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公開お仕置き

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 私は会社につくと、そのまままっすぐに社長室に連れて行かれた。私たちの後ろには、ぴたりと佐久間さんが付いてきた。

「…つまり、駅でお前を見たというものがいるのにも関わらず、お前はいつまで経っても会社に来ない、と。その上、お前とは音信不通。誰が電話しても、電話にでない」

 俊光様はいつもと同じように、デスクの向こうの椅子に座り佐久間さんはその斜め後ろに立っている。私は2人に見つめられるまま、部屋の真ん中に立っていた。

「無断欠勤、とは、全くお前はなにを考えてるんだ?私を困らせたいのか?」

「そうじゃ…なぃ…っ…です」

 私はなんとか言葉を絞り出す。俊光様はそんな私の顔をじっと見つめていたが、佐久間さんは私ではなく俊光様を見て口を開いた。

「俊光様、つまりこれが甘えということなんですよ。あなたが彼ばかりを構うから…最低限、社長と秘書の関係は保っていただけないから、会社にとって、こういう問題になるんです」

「佐久間、お前の言う会社にとっての問題、というのはなんなんだ?」

 俊光様が佐久間さんを振り返って冷静に尋ねる。佐久間さんは、眉間に皺をよせる。

「問題、というのは…彼がいないとなっただけで、あなたが今にも会社を飛び出して探しに行こうとなさることとか、すぐに来客の予定を取り消されたりすることです。彼の方でも、そんな風にあなたが自分を探しに来てくれると、そう思っていたから無断欠勤なんてしたのでしょう?!」

「確かに私に迎えに来いというのは、さすがに我が儘が過ぎたように思うが…。今回の原因は、お前の考えているのとは違うと私は思うぞ」

 俊光様は、ゆったりと背もたれに腰掛け、胸の前で組んだ両手の指をもてあそぶ。

「私は、お前に言われたことも一理あると思い、会社では千尋と距離をとるべきだと考えた。けれど、そうした結果がこれなのではないか?千尋は、エレベーターに乗りたいがために走って人にコーヒーをぶっかけるような、一方向しか見えないような馬鹿に単純な性格だ。私が常にリードをつけておかなければ、捨てられたと思って走り出してしまう」

 コーヒーのくだりで、激しく怒った様子の佐久間さんの顔の頬がわずかに緩む。

「今回のことは、千尋の甘えではなく私への心の突っ掛かりに原因があり、つまり責任は私にもある」

 俊光様はそう言って佐久間さんの方ではなく、私に微笑みかけた。私はなんだか、心の奥の奥まで俊光様に覗き込まれて、漂う気持ちを全部掬いあげられたような気持ちになった。

「……まぁ、とは言っても、佐久間にも他の秘書たちにも散々に迷惑をかけたことに対する仕置きは必要だと思うが」

 佐久間さんは俊光様の語りに、渋い顔をしながらも「わかり、ました」と納得したような相づちを打った。

「佐久間の理解を得たところで。あとはお前への仕置きだけだな」

 俊光様はすぐに微笑みをかき消して、おもむろにデスクの下の引き出しを開く。俊光様が引き出しから取り出したのは…。

「鋲付きのパドルだ。千尋が、とんでもない問題を起こさないかぎり、使うことはないと思っていたが…」

 その黒くて丸いパドルの表面には、画鋲を差し込んだような突起がいくつも装着されていた。普通にただ平べったいだけのパドルであれば、尻の全体にあたるだけで痛みは均一だが…。そのパドルの鋲の部分がいかに肌に突き刺さるかとそんなことを考えただけで、冷や汗が背中をつたう。

 パドルを持った俊光様に歩み寄られ、私がいつものように、下着をおろせ、という命令を覚悟したとき、俊光様は私の片腕を掴んでそのまま歩き出す。

「佐久間、お前も付いてこい」

 俊光様が私を引っ張って社長室を出ると、お喋りをしていたらしい受付嬢たちは急に黙り込んで、それから目を見張るようにして私と俊光様を見た。

 俊光様はそんな視線には目もくれず、エレベーターまで向かうと、一階下のボタンを押す。

「あの、俊光様…?」

 俊光様が私の腕を握ったままエレベーターを降りて、そしてそのまままっすぐに秘書室に向かい始めたときに、私はやっと状況を飲み込んで、ぐっと両足に力をこめる。

「と、俊光さま…っ…あの、そっちには……」

「どうした?今日は秘書達に迷惑をかけたのだから、その皆の前で仕置きをしようというだけの話だ」

 私は足を引きずられながら、必死に頭をふる。後ろに付いてきていた佐久間さんも「本気ですか」と、信じられないといった声で尋ねる。

「本気に決まっているだろう。どっちにしろ、千尋を会社でも、いち秘書として扱うなどもうできないともう分かったのだから、公表していくしかないだろ。千尋は私の大切な子だから、特別に手をかけてやると」



