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第1章

第24話『お花見④-大切な幼馴染-』

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「私、お手洗いに行ってくるね」
「私も行きます」

 同人誌を読み終えた直後、愛実とあおいは公園の中にあるお手洗いに向かった。
 この公園がお花見スポットとして人気な理由の一つは、公園の中にお手洗いが備わっていることだ。お花見していると結構な量を飲むからなぁ。

「みんな楽しそうに読んでたな、麻丘」
「そうだな。特にあおいと佐藤先生は。あおいがみんなと楽しそうに過ごしていて安心したよ」
「……もしかして、今日のお花見は桐山のためでもあるのか?」
「まあな。学校が始まる前に、道本や海老名さんと楽しい時間を過ごせば、あおいが少しでも安心して調津高校での学校生活をスタートできるかと思って」
「なるほどな。一人でも多く親しい人がいれば、転校先でも安心しやすいもんな。そこでの学校生活も早く慣れるだろうし。麻丘らしい考えだ」
「そうかな? まあ、一番は久しぶりにあおい達とお花見をしたかったからだよ」
「ははっ、そっか。それでも麻丘らしいって思うよ」
「そうか」

 今日、道本と海老名さん、途中からは佐藤先生とも一緒にお花見をすることで、あおいが調津高校での学校生活を少しでも楽しみだと思えるようになったら嬉しい。
 少し強めの風が吹き、桜の花びらがたくさん舞い散る。咲いている花も綺麗だけど、舞い散る花も凄く綺麗だ。
 この10年、桜の花を見ると寂しい気持ちになることが多かった。だけど、今はそんなことはない。きっと、この数日で、俺にとって桜が別れの花から再会の花になったからだと思う。

「桜の木の下で、美少女達と一緒に同人誌を読めて最高だよ……」

 佐藤先生は満面の笑みを浮かべ、愛実達と読んだ同人誌を抱きしめている。ここまでの笑顔はなかなか見ないぞ。一緒に読めたことがとても嬉しかったのだろう。可愛いな。

「愛実とあおい……遅いわね。お手洗いが混んでいるのかしら」
「お花見客がたくさんいるからな。その可能性もありそうだ」
「混んでいるだけならいいんだけど」

 俺達はお手洗いの方を見る。今日は日曜日だから本当にお花見客が多いな。
 すると、お手洗いの近くで、あおいと愛実が茶髪と黒髪の若そうな男2人に絡まれているのを見つけた。

「あれ、ナンパじゃない?」
「あの雰囲気からして、その可能性は大だね。愛実ちゃんもあおいちゃんも可愛いし」
「あと、絡んでいる男達、顔が赤く見えるな。酔っ払っているかもしれない」
「俺、2人のところに行ってくる」

 助けに行くなら男の方がいいだろうから。海老名さんや佐藤先生だと、あの男達を喜ばせてしまうだけだろうし。それに、2人の幼馴染としていてもたってもいられないから。
 俺はレジャーシートを出て、小走りであおいと愛実のところへ向かう。
 あおいは少し怒った様子で、愛実は怯えた様子になっている。
 男達はそれぞれ愛実とあおいの肩を掴む。

「離してください! しつこいです!」

 肩を掴まれた瞬間、あおいは普段よりも低い声でそう言った。
 2人とも、今から助けるからな。

「あおい! 愛実!」

 普段よりも大きな声で2人の名前を呼ぶ。
 俺の声が聞こえたのか、あおいと愛実はこちらを向いて明るい笑顔を浮かべる。
 2人のところに辿り着くと……男達から酒臭さが。やっぱり酔っ払っているんだな。ニヤニヤしながらあおいと愛実のことを見ている。
 俺はあおいと愛実の背後に立ち、2人の肩の近くを掴む。少し力を入れて、2人のことを抱き寄せた。そのことで、2人の肩から男達の手が離れる。

「おい、お前誰だよ」
「邪魔するなよ」

 さっきまでのニヤニヤが嘘のような怒った表情で、男達は俺のことを見ている。喫茶店のバイトをしていると、こういう不機嫌を露わにする人間にも接客する。だから、恐さはあまり感じない。

「俺、彼女達と一緒にお花見しているんです。ですから、これ以上絡んだり、手を出したりしたら俺が許しませんよ。彼女達……俺の大切な幼馴染なんで」

 男達に向かって、語気を強めてそう言った。
 幼馴染という強い繋がりを持つ男と一緒にお花見していると分かれば、この男達も引き下がる可能性は高いだろう。酔っ払っているみたいだから、俺に突っかかってくる可能性は否定できないけど。何としてでも俺があおいと愛実のことを守る。

