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第2章

第11話『部活動説明会』

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 今日の日程は部活動説明会とロングホームルーム。水曜日と同じく、お昼前には下校となる予定だ。
 まずは部活動説明会。
 会場は体育館。1年生は体育館に向かい、各部活の説明を直接聞く。また、2年生と3年生はテレビで体育館からの中継を見ることになっている。この形になっているのは、運動系部活を中心に、体育館の広いスペースを利用して説明する部活があるからだそうだ。というか、こういう中継放送ができるんだから、始業式や終業式も教室で参加させてくれればいいのに。
 愛実、道本、海老名さん、鈴木を含め説明者として部活動説明会に参加するクラスメイトは結構いる。朝礼が終わると、半分近くのクラスメイトが教室を後にした。
 俺はあおいと佐藤先生と一緒に説明会を見ることに。先生は一昨日の自己紹介のときと同じく、教壇にある椅子を俺の席の前に移動させて。

「2年生と3年生も説明会を見られるとは思いませんでした」
「文化系を中心に、2年生や3年生の入部を歓迎する部活が多いからね。実際、私が顧問をしている理科部を含めて週1か週2で活動する部活だと、2年生以降に入部する生徒もいる。あと、説明者や運営として説明会に参加する生徒も多い。だから、2年生と3年生には各教室からテレビで見てもらうことになっているんだよ」
「そうなんですね。前の学校でも、入学直後に体育館で部活の説明会がありました。思い返せば、体育館にいたのは1年生だけでしたね。もしかしたら、そのときの2年生と3年生は教室のテレビで見ていたのかもしれません」
「かもね。以前勤務していた高校でも同じ形で説明会を実施していたよ」

 うちの高校のような形で部活動説明会を実施する高校は結構あるのかもしれない。

「せっかくの説明会だ。調津高校にはこういう部活があるのか……と思って見てくれればいいよ。もし、興味のある部活があったら、見学したり仮入部したりするといい。来週1週間が全ての部活の仮入部期間だからね」
「分かりました」

 それから少しして、部活動説明会が始まる。俺は家から持ってきた麦茶を飲み、あおいと佐藤先生と雑談しながら見ることに。
 最初に生徒会長の挨拶があり、その後に吹奏楽部による校歌の演奏が行なわれる。校歌演奏のときにあおいは、

「吹奏楽だと校歌でも迫力がありますね!」

 と、ちょっと興奮していた。
 演奏が終わると、生徒会による進行で各部活の説明が始まる。進行役の生徒によると運動系部活、文化系部活の順番に説明が行われるとのこと。
 運動系の部活は説明する生徒が試合ユニフォームで登場したり、試合のプレーをしてみたりと興味を持たせるのに工夫している部活が多い。
 男子バスケ部の生徒がロングシュートを決めたり、卓球部の女子生徒が高速スマッシュを決めたりしたときには会場の体育館は結構盛り上がっているようだった。あおいも「凄いですね!」と拍手していた。
 校内放送を見る形なので、雑談する生徒やスマホをいじる生徒が多いが、

「おっ、斎藤が出てるぜ!」

「三浦さん出てる~! ユニフォーム姿かわいい~!」

 クラスメイトが説明者として登場するときは盛り上がり、結構な数の生徒がテレビを見ていた。
 運動系の部活動の説明が進む中、

『次は陸上部です』

 道本と鈴木、海老名さんが所属する陸上部の番に。

「理沙ちゃん達が出てくるんですね!」
「そうだな」
「どんな感じなのか先生も楽しみだよ」

 あおいだけじゃなくて、佐藤先生も強い関心を示すとは。まあ、うちのクラスから3人も説明者として登場するもんな。

『ピッ! ピッ! ピッ!』

 テレビからホイッスルの音が何度も鳴り響く中、試合のユニフォームや体操着姿の部員達が10人ほど小走りで入ってきた。先頭にいる女子生徒がホイッスルを鳴らしている。道本と鈴木はユニフォーム姿、海老名さんは体操着姿だ。おそらく、選手はユニフォーム、マネージャーは体操着なのだろう。
 それにしても。陸上部か。……もし、あの事故がなかったら、陸上部に入部して道本達と一緒にあの場所にいる未来があったのかもな。

