がいるらしい。それだとほとんどの女子が彼氏持ちってことにならないか?
『そういえば、ちーも幼馴染の彼氏がいるって聞いたけど?』
『ええ!なんで百崎先輩、知ってるんですか?』
『いや、その彼氏と俺の彼氏が知り合いだから』
『うう、内緒にしてたのにー』
あれ?全員彼氏持ちじゃん。なんというか、陽キャ感、半端ねえな。
いや、もう気づいているよ。これ、陽キャの集まりだよ。だってすごく楽しそうに会話が弾んでいるんだもん。陰キャにこの楽しい空気は再現できないって。
しかし、スマホ越しに会話を聞いている限り、確かにエッチな会話もときどきするが、あからさまに他人を貶めるような下品な会話はなかった。本当に友人同士、気兼ねなく場の空気を楽しんでいる、そんな感じだ。
男だからといって、必ずしも狼になるというわけではないのだろう。ここの連中は少なくともそういうタイプではない。
なんだか急に自分が恥ずかしくなった。たかが彼女が他の男と会話する程度のことで嫉妬をするだなんて、すごくバカバカしい。彼らにその気なんてないよ。彼らにあるのはただ純粋に、同じ部活動の仲間と楽しい思い出を作ること、それぐらいだよ。
これが青春か。こういうのも悪くないかな。
『みんな大変!』
そんな陽キャの空気を壊す声がする。
『先生が見回りにきたよ!早く解散して!』
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『やべ!』
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…ん?なんか、変な会話があったな。
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『『はーい』』
『じゃあ電気消すぞー』
パチン。おそらく教師によって電気が消されたのだろう。今までの陽キャの空気が消失し、一斉に静けさが訪れる。
…どうしよう?もうこれ以上聞いても無駄かな?
さっさとスマホの通話を切ればいいんだけど、なぜか壬生さんはスマホを切らない。一体なぜ?
『…』
『…』
がさがさ。
『……あ♡』
なんか変な音しなかった?
『ご、ごめん。つい…』
『ううん、いいよ。それより、どうする?』
スマホが男と女の声を拾っていた。
『そろそろ先生も行ったし、もう部屋戻るよ』
『いいの?なにもしなくて?』
『え?』
え?
奇跡的に僕の心の声と謎の男子の声が一致する。
『もうみんな寝たみたいだし、今ならエッチしてもバレないよ?』
『…いいのか?』
よくねーよ。
『もう、布団の中に一緒に隠れたせいで、変な気分になっちゃったよ。どうしてくれる?』
『…わかったよ。じゃあ他の女子にバレないように、布団の中でやるか』
『うん♡』
え、こいつら始める気?始めるつもりなの?っていうかこの女子、誰だ?壬生さんじゃないよね!壬生さんが僕の寝取られ性癖に気を遣って男を誘ってるとかないよね。
『……ブツ』
あ、通話が切れた。しまった、バッテリーがもうない!
充電しないと!一刻も早く充電しないと!
僕はすぐにケーブルを差し込んで充電を開始する。まあ充電をしたところで通話ができなきゃ意味ないんだけどね。
…どうなったのだろう?あの謎の男子と女子は一体その後、どうなったんだろう?やべえ、なんかすごい気になってきた!どうなるの?
…壬生さん、じゃないよね?他の女子だよね?そうだと言ってよ、壬生さん!
それから二時間ぐらい経過した頃だろうか?
ピロンという軽快な音とともに壬生さんからメッセージが来る。
やばい、どうしよう?見たくない。でも見たい、一体壬生さんはどんなメッセージを送ってきたんだ?お願いだから、寝取られ報告じゃありませんように!でもそれはそれでなんか興奮してしまう!僕はどうすればいいんだ!
『聞いてた?』
メッセージを返す。
『うん』
『じゃあここでクイズ』
え、そんなクイズを出す雰囲気だったっけ?
『女の子四人、男の子一人がいるこの部屋で、可愛い女の子が男の子に食べられちゃいました。狼さんに食べられちゃった村娘はだーれだ?』
え、そんなスケベな人狼ある?
『四人の女の子は、百崎瑞樹、高坂千幸、宗像杏、そしてわたしの壬生来沙羅。正解は、明日帰ってから教えてあげる』
合宿の二日目にして、NTR式人狼が始まってしまった。
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