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01.
04.誰か
しおりを挟む「仕事、行ってもいいよ」
火曜の夜。
金曜に着ていたシャツの他に何着か
新しい服が用意されていた。
家に行ってとって来ればよかった話なのだが
私好みの高そうな服をわざわざ用意していた。
最近見た目に気を遣う余裕もなく、
着古した服を着ていたので、
ちょうど良かったかもしれないが。
翌日出社するなり、
部長が私のところへ声を掛けにくる。
「体調治ったのか、まだ顔色悪いけど…
今日は早く帰れよ」
上司の珍しい気遣いが
これほど裏目に出ることはない。
他のメンバーにも心配され、
今日は定時後速やかに帰らざるを得なくなった。
定時になるとみんなそわそわして、私が
帰らなくて大丈夫か様子を伺っているようだった。
久しぶりに外に出たので、それだけで
なんだか疲れてしまった。
"今日はもう帰ります"
檜垣さんにメッセージを送ると、すぐ既読がついた。
"少し残業していくから、先帰ってていいよ"
1人で帰っていいんだ。
復帰1日目にして私は1人で帰ることとなった。
あの家に帰る必要なんてないのに、
私はもらった合鍵をバッグから取り出して、
オートロックを解除する。
整頓された部屋に、バッグを置いて、
自分も床に座る。
あの貼り付けたような笑顔も、
ねっとりと耳を這うような声も、
全て軽蔑に変わった。
ボーッとアプリに勧められるまま動画を眺める。
時間を忘れて。
ああ、もうすぐ帰ってくる。
「ただいま」
そろっとドアを少し開けて、私を確認してから
リビングに入ってくる。
サイコパスは警戒心が強い。
自分以外のものは基本的に信用していない。
私は何もしないのに。あなたと違って。
今日も、やることを全て終えると
ベッドに私を運んで降ろす。
「どうしてそんなに素直なの?」
逆らったら
何をされるか分からないからに決まってる。
それ以外ない。
「……無理矢理犯すのがいいのに…
緋莉が泣いて嫌がる顔が見たいのに」
私に馬乗りになったまま、
サイドテーブルのカッターを手に取る。
「もっと僕を楽しませてよ、緋莉」
「あ、ッ……何…」
刃先を出して私に向ける。
いくらなんでもやり過ぎだろう。
「や……やめてくださいッ」
「動かないでね……?」
ススッと背側を私の首筋に当てて、
口の中に指を突っ込まれる。
苦しい。のに
「……何興奮してんの」
私の敏感なところをぬるりと指先で確かめられる。
薄ら笑い、私を見下ろす。
「こんなんがいいとか、もう終わりだね」
また今日も、飽きるまで抱かれるんだ。
・
・
・
「緋莉さん、最近ずっと顔色悪いですよ」
同じチームの石橋くんに
モニター越しに声をかけられる。
「えっ、そう…かな?」
「大丈夫ですか?無理しないで」
私より2つ下なのに、私の世話を焼いてくれる。
自分より後に、圧倒的に男性優位の世界に飛び込んだ
私を心配してくれる、生意気だけど優しい仲間。
「僕で良かったらいつでも話聞くんで、
1人で抱え込まないでくださいよ」
同年代があまりいない職種なので、石橋くんは
他の新卒とは比べ物にならないくらい大人だ。
私なんかより全然。
「…うん、ありがと」
でも、ピュアで真っ直ぐな石橋くんに、
私の退勤後のことは知られたくない。
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