「リョウ君……」
「涼我君……」

 愛実とあおいは甘い声で俺の声を囁き、上目遣いで俺のことを見てくる。そんな彼女達の頬はほんのり赤みを帯びていた。愛実はうっとりもしていて。
 チッ、と男の舌打ちが聞こえたので、再び男達の方を見ると……彼らは俺のことをにらんでいる。

「本当に男がいたのかよ」
「せっかく、レベルの高い女2人を捕まえられるかと思ったのに」
「なぁ。男が来て萎えた萎えた。行こうぜ」
「ああ。……手出さねぇよ。面倒くさそうな男と一緒だし」

 そんな捨て台詞を吐くと、再び舌打ちをして男達は俺達の元から離れていった。そのことにほっとする。
 素直に去ってくれて良かった。これで一安心かな。

「俺が警告したから、もう絡んでこないだろう。さあ、レジャーシートに帰ろう」

 俺がそう言うと、あおいと愛実はゆっくり頷いた。なので、俺は2人と一緒に自分達のレジャーシートの方に向かって歩き始める。

「助けてくれてありがとうございました、涼我君」
「ありがとう、リョウ君。凄くかっこよかったよ。それに嬉しかった。大切な幼馴染だって言ってもくれたし……」
「私も嬉しかったですっ!」

 その言葉が本当であると示すかのように、あおいと愛実はとても嬉しそうな笑顔を見せてくれる。愛実に至っては頬が結構赤くなっていた。

「いえいえ。大切な幼馴染2人を助けられて良かった」

 それに、2人の笑顔をまた見られて。あおいは怒っていたからまだしも、愛実は男達に怯えている様子だったから。

「お手洗いを出て戻ろうとしたら、あの男達が待ち構えていて。男の人達とも一緒にお花見していると言ったのですがしつこくて」
「だから、段々恐くなって。リョウ君が来たのはもちろんだけど、あおいちゃんが側にいたのも心強かったよ。ありがとう」
「いえいえっ」

 あおいはいつもの明るい笑顔でそう言った。
 思い返すと……俺が助けに行く前のあおいは勇ましい立ち振る舞いをしていたな。しつこいと男達にはっきり言っていたし。愛実が心強く思うのは当然か。俺が愛実の立場だったら同じことを思うだろう。

「……あの、涼我君。肩から手を離してくれて大丈夫ですよ?」
「あおいちゃんの言う通りだよ。それに、私達に手を回していると、リョウ君が変な風に見られちゃいそう。さっきのことで、今も私達を見ている人が何人もいるし」
「俺がどう見られてもいいさ。それに、こうしていれば、2人が俺っていう男と一緒にいるって分かって、また誰かにナンパされる可能性も低くなるだろう」
「……確かに、それは言えてますね」
「……リョウ君らしい」

 あおいは納得した様子で、愛実はやんわりとした笑顔でそう言う。

「レジャーシートに戻るまでな」

 俺がそう言うと、2人ともしっかりと頷いてくれた。良かった。あんなことがあったから、2人を離したくなかったし。
 それから、俺はあおいと愛実に手を回したままの状態で、レジャーシートに戻る。俺がナンパから助けるためにシートを出て行ったので、道本も海老名さんも佐藤先生もみんなこちらをじっと見ていた。

「みんなおかえり。あと、麻丘はお疲れさん」
「どうなるかと思ったけど、特に問題なく済んで良かったね。あと、涼我君が2人を抱き寄せるとは。意外と大胆なことをするんだね」
「凄くかっこよかったわ、麻丘君。2人がちょっと羨ましいと思ったくらい……」

 3人とも、俺の行動に労いや賞賛の言葉を贈ってくれる。あと、海老名さんがちょっと羨ましいと言うとは意外だ。

「あおいと愛実を無事に連れて帰ってこられて良かったよ」
「リョウ君のおかげで、無事に戻ってこられました」
「そうですね。今日のお花見がより忘れられない思い出になりそうですっ」

 愛実とあおいは可愛い笑顔でそう言った。俺も今日のお花見のことはより忘れられないものになりそうだ。そう思いながら、2人から手を離した。
 それからも、残りのお弁当やお菓子を食べたり、アニメや漫画などの話で盛り上がったりして、夕方頃まで6人でお花見を楽しむのであった。
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