彼の愛に堕ちて溺れて

螢日ユタ

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episode4

2

あれから少しだけ乱れた服や髪やメイクを整え直してから家を出た私たち。


夏輝が一度自宅に寄って着替えたいと言うのでひとまず夏輝のマンションへやって来る。


「悪いけど、ここで少し待っててくれる? 急いで準備して来るから」
 
「うん、分かった」


部屋で待たされるのかと思いきや、車の中で待つように言われた私は夏輝の言葉に頷いて一人車内へ残る。


どこへ出掛けるか、決めておいてと言われたこともあり、ひとまずスマートフォンを取り出した私は何か映画でも観るかと、今上映している作品を確認してみることに。


でも、そこまで惹かれる作品も無く、映画で二時間くらいの時間を取られてしまうのも勿体無いかと思い直した私が次に考えたのはドライブデート。


だけど、運転するのは夏輝だからあまり遠くへ行くとなると負担が掛かってしまうだろうし、かと言って近場で魅力的な場所というのも思いつかない。


一人悩みながらスマートフォンでデートプランの検索をしていると、急に夏輝から着信が掛かってくる。


「もしもし?」

『あ、未來ちゃん? ごめん、後部座席に封筒があると思うんだけど、それを持って部屋まで上がってきてくれない? 仕事の書類なんだけど、ちょっと急に必要になって……』

「あ、うん、分かった」

『部屋の場所、分かる?』

「うん、大丈夫。今行くね」

『ありがとう、鍵は開けておくから勝手に入って来て』

「うん」


夏輝に言われた通り、後部座席に置いてあった封筒を手にした私は車のエンジンを切ると預かっていた鍵を閉めてマンションへ。


エントランスに入ると、エレベーターから降りてきた一人の女性が酷く怒った様子でどこかへ電話を掛けながら出てくる。


そんな彼女とすれ違うと、香水の甘い匂いが鼻を掠めたけど、特に気に留めずにエレベーターへ乗り込んだ私は夏輝の部屋がある8階のボタンを押した。


エレベーターの中でふと、初めてここへ来た日のことを思い出す。


あのとき、エレベーターの中ここでもキスされたよね。それで、8階についてすぐに部屋へ連れて行かれて、玄関先でもキス、されたっけ。


思い出すと少しだけ恥ずかしくなりながらも、部屋へ着いたらもしかしてキス、されたり? なんて期待を抱きながらエレベーターを降りた私は夏輝の部屋の前にやって来た。


そして、言われていた通り玄関のドアを開けると、


あれ? この匂い……。


先程エントランス付近ですれ違った女の人から香ったあの甘い香水の匂いが微かに鼻を掠め、胸が少しざわついた。


どうしてあの女の人と同じ匂いが、この部屋から香るのだろう。


そんなの、よく考えれば分からなくも無いけれど、あまり深く考えると嫌な気持ちになりそうな気がした私は気を取り直して部屋へ入って行く。


「夏輝、持って来たよ?」

「あ、わざわざごめんね、ありがとう」


ちょうど洗面所から出て来た夏輝に手にしていた封筒を渡すと、彼は笑顔を向けながら「ありがとう」と言って受け取った。


「――……」

「ん? どうかした?」

「あ、ううん、何でも無い。あの、私、部屋で待ってていい?」

「勿論。後は着替えるだけだから、ソファーにでも座ってて」

「うん、分かった」


一瞬、この部屋に誰か居たのか聞きそうになるのをグッと堪えた私は、何でも無い振りをしながらリビングのソファーへ座って軽く辺りを見回していく。


やっぱり、私の勘違い? あの香水の匂いは、偶然?


手作りの料理が置いてある気配も、先程まで誰かが部屋へ居た形跡も無い、相変わらず整理整頓された綺麗なリビングを見ながら一人モヤついていく。


そんな私は険しい表情を浮かべていたみたいで、


「どうしたの? 眉間に皺、寄ってるけど?」

「あ、夏輝……」


いつの間にか準備を終えて私の元へやって来た夏輝に上から声を掛けられた私は少し慌てながらも笑顔を浮かべて「何でも無いよ?」とおどけてみせた。


いいや、余計なことは忘れよう。


例えさっきの人が夏輝の他の女の人だとしても、それは仕方がない。


そもそも、格好良くて優しくて、エッチも上手い夏輝に、私の他にもセフレがいたって不思議なことじゃないもの。


ただ、彼女さんだとしたら申し訳ないけど……それでも今日は私と居ることを夏輝自身が選んでくれているんだから、気にする必要は無い。


そう自己完結させた私は、


「夏輝は何着ても似合うし、やっぱり格好良いね」


ソファーから立ち上がると、不安な気持ちを打ち消すかのように夏輝にギュッと抱き着いた。


「どうしたの?」

「んー? ちょっと離れただけで不安になっちゃったから、ギュッてして欲しくて……」

「またそうやって可愛いこと言うんだから。未來、こっち向いて?」

「?」


夏輝に言われて顔を上げると、頬に彼の手が触れた刹那、チュッと軽く唇を塞がれ、


「一人にしてごめんね? 許してくれる?」


そんな風に聞かれた私は、


「……許すけど、もう一度だけ、して?」


もう一度だけとキスを強請ると、


「本当、未來ちゃんはキスが好きだよね」


なんて微笑みながら再び口付けてくれたので、いつの間にか不安は吹き飛んでいった。


「何するか決まった?」


車へ戻ってくると、シートベルトを締めていた私にそんな言葉を投げ掛けてくる。


「あー、うーん、色々考えてはみたんだけど……決まらなくて」

「色々って、例えば?」

「映画でも観ようかなって思ったんだけど、今は特に惹かれる作品が上映されてなかったし、ショッピング……って言っても、見るものが違うだろうし、ドライブ……とかも思ったけど、それだと運転する夏輝の負担が大きいだろうなって思ったら、なかなか決まらなくて……」


例えを挙げるよう言われた私は考えていた案をそのまま話すと、


「それが未來ちゃんのやりたいことなら、全部叶えるよ」


夏輝は私が挙げた案を全て遂行しようと言いだした。


「まあでも、映画は特に観たいのが無いなら省いても良いかな? 映画って二時間くらい掛かるから、そこまで観たくないならわざわざ観に行く必要は無いし、時間も勿体無いからね」

「え、それじゃあショッピングとかドライブはするつもり?」

「ちょうどいいじゃん? ドライブがてらどこかショッピングモールにでも行けば。俺は未來ちゃんがしたいと思ってることをしてあげたいから遠慮はいらないよ? 買い物だって、全然付き合うし」

「そ、それじゃあ近場のショッピングモールでいいよ、遠出なんて運転大変だもの……」


ただ何気なく考えただけの案を口にしたのがいけなかった。


いくら夏輝が全て叶えると言ってもあまり負担になることをさせたくなかった私が近場で済まそうと提案するも、


「俺のことを思ってそう言ってくれる未來ちゃんの気遣いは嬉しいよ? けど、俺だって未來ちゃんとドライブデートしたいって思ったから良いんだ。それに、運転も好きだから遠出も苦じゃ無い。負担がなんて心配しなくて大丈夫だよ」


夏輝自身もドライブデートをしたいと思ってくれたみたいで、私の意見は採用されることになった。


夏輝って本当に優しい。でも、本当は何するとか、どこに行くとか、そういうのは何でも良いんだよね。ただ、夏輝の傍に居られれば、それで充分だから。


そんな本心を隠しつつ、「ありがとう、嬉しい」と夏輝に気持ちを伝えると、彼は車のエンジンをかけてからシートベルトを締めて、ナビの操作をし始めた。
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