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第1章

第2話『お手伝い-前編-』

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 俺は自分の部屋に戻り、4月から第2期が始まるラブコメアニメの第1期を録画したBlu-rayを観ることに。
 ただ、隣の家では桐山家の引っ越し作業が行なわれている。それが気になって、1話観終わる度に、南側の窓を開けて桐山家の様子を見てしまう。たまに、アニメを観ている間に見ることも。
 引っ越し業者の方達が大きな荷物が運んでいるのが見えたり、耳を澄ますと聡さんや麻美さんが置く場所を指示する声が聞こえたり。とりあえず、今のところは順調のようだ。
 あと、こうして引っ越しの様子を見ていると、10年前に愛実が引っ越してきたときのことを思い出す。当時も部屋の窓から様子を見ていたっけ。部屋にある東側の窓を開けると、愛実の部屋の窓も開いていたから作業の様子がよく見えて。

『ここが愛実の部屋だよ』

 と言う愛実のお母さんの声も聞こえ、部屋にいる愛実の姿が見えて。あおいとの別れを経験したのもあり、愛実が同い年だと知ったときは凄く嬉しかったな。
 今回、あおいと10年ぶりに再会できて、あおいが隣の家に引っ越してきたことは、愛実のときと同じくらいに嬉しい。



『涼我君。愛実ちゃん。引っ越し作業のお手伝いをお願いしてもいいですか?』

 お昼過ぎ。
 午前中に作った3人のグループトークに、あおいからそんなメッセージが送られてきた。俺達があおいの力になれるときが来たか。

『分かった。すぐに行くよ』

 と、グループトークにメッセージを送信する。その直後に愛実からも同様のメッセージと、俺に対して『一緒に行こう』とメッセージが送信された。
 玄関を出ると、ちょうど愛実も自分の家の玄関から出てきたところだった。愛実は俺に小さく手を振って、小走りでこちらにやってくる。

「リョウ君、行こうか」
「ああ、行こう」

 愛実と一緒にあおいの家に向かう。
 午前中からあおいの家の前に停まっていた引っ越し業者のトラックはいなくなっていた。新居への荷物の搬入は終わったと思われる。

「リョウ君。どんなことを頼まれるかな?」
「何だろうなぁ。家具や家電を運ぶのは引っ越し業者の人達がやっただろうし」
「そうだね。ただ、リョウ君は背が高いから、高いところの作業は頼まれそう」
「その可能性はありそうだな」

 あおいの身長は愛実よりも4、5センチ高いくらいだろうし。高い場所に何か取り付けることや、照明関連で手伝ってほしいと言われるかもしれない。少しでも、あおいの力になれるように頑張ろう。
 あおいの家の玄関前まで辿り着き、俺がインターホンを鳴らした。
 去年までに何度か、回覧板を渡すときなどにこの家のインターホンを鳴らしたことがある。だから、そんな家が桐山家になっているので、何だか不思議な感覚だ。

『はい。……あっ、涼我君と愛実ちゃん。さっそく来てくれてありがとうございます。すぐに行きますね』
「ああ」

 このインターホンから、あおいの綺麗な声が聞こえるのも不思議だ。
 それから少しして。

「お待たせしました」

 玄関が開き、中からあおいが姿を現した。引っ越し作業をして、体が熱くなっているのだろうか。午前中に挨拶したときとは違い、Vネックシャツの袖を肘の近くまで捲っており、額は少し汗ばんでいた。

「引っ越し作業お疲れ様、あおい」
「お疲れ様、あおいちゃん。作業の方はどうかな?」
「業者の方達のおかげで、家電や大きな家具などを置く作業が終わりました。私のものが入っている段ボールを自室に運び終わったところです。これから、衣服や書籍などの収納を始めます。お二人には私の部屋のことで、お力を貸してもらえればと」
「分かったよ、あおいちゃん」
「了解だ」
「ありがとうございます! では、部屋に案内しますね」
「ああ。お邪魔します」
「お邪魔します」

 俺と愛実は桐山家の新居の中に入る。
 引っ越し当日なのもあって、家の中には引っ越し業者の段ボールがたくさんあるなぁ。
 リビングで荷解きをしている麻美さんと聡さんに一言挨拶をして、俺と愛実はあおいの案内で彼女の部屋がある2階へ向かう。

