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32.人魚の村にジルー隊を投入

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 僕ことチャンスコネクターは、すでにジルーのいる森で待機していた。
 分身である仔馬は、村長や巻き込まれたマーフォークの若者たちを引き連れて川を渡り、僕の側までたどり着く。
「お父さん……ごめん、強硬派に先手を打たれちゃった」
「想定内だよ。ジルー……準備は?」

 ジルーに視線を向けると、彼女はしっかりと頷く。
「いつでも、出撃できます!」
「よし、行くよ!!」
 僕はそう言いながら川へと向かうと、次々とジルー隊のコボルドやアタックドッグが続いた。
 まだ逃げてきているマーフォークの若者たちは立ち止まったが、僕と一緒に走っているマーフォークの青年が機転を利かせてくれた。
「安心しろ! 彼らは仲間だ! 一角獣の軍勢だぞ!!」
「おお! 狼ではなくユニコーンの軍勢か!」
「それなら、ケガの心配は要らないな!」

 今までは逃げ一点だったマーフォーク穏健派だが、僕の援軍を見て一気に士気を高めたようだ。
 逆に今まで走ってきた強硬派は、まさに悪夢だったのだろう。コボルドやアタックドッグを見て、次々と逃げ出しはじめている。
 実は、彼らマーフォークの耐久力があれば、コボルドやアタックドッグの攻撃は決め手にならないことが多いのだが、遠くからだと、コボルドとウェアウルフの違いを見分けるのは難しい。

 僕たちは浅瀬を通りながら、次々とマーフォークの村へと突入すると、武装したマーフォークたちを倒しながら人魚の村を制圧していく。

 どうやら、強硬派は村長の家族などを人質に取ろうとしていたようだが、お粗末なことに武装した連中が僕たちを見て逃げ出してしまっている。
 僕は村長の家族が無事なことを確認すると、すぐにジルーを見た。
「ジルー。武器庫を管理していたマーフォークを捕えて欲しい」
「そのことなんだけど、すでに捕まえているよ」

 彼女が指を弾くと、後ろ手縛りにされた武器庫番のサムが連行されてきた。
「……な、なんでバレたんだ?」
 ジルーはサムを睨みながら言う。
「しっかりと情報があったから、アンタの情報は筒抜けだったよ?」
「ま、まさか……仲間に裏切り者がいたのか!?」

 その言葉を聞いてなるほどと感じた。
 コイツは村長たちを裏切って強硬派に寝返っていたから、強硬派の中にも自分のようなモノがいると思っているということか。
 本当の情報筋を守る意味でも、僕はあえて笑いながら答えることにした。
「意外と察しがいい男だね」
「…………」
「こちらに寝返るつもりはないかい?」
「バカな、俺が……」
「家族が病気になったとき、医者にかかるお金は?」

 その言葉を聞いて、倉庫番のサムは表情を曇らせた。
 どうやら、この男は金を積まれて強硬派に与しているようである。
「……実は、家族に病気の者がいるんだ」

 ジルーは僕を見たので、僕は頷きつつも左脚を後ろに下げた。
 これは、コイツはデタラメを言っているとジルーに伝えているのである。本当はこの男は、仲間内のギャンブルに負けて金を巻き上げられ、家族から盗んでいるから金が必要なのだとカテリーナから報告を受けている。

 僕は頷くと答えた。
「よし、君のことは見逃そう……」
 そして耳元で囁く。
「だから、二重スパイをしてくれ」
「…………」
 サムはゴクリと唾を呑むと、こちらを見た。
「お、おい……そんな簡単には……」
「大丈夫。既に強硬派には3名ほどスパイを潜り込ませているし、成功した暁には充分な恩賞も用意しよう」

 彼が頷いたので、僕はジルーに縄を解くように合図する。
 彼女に縄を解いてもらうと、マーフォークのサムは何事もなかったかのように僕たちの前から立ち去って行った。

 間もなく、村長は不思議そうに質問してくる。
「あの、これではサムは……また裏切るのでは?」
 尤もな意見だと思いながら、僕は答えた。
「その通りだと思います。ですが、これで僕は大したことのない浅はかなウマだと思うでしょうし……」
 僕は辺りを見ながら答える。
「実は、敵陣に僕に通じている間者は独りもいないのです」
「え……っ!?」

 実は、僕はサムを目くらませ用の人員として送り込んでいた。
 だから僕を裏切って、強硬派の頭に間者が3人いると伝えれば相手陣営を混乱させるし、二重スパイを行って僕に情報を流しても良し、失敗して処刑されても信用できない人物なので良心が痛むこともない。

 特に相手方は、戻ってきたサムに注意が向くのだから、野鳥たちが安全に監視できるというワケである。


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