 もっと別の状況なら舞い上がるような言葉のはずなのに、今まさに見るからに痛々しいパドルで叩かれそうになっているときに言われても困る。しかも皆の前はさすがにと、止めてくれそうだった佐久間さんが、その言葉に納得して「それならいいですけど」と引き下がってしまい、仕置きを免れる望みが薄くなる。

「俊光様…っ……おねがぃっします…っ」

「ダメだ。もう、皆の前でやると私が決めた」

 頑なな俊光様の前に私がへなへなとしゃがみこんだそのとき、廊下の先の秘書室の扉が開いて後藤さんが現れた。

「ご、とうさん…っ」

「渡辺くん!!よかった、見つかったんですね」

 後藤さんが心底、安心した顔で駆け寄ってきて、ほんの一瞬俊光様の足元にしゃがんだ私を戸惑うように見下ろしたあと、すぐに目線を合わせるようにしゃがみこんだ。

「渡辺くん。全く連絡がつかず皆で心配しましたよ」

「申し訳、ありません…」

 後藤さんのまっすぐな瞳に、私は心苦しくなってその場に膝をついて頭をさげる。

「何か困ったことがあれば相談してくださいと、言ったでしょう。そんなに私では頼りないですか」

「そ、んなこと、ないです…っ」

 後藤さんにそんな気持ちを抱かせる気は更々なかった。自分の罪悪感ばかり胸に広がっていく。

「千尋。後藤にも、他の秘書たちにも、きちんと反省しているところを見せなければならないな」

 俊光様にそう言われて、私はやっと首を縦に振った。


 自分で気持ちを固めたとはいえ、俊光様と佐久間さんと全く状況の把握していない後藤さんと秘書室に入り、俊光様に呼ばれてちょうどお昼休憩をとっていた秘書達が集まってくると、身体は火照り、足は震えた。

 俊光様が皆に説明するような声も、右から左に抜けていく。

「…それで、理由があったとはいえ、無断欠勤をするような千尋には、ここで仕置を与える。千尋、お前は今から何をされる?」

 全く動じることなく黙って俊光様の話を聞いていた秘書達が一斉に私を見る。私はからからに乾いた喉で、唾液を飲みこみ息をつく。

「お尻を…叩かれます」

「そうだ。それならば何時ものように、体勢をとってみせろ。手は壁だ」

 いつものように、というのは…。私は固まって俊光様を見つめる。

「と、俊光…様…、こ、このままじゃ…ダメですか…」

「なんだ、今までお前は尻を出さずに受けた仕置があったか、ないだろう?さっさと、尻をだせ」

 視界の端で後藤さんが止めに入ろうか迷っている顔をしているのに気がついて、後藤さんに甘えるわけにはいかないと、思いきってズボンと下着を引き下ろす。壁に手をつくと皆に尻を晒していることを急激に意識してしまい、くじけそうになる心を、皆の視線を正面に感じずに済んでいるだけマシだと、言い聞かせる。

「まずは20回だ。叩かれるたびに、ごめんなさいと言うんだ」

 ついに、つぅっとパドルの鋲を肌に感じて、指先の感覚がなくなる。す、っとパドルが離れて、俊光様が思いきり腕を振りかぶったのを目の端で捉える。

バチィイイインッ!!と、脳を突き抜けるような痛みが走る。

「あぁああんっっっっご、ごめんなさいっ…っ…!!!」

 俊光様が2発目を振りあげる。

「あぁああっっ…ごめんなさぃっいいいっ」

 バチィイイインッッ!バヂィイインッッ!!と続く痛みに、いっそ気を失ってしまいたいと本気で願う。

「ごめんなさぁああいっ…!!ごめんなざぃっっ!!!ぅううっごめんなさいいいいっっっ……!!!!!!」

 何回打たれたかなど、数える余裕もなくもうただ叩かれて叫ぶというより、ごめんなさいと泣き叫び続ける私に、俊光様は次々とパドルを落としていった。

「ごめんなざぃっっ……ごめんなさぁあぃっっ………」

「千尋、20回はもう終わった。顔をあげてこちら向け」

 大きく息をしていた肩を掴まれ、顔をあげさせられる。涙でぐちゃぐちゃの顔を皆に見られて、私は一生懸命、顔の拭おうとするが、涙はどんどん瞳から溢れていった。

「今日は、皆に迷惑をかけたから、仕上げはここにいる一人一人に、一打ずつ叩いてもらう。いいな、千尋」

 私は涙ながらに頷くことに必死で、皆がどういう反応をしたのかまでは見なかった。

「立ったまま膝を抱えて、尻を突き出せ。身体は動かすなよ」

 私が体勢を取ると、俊光様は秘書たちの名前を呼んでパドルを手渡した。皆、相当に軽くパンッ、と当てる程度にしかパドルを振らなかったが、俊光様の20回を受けた後の尻には、パドルの鋲が触れるだけで激痛がはしり、私は1回ずつみっともなく「ひぃっ…っ」と声をあげた。途中、どうしても体勢を動かして尻が逃げる私の腰を俊光様が片腕で抱え込んで、動かないようにと押さえ込まれた。

 佐久間さんの番が回ってきたときには身構えたが、皆と同じく優しく叩かれて私は小さな悲鳴を漏らす程度で済んだ。後藤さんは、というと触れるか触れないか程度にパドルを掠めさせた。

 佐久間さんを入れて8人の秘書全員にパドルが回ったあと、最後に俊光様が私を脇に抱えたまま帰ってきたパドルをパシパシ、と尻に弾ませ、そしてパシィイイイインンッと振り下ろした。

「あぁあああああっっ…っっ…!!!!!」

 叫んだ私を抱えあげて、頬をつかみ引き寄せてキスをする。そうして耳元で「このあと2人きりの部屋で、膝で仕上げの仕置きをちゃんと受けられたら、終わりにしてやる」と、囁いた。


 私は言葉通りそのまま社長室へ連れ戻され、俊光様の膝の上に横たえられた。

「お前を膝の上に乗せるのは2度目だな」

 この体勢は尻叩きの中でも一番、恥ずかしい。まるで…。

「この格好では、おいたを叱られている小さな子どものようだ。そういえば前は聞き分けのない子どものように薬を嫌がるから、乗せたんだったな」

「うぅ…っ…」

 私は両手で熱くなった顔をふさぐ。

「無断欠勤の罰だけならパドルで終わりにしてやってもよかったが、わざわざ店まで私を迎えに行かせるような我が儘をいう子の尻は、しっかり懲らしめておかないとな」

「うぅっ…ごめんなさぃっ……っ」

 今となっては自分でもなんであのとき、あんな子どもっぽい意地を張ったのか分からない。忙しい社長を、会社の外へ呼び出すなど勝手が過ぎている。俊光様の分厚い手がお尻の真ん中にあてられる。

「千尋。悪い子の千尋のお尻をぺんぺんしてください、と私にお願いしてみせろ」

「やぁっ…」

 絶対に、絶対に、無理だ。首をふる私の尻に、ぺんぺんなんて軽いものじゃないバチヂインッとした平手が落ちる。

「あぁああんっ…っ!!!!」

 ただでさえ傷だらけの尻には平手打ちでさえ、突き刺さるような痛みをおぼえる。

「千尋は、これで仕上げの仕置きを受けたいか?それとも、もっと優しくがいいか?」

「優しくっ優しくがいいぃっですっ」

「それならば言うことがあるだろう」

 私はそれから、唇を噛んで随分長い間、ぐるぐると考えこんだ。その間、俊光様は何も言わずに待っていた。

「と、としみつ、さま……わ、…わ、わるいこな…ちひろ、の…お、しりを……ぺんぺん、してくださぃっ」

 小さな小さな声で言いきると俊光様が「いいだろう」と返事をする。

「それなら10回だ。いいな」

「はぁぃ…っ」

「そぉら、いっかい」

 ペシ、と手首を返した程度の、軽い平手が落ちる。私は耳の先まで、かぁあっと熱くなるのを感じた。

「にかい、さんかい、よんかい、ごかいっ」

 指の先で尻にあたっては離れる。

「うぅっ…っく………っ」

「ななかい、はちかい、きゅうかいっ。最後の1回は、ちょっと痛いぞ。それ、じゅっかいッ」

 パシンっと尻の真ん中に手が落ちる。

「あぁんっ……っ」

 私は背中をほんの少し反らせて、それからぐったりと力を抜く。その身体を抱え上げられ、私は俊光様の目の前に立たされた。

「千尋。私の気持ちを確かめたくて無断欠勤なんてことを、したんだよな。余計な悩みをかけてしまって、すまなかった」

 くしゃっと、髪の毛を撫でられ、申し訳なさそうに謝られて、私は勢いよく首をふる。

「そ、んな…っ。わ、私が悪いのです…ぜんぶ、ぜんぶ…っ。自分の気持ちも、俊光様の気持ちも、佐久間さんのこととか、なにもかもごっちゃになって、訳がわからなくなって……」

 そんなこんがらがった私の思考の糸をほどくように解してくれた俊光様に、伝えたいことは沢山あるのに、また私はうまく言葉にできない。

「私は…私は、こんな私を叱ってくれる、あなたが好きで好きで、むちゃくちゃにしてほしくて、優しくしてほしくて、汚してほしくて、抱きしめてほしい。矛盾した気持ちのぜんぶが、俊光様を愛する気持ちです。こんな私を、これからも…っ見捨てないでくださぃっ…」

 俊光様は黒い瞳で私をみつめ、右手で私の涙を拭って微笑んだ。

「そんなお願いは必要ないだろ。こんなに手をかけて叱ってやるのは、お前だけだ。こんなにお前を愛していて、見捨てるわけがない」

 そうして「今夜はお前がちゃんと私に好きだと言えた、ご褒美をやろう」と、瞳を輝かせながら言った。
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