「ここが私の部屋です。段ボールばかりですが、どうぞ」

 そう言って、あおいは俺と愛実を部屋の中に招き入れる。
 部屋の中に入ると……あおいの言う通り、水色の絨毯の上に段ボールがいくつも置かれている。
 部屋の中を見渡すと……広さは愛実の部屋と同じくらいだろうか。また、ベッドや勉強机、ローテーブル、タンス、本棚、テレビ台、テレビといった大きな家具や家電が置かれている。きっと、これらは業者の方達によって置かれたのだろう。ちなみに、本棚やテレビ台のラックの中は空っぽである。
 また、2つある窓はどちらも網戸の状態で開かれている。そのうちの1つからは俺の家が見えている。

「素敵な雰囲気のお部屋だね。広さは私の部屋と同じくらいかな?」
「俺も同じことを思ったよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
「あと、そっちの窓からは俺の家がバッチリ見えるね」
「ですね。涼我君のお隣に引っ越してきたのだと実感しますね。嬉しいです」
「私の部屋からもリョウ君の家が見えるよ。窓が開いていれば、リョウ君の部屋の中も」
「そうなんですね。家が見えるという意味では、愛実ちゃんとお揃いですね」
「そうだね」

 そう言って、あおいと愛実は楽しそうに笑っている。そんな2人を見ていると、気持ちが温かくなっていく。

「ところで、涼我君と愛実ちゃん。お二人は家電や機械関連には強いですか? 手伝ってほしいことの一つがテレビの配線でして」
「機械はリョウ君の方が強いよね」
「そうだね。ここ何年か、うちで買った家電の配線や初期設定は俺がやってるし。愛実の部屋のテレビやパソコンの調子が悪いときは俺が見に行くし。説明書があれば、テレビの配線はそこまで時間がかからないと思う」
「そうなんですね! では、涼我君はテレビの配線をお願いします。あとは、時計の設置もお願いできますか? 高いところに付ける予定なので……」
「分かった。俺に任せろ」
「ありがとうございますっ!」

 あおいはとても嬉しそうにお礼を言った。
 テレビの配線は予想していなかったけど、高いところの作業は予想が当たったな。愛実の方をチラッと見ると、愛実は俺に向かってニコッと笑っていた。

「愛実ちゃんは段ボールに入っている本を本棚に入れてもらえますか? 引っ越す前の本棚の写真をLIME送りますので、それと同じように入れてください」
「分かった」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね。ちなみに、私は衣服をタンスに入れる作業をします。何かあったら私に言ってください」
「分かったよ、あおいちゃん」
「分かった」
「では、各自の作業を始めましょう!」

 こうして、俺達3人であおいの部屋での引っ越し作業が始まった。
 俺はあおいから受け取ったテレビの取扱説明書を参考に、テレビの配線を始めていく。家電の配線をするのっていつ以来だろう? 高校生になってからは初めてかもしれない。あと、このテレビは俺の部屋にあるもののように、Blu-rayレコーダー付きなんだ。

「あおいちゃん」
「何でしょう?」
「あおいちゃんって引っ越す前はどこに住んでいたの? 昔、リョウ君から、10年前は福岡に引っ越していったって聞いたけど」
「10年前は福岡に引っ越しました。ただ、5年前にまた父の転勤で京都に引っ越しまして。それで、さらなる転勤で今回、東京に戻ってきたんです」
「そうなんだ! じゃあ、京都から引っ越してきたんだね」
「ええ」

 そういえば……何年か前から、年賀状に書いてある桐山家の住所が京都に変わっていた気がする。今の話から、あおいは福岡で5年、京都で5年住んでいたと分かる。
 聡さんの転勤ペースが同じくらいだと、ここに住むのは5年前後になるのか。もし、仮に5年後に転勤となったら……あおいは大学生か社会人。その年齢になると、東京に残って一人暮らしするという可能性もありそうだ。社会人になっていたら特に。

「京都からだと距離がありますので、昨日、前に住んでいた家を出発しました。昨晩はここから近いビジネスホテルに泊まったんです」
「そうだったんだ。私は10年前に兵庫から引っ越してきたんだけど、引っ越してくる前の日は……調津から近いホテルに泊まった記憶があるな」
「そうですか。あと、愛実さんは兵庫出身なんですね」
「うん。兵庫生まれで小学1年の5月まで住んでた。といっても、関西方面の言葉は全然喋ることができないんだけどね」
「そういえば、愛実は引っ越してきた頃から訛りとかは特になかった気がする」

 俺はもちろんのこと、当時のクラスメイトとも話し方はさほど変わりなかったと思う。

「あおいちゃんは、博多弁や京都弁を話すことはあるの?」
「私も全然話せませんね。普段から敬語で話しているからかもしれません。ただ、福岡でも京都でも、友達やクラスメイトの中に結構な訛りのある子がいましたね」
「そうなんだ。博多弁も京都弁も人気だよね。『好いとーよ』とか、『いけずやわぁ』って言う子っていた? 漫画やアニメだと、そういう言葉を言うキャラクターがいるし」
「いるよな。地方出身で方言を言うキャラって」

 中には方言を言うのがマッチしていて、人気が爆発したキャラクターもいる。

「フィクションの作品やテレビ番組では聞きますけど、実際にその2つの言葉を言う子は全然いなかったですね。『好いとーよ』と同じ意味で、『好きとよ』とか『好きやけん』って言う子はいました。あと、『いけずやわぁ』は意地悪だねって意味ですからね。この言葉はあまり聞かなかったです」
「そうなんだね、意外。あと、あおいちゃんの言う方言可愛かったよ」
「可愛かったよな」

 さすがは5年ずつ住んでいるだけのことはある。あと、普段が敬語だから、そのギャップも可愛く思えた理由の一つだ。

「あ、ありがとうございます」

 えへへっ、とあおいは声に出して笑う。あおいの方を見てみると、ほんのりと赤らんでいるあおいの笑顔が見えた。
 それからも、俺はテレビの配線作業をしていく。その中で、

「あおいちゃんもこの少女漫画読むんだね」
「はいっ! この作品はクライマックスでキュンキュンしまくりでした!」
「分かる。特に告白のシーンを読んだときは興奮して、脚バタバタさせたよ」
「私は『きゃー!』って叫んで、お母さんに怒られました!」

 お互いに読んでいる本があるようで、あおいと愛実は時折話が盛り上がっている。会話に入らなくても、2人の楽しそうな会話を聞くだけで心が癒される。
 そういえば、あおいって昔も漫画やアニメが好きだったなぁ。愛実との話を聞いていると、当時よりもさらに好きになっているのが窺える。これから、あおいと漫画やアニメ、ラノベとかの話で盛り上がれそうだ。

「さてと、これで大丈夫かな」

 取り扱い説明書を見たり、あおいと愛実と話したり、2人の会話を聞いたりしたこともあって、作業がそんなに長く感じなかったな。あとは、ちゃんとテレビが映ったり、Blu-rayのレコーダーが動いたりするのが確認できればOKだ。

「あおい。テレビの配線作業が終わったよ。ちゃんと動くかどうか確認してくれるか?」
「分かりました!」

 元気良く返事すると、あおいはローテーブルに置いてあるリモコンを手に取る。

「点けてみますね」

 あおいはリモコンの電源スイッチを押す。その瞬間、テレビの画面にはワイドショーが映る。ちゃんとテレビが映ったことにほっとした。

「テレビが映るのはOKですね! 一体型なので大丈夫だと思いますけど、Blu-rayプレイヤーの方もちゃんと動くか確認しましょう。確か、録画したBlu-rayは……この箱ですね」

 あおいはベッドの近くにある透明な箱から、録画用のBlu-rayディスクを1枚取り出す。あのディスクに何が録画されているのか気になるな。アニメ好きは健在のようだからアニメだろうか。
 あおいはプレイヤーにBlu-rayディスクを挿入。リモコンで操作し、Blu-rayのメニュー画面が表示される。タイトルを見ると……つい先日まで放送されていた学園ラブコメのアニメだ。アニメは観ていたし、原作漫画も持っている作品だからテンションが上がる。
 あおいはメニューから第1話を選択。画面にはオープニング映像が流れる。この曲好きなんだよなぁ。アニメジャケットの限定盤CDを予約して買ったよ。

「Blu-rayもちゃんと再生できますね」
「そうだな。じゃあ、テレビの配線作業はこれでOKだな」
「はいっ! ありがとうございます、涼我君!」

 あおいはとても明るい笑顔でお礼を言ってくれ、肩を優しくポンと叩いてくる。この笑顔は昔と変わらないなぁ。あおいの笑顔を見ると、あおいのためにお手伝いを頑張ろうっていう気持ちがより膨らむ。
 また、お礼を言ったタイミングで、画面には可愛いと評判になったヒロインの笑顔が映る。ただ、あおいの方が断然可愛く思えるのであった。
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