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第1章

第17話『お昼ご飯』

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「調津のレモンブックスは凄いですね! とてもいい買い物ができました!」

 会計を済ませ、レモンブックスの外に出たとき、あおいはとても嬉しそうに俺達にそう言った。

「良かったな。あおいは8冊も買ったもんな」
「既刊コーナーでも買いたい同人誌が見つかったもんね。良かったね」
「はいっ! 京都のレモンブックスよりも品揃えがいいですね。ここにいつでも来られると思うと幸せです!」
「良かったな、あおい」

 調津でも、あおいが同人誌を満足に楽しめそうで何よりだ。
 あと、レモンブックスには何度も来たことがあるから、こんなにも嬉しそうにしてもらえると俺まで嬉しくなってくる。
 これまではたまにしか来なかったけど、これからはあおいの影響でレモンブックスに来店する頻度が増えるかもしれない。京都にいた頃のあおいのようにアニメイクとはしごで。

「アニメイクとレモンブックスができて、調津はよりいい街になりましたね!」

 満足そうに言うあおい。愛実と俺が「そうだね」と言うと、あおいはニッコリと頷いた。
 アニメイクとレモンブックスでのあおいはテンションが高いときが多かった。お目当てのものがあったときはかなり興奮していたし。あおいがアニメや漫画、ラノベ、同人誌が本当に大好きなのがよく分かったよ。
 ――ぐううっ。
 俺のお腹がしっかりと鳴る。その音が聞こえたようで、あおいと愛実は「ふふっ」と笑っている。しっかり鳴った自覚があるので、特に恥ずかしさは感じない。

「お腹空きましたか? 涼我君」
「そうだな。結構お腹空いてきた」
「12時半過ぎだもんね」
「1時間ほど前にタピオカドリンクを飲みましたけど、私もお腹が空いてきました」
「じゃあ、お昼ご飯を食べに行こうか」
「賛成だ」
「賛成です!」
「決まりだね」

 お昼ご飯を食べに行くことになったから、よりお腹が空いてきた。

「あおいちゃん、どこか行きたいお店ってある?」
「行きたいお店ですか。……久しぶりの調津ですから、涼我君と愛実ちゃんがオススメするお店に行ってみたいです! お二人であれば、美味しいお店をたくさん知っているかなと思いまして」
「なるほどね。リョウ君とは色々なお店に行っているよね」
「そうだな。じゃあ、俺達のオススメするお店にするか」
「うん。ちなみに、あおいちゃんが調津高校に挨拶した日って、お昼ご飯はどこで食べたの? そことは被らない方がいいかなって」
「駅前にあるザストというファミレスです」
「ザストで食べたんだ。あそこもいいよね、リョウ君」
「そうだな」

 ザストというのは全国チェーンのファミレスだ。和洋中と幅広いジャンルの食事メニューが楽しめる。また、コーヒーや紅茶、スイーツのメニューも豊富で、カフェとしての人気も高い。これまで、愛実とは何度も休日のお出かけ中に食事したり、放課後にスイーツを楽しんだりしたことがある。

「じゃあ、ザスト以外にしよう。私達がお出かけしたときによく食べに行くお店は……ラ・チョウツっていうパスタ屋さんかな。駅の南側にある」
「そうだな。あおいって今でもパスタは好きか?」
「はい、大好きですっ!」
「そうか。なら、ラ・チョウツにするか。あそこ凄く美味しいし」
「しかもリーズナブルだもんね。あおいちゃん、パスタ屋さんでいいかな?」
「はいっ!」

 あおいは元気良く返事する。さっき、お腹が空いたと言っていたのに。大好きなパスタを食べに行くから元気が出たのかな。
 お昼ご飯がパスタに決まったので、俺達はラ・チョウツに向かって歩き始める。レモンブックスからだと、徒歩5、6分のところにある。
 今はお昼時だし、駅周辺には飲食店が結構ある。だからか、レモンブックスへ行ったときよりもさらに人が多くなっているな。こういう景色は見慣れているけど、あおいが一緒だからか新鮮さが感じられた。

「この10年で、新しくできた建物はいくつもありますけど、休日に人が多いのは変わりませんね」
「そうだな。小さい頃から休日の人の多さは変わらない」
「ですよね。昔ははぐれないように、涼我君と手を繋いで歩くこともありましたよね」
「あったなぁ」
「ふふっ。久しぶりに手を繋いでみましょうか。愛実ちゃんとも」

 そう言うと、あおいは右手で俺と、左手で愛実と手を繋ぐ。そんなあおいはとても楽しそうで。
 左手から伝わるあおいの強い温もりを感じたり、ニッコリとしたあおいの横顔を見たりすると懐かしい気持ちになる。昔もこうしてあおいから手を繋ぐことが多かったことを思い出す。

「涼我君の手、大きくなりましたね」
「幼稚園以来だからな。あおいの手は……大きくなったのは分かるけど、繋ぐと小さいなって思うよ」
「そうですか。あと、涼我君から感じる優しい温もりは変わりませんね。安心します」
「リョウ君の温もりに安心する気持ち分かるなぁ。私、定期的に肩をマッサージしてもらうんだけど、そのときに感じる温もりがいいなって思うの」
「そうなんですね」

 あおいと愛実は楽しそうに笑っている。
 3人で手を繋いでいるからか、こちらをチラチラ見てくる人が多くなる。ちょっと恥ずかしいけど、あおいと愛実が楽しそうだから手を離したいと思うことはなかった。
 そのまま3人で手を繋ぎながら歩き、俺達はラ・チョウツの前に到着した。
 休日のランチタイムなのもあり、お店は大盛況。3人一緒に座れるテーブル席が空くまで、お店の外で待つことに。あおいは同人誌即売会で何時間も列に並んだ経験があるので、待つのは苦ではないそうだ。
 20分ほど待ち、テーブル席が空いたので俺達は店内へ。ナポリタンやカルボナーラなどの美味しそうな匂いが香ってきて、ますますお腹が空いてきた。
 タピオカドリンクのときとほぼ同じで、あおいと愛実は隣り合って座り、俺は2人と向かい合う形に。あのときと違うのは、俺の正面にいるのが愛実であること。
 俺はナポリタンの大盛り、あおいは明太子パスタ、愛実はカルボナーラを注文。今の時間はお安い値段でドリンクをセットできるため、俺はアイスコーヒー、あおいと愛実はアイスティーを頼んだ。
 セットドリンクがすぐに来たので、さっそくみんなで飲むことに。

「あぁ、冷たくて美味しい」
「陽差しを浴びる中で20分くらい待ったもんね。冷たいのがたまらないね」
「そうですね。いつも、休日に行くとこのくらい待つのですか?」
「たまに待つことがあるくらいだね。長くても今回と同じくらいだよ」
「待つことがなくても、席は結構埋まっているよ」
「そうなんですね。人気のあるパスタ屋さんなんですね。いい匂いもしますし、明太子パスタも期待できそうです!」
「明太子パスタは美味しいぞ」

 俺がそう言うと、あおいは口角をさらに上げ、俺の方を見て小さく頷いた。
 それから10分ほどで、俺達の注文したパスタが運ばれてきた。女性の店員さんによって、それぞれの前にパスタが置かれる。このトマトソースの匂いがたまらない。
 あおいと愛実は自分の注文したパスタをスマホで撮影している。俺も2人の真似をしてナポリタンの写真を撮った。

「じゃあ、食べましょうか」
「そうだな。いただきます」
『いただきまーす』

 俺の号令で、俺達はお昼ご飯を食べ始める。
 ソーセージやピーマン、玉ねぎなどといった具を絡ませながら、俺はフォークでナポリタンを巻き取っていく。巻き取ったナポリタンを口の中に入れた。

「……うん、美味しい」

 トマトソースの甘酸っぱさがとてもいいなぁ。パスタの柔らかさや具材の火の通り加減も絶妙だ。凄く美味しい。これなら、大盛りでも難なく食べられそうだ。

「明太子パスタ美味しいです!」
「カルボナーラも美味しいよ」

 そう言うあおいと愛実とても幸せな笑顔を見せている。そんな2人を見ていると俺も幸せな気持ちになっていく。あと、あおいが明太子パスタを美味しいと言ってくれて安心した。

「あおいちゃん。カルボナーラを一口食べてみる? カルボナーラ好きかな?」
「クリーム系のパスタも好きですよ! では、お言葉に甘えて」
「じゃあ、食べさせてあげるね」

 愛実は楽しげな様子でカルボナーラをフォークで巻き取り、あおいの口元まで持っていく。

「はい、あ~ん」
「あ~ん」

 あおいは愛実にカルボナーラを食べさせてもらう。
 カルボナーラが口に入った瞬間から、あおいの笑顔が今まで以上に明るくなって。笑顔のままモグモグしている姿が可愛らしい。そんなあおいを愛実が優しい笑顔で見ているから、2人はとてもいい雰囲気に包まれている。

「カルボナーラも美味しいですね! このお店が人気なのが分かります」
「良かった」
「では、お礼に明太子パスタを一口どうぞ。食べさせてあげます」
「ありがとう」

 やっぱり、あおいが愛実に明太子パスタを食べさせてあげる展開になったか。
 あおいはフォークで一口分巻いた明太子パスタを口元まで持っていく。

「では、愛実ちゃん。あ~ん」
「あ~ん」

 愛実はあおいに明太子パスタを食べさせてもらう。
 愛実はこれまでに何度も頼むほど明太子パスタが好きだ。だから、口に入った瞬間から彼女の笑顔がよりいいものになって。モグモグ食べる姿はさっきのあおいと負けず劣らずの可愛らしさがある。

「明太子パスタも美味しいね。カルボナーラの後だから、凄くさっぱりしてる」
「美味しいですよね」
「ありがとう、あおいちゃん。……リョウ君も一口交換する?」
「ああ、いいよ」
「あおいちゃん、いいかな? 間接キスになっちゃうけど」
「い、いいですよ。タピオカドリンクで一口交換もしましたし」

 そう言うあおいは頬が少し赤くなっていた。タピオカドリンクを一口交換したときのことを思い出しているのだろうか。
 ありがとう、と愛実はお礼を言うと、カルボナーラをフォークで巻き付け、俺の口元まで持っていく。

「はい、リョウ君。あ~ん」

 愛実にカルボナーラを食べさせてもらう。
 クリーミーが濃厚で美味しいなぁ。ただ、今まで何度も食べたことがあるけど、今回が一番濃く感じられた。

「カルボナーラも美味しいな。じゃあ、俺からも」

 俺はナポリタンを愛実に食べさせる。
 さっき、あおいからカルボナーラを食べさせてもらったときと同じく、愛実は可愛い笑顔でモグモグしている。ただ、自分で食べさせたのもあり、今の方がより可愛らしさが感じられて。

「美味しい。このトマトソースがたまらないよね」
「甘酸っぱくて美味いよな。あおいも一口食べてみるか?」
「は、はいっ。一口交換しましょう」

 あおいの頬の赤みがさっきよりも強くなっている。タピオカドリンクを一口交換したけど、緊張や恥ずかしさがあるのかな。

「あおい。ナポリタンの具の中で嫌いなものはあるか? 昔はピーマンと玉ねぎが苦手だったけど」

 こういった外食のとき、あおいは嫌いな野菜と出くわすと「りょうがくんにプレゼントする!」と言って、俺に食べさせていたな。

「今はどの食材も普通に食べられますよ」
「おおっ、偉い」

 俺に褒められたのが嬉しいのか、あおいの口角がちょっと上がった。
 そういえば、昔は一口交換するとき、料理によってはあおいの嫌いな具材が入らないようにするのが大変だったなぁ。そんなことを思い返しながら、俺はフォークにナポリタンを巻いていく。具材を絡ませて。

「はい、あおい」
「あ~ん」

 あおいにナポリタンを食べさせる。その瞬間、愛実は微笑みながら「可愛い」と呟く。
 ピーマンや玉ねぎといった野菜もあるけど、あおいは美味しそうに食べている。ナポリタンのトマトソースに負けないくらいの赤い顔になって。昔は嫌いな野菜が多かったあおいが、こんなにもいい笑顔で食べてくれるなんて。ちょっと感動しちゃったよ。

「ナポリタンも美味しいです! 愛実ちゃんの言う通り、甘酸っぱいトマトソースがいいですね」
「でしょう?」
「ナポリタン美味しいよな」
「ええ! では、涼我君にも明太子パスタを」
「ありがとう。いただくよ」

 あおいはフォークに巻いた明太子パスタを俺の口元まで持ってくる。

「はい、涼我君。あ~ん」

 今までで一番甘い声で言われ、あおいに明太子パスタを食べさせてもらう。あおいからは久しぶりであり、愛実がじっと見つめている状況なので結構ドキッとした。
 明太子の辛さと塩加減がちょうどいいな。愛実にカルボナーラを食べさせてもらった後なので、結構さっぱりとした味わいだ。

「明太子パスタも美味しいな」
「良かったです。久しぶりに、涼我君にあ~んできて楽しかったです」

 あおいは白い歯を見せながら笑う。その笑顔は普段よりも幼い雰囲気で、ちょっと懐かしさを感じられた。
 その後は京都や福岡にもどんな飲食店があるのかとか、午前中に行ったアニメイクとレモンブックスの話をしながら、お昼ご飯の時間を楽しむのであった。
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