62 / 124
なんだかんだで、類さんは類さんです
3
しおりを挟む
* * *
翌日、梅雨晴れの空が眩い、土曜の午後。
私は縁側に寝ころんで、普段はあまり読まないファッション誌などをめくりながら、休日を満喫していた。
「平和だねえ……」
視線を庭に投げると、青々とした芝の上を、雀がぴょこぴょこと跳ねている。
その愛らしさに、ほうっ――と息を吐きだした、そのときだった。
「行っけええっ、ぶっちぎれえ、来る、来る、来るぞ……きぃ―たぁっ!!」
奥の部屋から雄叫びが聞こえたと思ったら、騒々しい足音と一緒に、ゲスの極みが飛び込んで来た。
握りしめているのは新聞とスマホ。
「おいっ、やったぞ、まさかの大穴、七海ちゃんの大勝利だ!」
猿のように飛び掛かってきたので、素早く立ち上がって身をかわす。
私を捕まえ損ねて、空気を抱きしめた類さんは、なぜかそのままの姿勢で笑い出した。
「ワハハハハッ、最っ高だよ、七海ちゃんは!」
ついにゲス菌が、脳まで回ってしまったのだろうか。
「落ち着いて下さいって、なにがあったんですか」
「聞いて驚くな、八番人気のセブンシーズが、最後の直線でゴボウ抜き、一着でゴォ――ルッ、これは競馬史に残る大波乱だぞ」
ああ、競馬の話しね。
「で……私となんの関係が?」
「だから、セブンシーズだよ」
「は?」
「鈍い女だな、七つの海、つまりは七海ちゃんって名前のお馬さん」
「……はあ」
名前が似ているからって、そうそう親近感を持てるものでもない。
目の前で興奮する類さんを面倒くさいな、と思いながらも、一応話を合わせてあげる。
「類さんは買ったんですか、セブンシーズ」
「おうよ、あまりにも七海ちゃんがやらせてくれないから、ムカついて単勝一点買い、ドーンと突っ込んだら、まさかの的中、大勝ちだ!」
「そりゃ、よござんした、高級焼肉でも奢って貰いましょうかね」
軽い冗談のつもりだったけど「もちろんだ!」と、飛びついてきた彼に、ガバリと抱きしめられる。
「ちょっ、離して下さい、罰金ですよ罰金」
もがきながら首を捻り、壁に掲示したルールを読み上げる。
「風呂・トイレ・寝室の覗き及び進入の禁止。性的思惑による体への接触、卑猥な言動の全面禁止。違反した場合は三万円の罰金を相手に支払うこと!」
昨夜の媚薬事件のあと、彼の愚行を許す代わりに取り決めたものだ。コピーして居間とキッチン、洗面所にも貼ったのに、これでは意味がない。
けれども彼は平気な顔をして私を抱きしめ続け。
「金ならいくらでも払ってやるよ」
なんて、品の無いことを言って高笑う。
「いったい、いくら勝ったんですか」
あきらめて質問すると、彼はやっと私を解放し、その場に胡坐をかいた。
そうしてニイッと目を細め、辺りを伺いながら手招きしてくる。
仕方なく隣に座ると、私の耳元に口を寄せた彼は声をひそめた。
「誰にも言うなよ……なんと、五百万越え」
「ごひゃ――ムグッ!」
途中で口を塞がれなければ、近所中に知れ渡っていただろう。
翌日、梅雨晴れの空が眩い、土曜の午後。
私は縁側に寝ころんで、普段はあまり読まないファッション誌などをめくりながら、休日を満喫していた。
「平和だねえ……」
視線を庭に投げると、青々とした芝の上を、雀がぴょこぴょこと跳ねている。
その愛らしさに、ほうっ――と息を吐きだした、そのときだった。
「行っけええっ、ぶっちぎれえ、来る、来る、来るぞ……きぃ―たぁっ!!」
奥の部屋から雄叫びが聞こえたと思ったら、騒々しい足音と一緒に、ゲスの極みが飛び込んで来た。
握りしめているのは新聞とスマホ。
「おいっ、やったぞ、まさかの大穴、七海ちゃんの大勝利だ!」
猿のように飛び掛かってきたので、素早く立ち上がって身をかわす。
私を捕まえ損ねて、空気を抱きしめた類さんは、なぜかそのままの姿勢で笑い出した。
「ワハハハハッ、最っ高だよ、七海ちゃんは!」
ついにゲス菌が、脳まで回ってしまったのだろうか。
「落ち着いて下さいって、なにがあったんですか」
「聞いて驚くな、八番人気のセブンシーズが、最後の直線でゴボウ抜き、一着でゴォ――ルッ、これは競馬史に残る大波乱だぞ」
ああ、競馬の話しね。
「で……私となんの関係が?」
「だから、セブンシーズだよ」
「は?」
「鈍い女だな、七つの海、つまりは七海ちゃんって名前のお馬さん」
「……はあ」
名前が似ているからって、そうそう親近感を持てるものでもない。
目の前で興奮する類さんを面倒くさいな、と思いながらも、一応話を合わせてあげる。
「類さんは買ったんですか、セブンシーズ」
「おうよ、あまりにも七海ちゃんがやらせてくれないから、ムカついて単勝一点買い、ドーンと突っ込んだら、まさかの的中、大勝ちだ!」
「そりゃ、よござんした、高級焼肉でも奢って貰いましょうかね」
軽い冗談のつもりだったけど「もちろんだ!」と、飛びついてきた彼に、ガバリと抱きしめられる。
「ちょっ、離して下さい、罰金ですよ罰金」
もがきながら首を捻り、壁に掲示したルールを読み上げる。
「風呂・トイレ・寝室の覗き及び進入の禁止。性的思惑による体への接触、卑猥な言動の全面禁止。違反した場合は三万円の罰金を相手に支払うこと!」
昨夜の媚薬事件のあと、彼の愚行を許す代わりに取り決めたものだ。コピーして居間とキッチン、洗面所にも貼ったのに、これでは意味がない。
けれども彼は平気な顔をして私を抱きしめ続け。
「金ならいくらでも払ってやるよ」
なんて、品の無いことを言って高笑う。
「いったい、いくら勝ったんですか」
あきらめて質問すると、彼はやっと私を解放し、その場に胡坐をかいた。
そうしてニイッと目を細め、辺りを伺いながら手招きしてくる。
仕方なく隣に座ると、私の耳元に口を寄せた彼は声をひそめた。
「誰にも言うなよ……なんと、五百万越え」
「ごひゃ――ムグッ!」
途中で口を塞がれなければ、近所中に知れ渡っていただろう。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる