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第一部
【28】吸血鬼ばぶちゃんとままんと伯父一家。
しおりを挟む「はぁ……っ、はぁ……っ!リクリさまっ!リクリさま!ぼくです……!」
リクリたんの名前を呼びながら俺たちの前に現れたのはプラチナブロンド、緑の瞳に庇護欲をそそる顔立ち美しい少年。少年と言ってもそう見えるだけで、俺と同じ18歳だ。そしてその名は……。
「……弥宙……」
忘れられない。いや、忘れられるはずがあろうか、その顔を。名前を。
そしてリクリたんしか見えていなかったらしいヤヒロは、俺の呟きにハッとして俺と目を合わせる。
「なんで……っ、何でお前がリクリさまの隣に立っているんだ……!お前は……せっかくうちから追い出したのに……!黐木柚柚!!」
――――――追い出した、ねぇ。まさにヤヒロが自らそうなるよう仕向けたような言い方である。いや、実際そうなのだろうが、ヤヒロかわいい伯父夫婦の家では誰もがヤヒロの言葉を信じた。
――――――そう、彼は。いや、やつは……。
「リクリさま!聞いてください!こいつは、ユユは!」
「口を慎め」
その時抑揚のない、しかし迫力のある冷たい声が響いた。
リクリたん……?
「でも、リクリさ……っ」
リクリたんの制止を聞かず、また口を開く図々しさ。本当に何も変わっていないんだな……。いや、変わるわけがないのだけど。
「貴様に私の名を呼ぶことを許した覚えはない。ユユの名もだ」
そして俺の腰に回した手を、さらにぎゅっと引き寄せるリクリたん。はうぅっ。今は1人きりじゃない。リクリたんがついている。スーツ越しにも伝わるリクリたんの体温が何より、心強い。
「でも、ぼくはリクリさまのままんなんですよ!!」
え……。えぇ~~~~っ!?
ヤヒロも、ままん……なのか!?
「貴様はままんではない。ばぶは運命のままん以外にも、相手がままんならば分かる。だから貴様はままんではない」
ばぶは運命のままん以外も感知できるんだ……。
「そんなこと……っ!ぼくは常にリク……っ」
「呼ぶなと言っただろう」
「ひっ」
とたんにヤヒロが口をつぐむ。何か恐ろしいものを見たかのように。
ふいとリクリたんを見上げれば……。ローズレッドの瞳が宝石みたいにキラキラ光っている……?シャンデリアの光に反射しているのだろうか。とても……きれいだと思った。
しかしその場の雰囲気は凍えきっている。再びヤヒロに目線を戻せば……。
「きっと……きっとユユに騙されているんだ……!」
また俺のせいにするのか。
「私のユユの名を呼ぶな。ユユは私の唯一の、運命のままんであり、最愛の夫である」
「な……っ、そん、な……っ」
ヤヒロが驚愕の表情を浮かべ、俺の方をキッと睨み付けた。
「う……嘘だ……!ユユに騙されているんだ!ユユはぼくを虐めて、ぼくのものを奪ったり、ぼくを怒鳴り付けたりする最低なやつなんだ……!!」
「ユユはそのようなことをしない。それと、ユユの名を呼ぶなと何度言ったらわかる」
「ひ……ぁっ」
その低い地鳴りのような声とともに、ヤヒロの身体がびくんと震え、硬直した。
また、リクリたんの目がキラキラ光っている……?
「この場で貴様を魔眼で尋問することもできるのだぞ」
え……っ、魔眼!?そのキラキラしたのって魔眼か……?確か映画とかアニメでよくあるじゃんっ!!
「お……お許しください、殿下!!」
その時群衆の中から飛び出したのは……。
「どうか孫をお許しください!今日この場には、先日の謝罪のために連れて参りましたが……っ。とんでもない非行を……っ!」
そう、ヤヒロの祖父母……俺の祖父母でもある、亡くなった母さんの両親だ。
リクリたんの前で土下座をする祖父の隣で、祖母まで地に手をついていた。
謝罪……。謝罪、か。この間の俺の私物を取り返した時だろうか。その時もリクリたんが魔眼で吐かせたと言うし……。そこでもいろいろと悪事がバレたんだろうな。父さんもその場に行ったみたいだし……。
「父さん!何をしているんだ……!ヤヒロは何も間違ったことはしていない!」
「そうよ!ヤヒロは王子さまのお嫁さんになるために生まれたの!それなのに私たちのあのこを虐めてきたあいつが、何であそこにいるのよ……!!」
出たな……。ヤヒロの両親。伯父夫婦。一見ひとの良さそうな美男美女夫婦だが、その実態はヤヒロを猫かわいがりし、そのためなら何でも信じ、実行するモンスターペアレントであった。
「お前たちは一体何を言っている!!」
思わず祖父が身を上げて、伯父夫婦を怒鳴り付ける。
「だって、お義父さん!!」
「黙りなさい!」
伯母の金切り声のようなキンキン声に、祖母まで声をあらげる。
全く……とんだモンスター親子である。
「もういい。つまみ出せ」
リクリたんが冷たく告げれば。どこからともなく黒服の美男たちがやってきて、祖父たち3世代を一斉に捕らえる。あの黒服たちもあの美しさ……。多分吸血鬼なのだろうな。
そして祖父母は力なく捕らえられ、ヤヒロと伯父夫婦は捕らえられてもなおギャンギャン喚いている。
「この私を不快にさせて、ただで済むとは思うな」
その言葉に祖父母は顔を青くする。
「……。あの、リクリたん」
「……どうした、ユユ」
「その、祖父母には、恩があるんだ。母さんの遺品を、守ってくれたから。だから、あんまりひどいことは……しないで?」
そうリクリたんに訴えれば。
「ユユが望むのなら」
「うん、ありがとう」
そしてそのリクリたんの言葉を聞いて、祖父母は脱力したように崩れ落ち、黒服たちに肩を抱かれ、パーティーホールを後にした。
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