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5.迫る危機

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 森の中のエルフの道を進んでいくと、キンバリーがときおり鋭い視線を向けていることに気が付いた。

 最初のうちは、野生動物に警戒しているのかと思ったが、徐々にソワソワとしはじめているため、さすがに鈍い僕でも何か心配ごとがあるんだと察した。
「どうしたんだい? なにか気になることが?」
「アキノスケ様、少し言いづらいことなのですが……」

 頷くと、キンバリーは歯切れ悪そうに話を続けた。
「森の中で特殊な道を使っているのは、我々エルフだけではないのです」
 話を聞いて、それはそうかもしれないと思った。
 この世界の事情は詳しくはないけど、エルフがこのような道を使っているということは、他の種族も独自のルートを持っていたとしても不思議な話ではない。

「それって例えば……大神の道とか?」
 精霊がいるのだから、神様もいるだろうと思いながら言ってみると、彼女はびくっとした。
「そ、その通りです……ウェアウルフたちの使っている道が隣接するようにあるのです」

 どうやら、大神ではなくオオカミだったようだ。
 でも、それならそれで厄介な話だと思う。オオカミはかなり嗅覚が発達している動物だし、群れで行動しているから、山賊のように襲って来られたら……今の僕たちでは手に負えないのではないだろうか。


「もう少し、速めに歩くかい?」
「それが……妙なのです」
「妙?」
「はい。オオカミの道から、彼らの気配を感じません。こんなことは……初めてです」
 キンバリーでさえも気配を感じないというところに、妙な胸騒ぎを覚えた。彼女の聴覚や第六勘はかなりのモノのはずだ。

 それですら気配を感じないということは……
 …………
 …………
 鈍いことで定評のあるはずの僕の勘は、驚くほど素早く仕事をしていた。
「何か来る!」


 そう叫んだ直後に、僕は素早く身を翻していた。
 ほぼ同時に、頭上から黒い何かが振ってきて、僕のいたところに着地し、僕は慌てて藪の中に飛び込んでから表の様子を見た。

「………くっ!」
 なんとキンバリーは、ウェアウルフに取り押さえられ、うつ伏せに組み伏せられていた。

 間もなく、僕を襲おうと木から降ってきた奴は、すぐにナイフを抜いて藪の中の僕を睨みつけてくる。
 位置関係も、全てお見通しのようだ。

 どうしよう……このまま捕まればどんな目に遭わされるかわからないし、かといって逃げるにしても、人間と獣人では身体能力が圧倒的に違いそうだ。

 
 いやせめて、僕だけでも逃げないと……!
 そう自分を奮い立たせると、僕の身体は自然と動いて、森の中を走り出した。
 しかし、エルフの道も知らなければ、素早く動ける身体も、オオカミのような嗅覚もない。

 僕を追ってくるウェアウルフも、まるでバカにしている雰囲気のまま、ゆっくりと追ってきた。その空気を言葉に直せば、よちよち歩きの子供を捕まえようとする大人というべきだろう。

 誰がどう見ても、僕の逃亡は単なる悪あがきだろう。みんながバカにしているからこそ、僕はたった1つの切り札を使うタイミングを測った。
 ちょうど、ウェアウルフから見て樹木の死角になる場所に駆け込むと、僕はアビリティを使う決意をした。

ーーアビリティ ユニコーンケンタウロス!

 すると、僕の視野は見る見る広がっていき、首も太く長くなり始めた。
 胴体もみるみる膨らんでいき、バキバキと音を立てながら骨や関節が変化していき、全身の毛穴からは真っ黒な毛が生えてくる。

 両手に目をやると、指先の関節も太く長くなっていき、5本の指が繋がっていき、爪の先が蹄のような形状になった。衣服類はアイテムとして保管されたが、手綱や鞍という形状にして出すこともできるようだ。

 ウマに変化した僕は、力強く森の奥に駆けていくと、今まで僕を追ってきたウェアウルフは、目を白黒させながら僕が変身した場所で立ち尽くしていた。


 どうやら、臭いで追尾してきたウェアウルフには、僕が変身したことはわからなかったようだ。
 突然、臭いが消えたので、ワープしたと思っているのかもしれない。
「こんなところにウマを……いや、アビリティで召喚したのか!」

 黒毛のウマになった僕は、森の中を駆けながらキンバリーの匂いを探した。
 ウマだって、オオカミほどではないが、人間の1000倍くらいのにおいを感じ取る力があるようだ。これなら走りながらでもにおいを感じることができる。



 どれくらい走っただろう。
 さすがに疲れたので一休みしていると、懐かしいキンバリーの甘い匂いを感じた。

ーーこれは近くにいる!


 そう直感しながら、茂みの中を這うように進んでいくと……彼女は後ろ手に縛られて連行されていた。

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