【完結R18】エリートビジネスマンの裏の顔

シラハセ カヤ

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02.

06.彼の気持ち

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それから数日後。
今日は久しぶりの事業部全体での飲み会。
その後、30歳以下の若手だけで二次会をした。

「緋莉さん聞きましたよ、お隣の檜垣さんの奥様
 緋莉さんなんですよね?!」
「いいなあ~!!!超ハイスペじゃないですか~
 馴れ初め聞かせてくださいよ~!!」

私の周りに座った人達はみんなその話ばかり。
同期の言う通り、どこから広まったのか
いつの間にか私と檜垣さんのことは事業部で
周知の事実となっていた。

「あはは……まあまあその話はいいから……」

それでも気になることは石橋くんのことばかり。
無意識に目で追ってしまうが、
向こうの視線は頑なに合わない。
罪悪感、ともまた違うモヤモヤしたものが
日に日に大きくなってくる。


結局、一度も話せず、
みんなで駅に向かっているところでやっと
ジャケットを掴んで引き止める。

「あの、その……ちょっと話したい」

私は、石橋くんに何を望んでいるんだろうか。

私が返事を待っていると、
先を歩いていくみんなの方にチラッと視線をやって
何も言わずに、駅前広場の方に向き直して歩き出す。


何を話したいのかも分からない。
自分の気持ちを整理できていないまま、石橋くんと
みんなと逆方向に歩いていく。

前みたいに普通に話したい、元通りになりたい。
でもそんなこと言えない、そんな都合のいいことは。

「何か用事あったんでしょ、
 黙っててもわかんないんすけど」
「あっ、うん……」

その先が続かない。
呼び止めるべきじゃなかった。

「石橋くんと、喋りたかったんだ、
 最近どうかな、とか」
「順調ですよ、仕事はね」

そう言って、ベンチに腰掛けると
前は吸わなかったタバコに火をつける。

私にも箱を差し出してくるので、1本貰う。
檜垣さんちに閉じ込められた日から吸ってないから
何ヶ月ぶりだろう。

他愛もない話をする雰囲気でもなく、
石橋くんにつけてもらったタバコを吸って
灰が落ちていくのを見ていた。



「……僕、ほんまに緋莉さんのこと好きやったんすよ
 あんなに冷たくしてるのに、今日だって
 緋莉さんから声掛けてくんの、嬉しくて嬉しくて
 俺のことずっと気にしてるんやなあって、
 もうチームの先輩でもないのに」

深く、一息ついて私を横目で見る。

「僕に関われば関わるほど
 生れるのは罪悪感だけでしょ、
 メリットなんかないのに、
 いつからそんな頭悪くなったんすか?」

「そんなこと……」

「あいつが転職してきて、なんも知らん人達にさ、
 ああ、あれは勝たれへんわ、諦めろ言われて
 こんなに自分のこと、
 惨めで哀れやって思ったこと無いわ」

私が、何か返さなきゃ、と考えているうちにも
石橋くんは止まらない。

「緋莉さんとあの男のせいで
 僕の人生めちゃくちゃですよ、
 結局楽しそうに普通に生活してて…
 緋莉さんのことなんか好きになるんやなかった」

返す言葉がなかった。
復帰したての頃は筋肉が落ちて少し細くなったな、
と思ったけど、何だか最近窶れている気がする。

「…楽しくなんかないよ
 …嫌だけど離婚もできないし、
 毎日生きた心地しない」

離婚と言うと、暴力を振るわれるので、
もう今は諦めている。

普通にまともな人と結婚して、
みんなに祝われたかったし普通に愛されたかった。

「平和なんやったらそれでええやないですか
 普通に一緒に暮らしてるくせに
 何が不満なんですか」

まだ残っているタバコを灰皿に落として
石橋くんの隣に座る。

「私も石橋くんのこと好きだったと思う」

結局、そういう中途半端な言い方で
逃げることしかできない。私はずるい。

「……緋莉さんって、ほんまクズですよね」
私に言い返す資格はない。

灰皿にタバコを押し付ける石橋くんの指先に
目をやって黙っていると、
急に手を引かれて不意打ちでキスされる。
「……なっ」

腰に手を回されて、
唇の隙間から舌を滑り込ませてくる。


「僕は今もまだ好きかも」

複雑な笑顔を私に向けられて、胸がキュッとなる。
蔑むような、呆れたような、引き攣ったような、
そんな顔で私を見据える。

「言っときますけど、僕彼女いませんから今、
 緋莉さんと違って」

当てつけのように言う。
それも私のせいだと言いたいのだろうか。

「どんなとこが好きか……教えましょか?」

耳元に熱い吐息がかかる。



「緋莉さんがそうやって僕の顔色一生気にしてんの
 おもろくて嬉しくてしゃーないんすわ」


笑いながらズルッと私の両肩から手を離すと、
私の首元のチェーンを引き出されて、心臓が跳ねる。

檜垣さんに貰ったフルエタニティの結婚指輪、
仕事でつけるのは派手すぎて、
普段ネックレスにかけている。

知ってか知らずか、
トップのリングに触れて、私を冷たい目で見つめる。

「緋莉さんは自分の意思で
 檜垣さんを選んだんですよ、
 自分の選択には責任持ってよ、大人なんやから」

そう言って立ち上がって、駅の方に歩き出す。

お酒のせいか、喉奥がギュッとなって
勝手に涙が込み上げてくる。

私は何も返せなかった。


「…ずっと僕のことで悩んどったらええんや、
 1人で勝手に幸せになったら許しませんよ」

そう言われて当然のことをした自覚はある。




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