「理沙ちゃん達出ましたね、涼我君! ……涼我君?」
「あ、ああ……登場したな」
「校内放送でもテレビに友達が映ると興奮しますね! あと、ユニフォーム姿ですから、道本君と鈴木君は普段と雰囲気がちょっと違いますね」
「そうだな。去年、大会を見に行ったけど、ユニフォーム姿の2人はかっこよかったよ」
「鈴木君のTheマッチョな見た目もいいけど、道本君の細マッチョな感じもたまらないね。理沙ちゃんの頼れそうな雰囲気もいい。一日だけでいいから、彼女に私のマネージャーをしてほしいよ」
「……そ、そうですか」

 どう返事すればいいんだ。あと、担任教師として今の言葉はいかがなものか。
 ピーッ、と女子生徒が長めにホイッスルを鳴らすと、全員がその場で立ち止まり、1年生の方に振り向いた。振り向くタイミングが合っていたので、何だかかっこいい。
 ホイッスル女子生徒が進行の生徒からマイクを受け取ると、

『私達!』
『調津高校陸上部です!』

 全員で大きな声で挨拶をした。その中でも鈴木の野太い声は目立つ。会場の拍手に合わせて、教室にいる大半の生徒が拍手した。
 マイクを持つホイッスル女子生徒は自分が陸上部の部長だと自己紹介し、彼女が部活の説明をしていく。
 道本が専門にする短距離走、鈴木が専門にする投てき種目だけじゃなくて、走り高跳びや走り幅跳びなど、幅広い競技で関東大会や都大会での実績があるんだ。インターハイに出場した卒業生もいるようだ。その説明をする際、該当する生徒が手を挙げていた。実績のある生徒がこんなにいれば、陸上部を魅力的に思う1年生は結構いそうだ。
 部長による説明が終わると、他の部員が一言ずつマイクを通してコメントを言っていく。そして、

『陸上競技が好きな人、興味がある人ならどなたでも大歓迎です。自分は短距離走専門なので、一緒に走ることができたら嬉しいです』

 道本がいつもの爽やかスマイルでそう言った。それもあってか、会場からは「きゃあっ!」と女子生徒の黄色い悲鳴が複数聞こえた。それを受け、道本はニッコリ笑う。何だかあいつが陸上系アイドルに見えてくるよ。うちの教室からも「かっこいい……」「やばい……」と女子達の甘い声が聞こえてくる。
 道本は隣に経っている鈴木にマイクを渡した。

『一緒に練習したり、大会に参加できたりするのを楽しみにしてるぜ! 陸上で青春しようじゃねえか!』

 とても朗らかな笑顔で元気よくコメントすると、鈴木は右手でサムズアップ。その明るさや「青春」という言葉が響いたのか、パチパチと大きな拍手が。うちの教室からも聞こえてくる。
 その後も部員達の一言コメントが続き、やがて海老名さんにマイクが渡る。

『マネージャーをするのに興味がある人も是非、来てみてください。これまでやったことない人でも大歓迎です』

 普段の落ち着いた笑顔で海老名さんはコメントする。その瞬間、男子達の「おおっ……」という声が聞こえてきた。海老名さんのような美人マネージャーがいるなら入部してみようかと考えているのかも。
 全ての部員がコメントを言い終わると、再び部長がホイッスルを鳴らして、小走りで会場を後にした。会場にいる生徒と一緒に俺達も拍手した。

「いい紹介でしたね」
「ああ。道本達もいたから楽しめた」

 校内放送でも、友達がテレビ画面に映るというのはいいなと思う。早くも来年の部活動説明会が楽しみになった。
 運動系の部活の中では結構後だったようで、陸上部の次の部活が説明すると、文化系の部活動の説明に移る。キッチン部の活動はいつになるのやら。
 運動系とは違って、文化系の部活動は落ち着いた雰囲気の説明が多いな。それもあり、アカペラで人気の曲のサビを歌った合唱部や、即興劇を繰り広げた演劇部はかなり印象に残った。
 また、理科部の説明のときは、

「うん。いい説明だったね」

 と、顧問の佐藤先生が優しい声色で呟いていた。
 それからも部活動の説明会は続いていき、

『次はキッチン部です』

 おっ、いよいよキッチン部か。愛実が出てくるし楽しみだな。

「愛実ちゃんが出てきますね!」
「ああ、楽しみだな」
「楽しみだねぇ」

 あおいも佐藤先生も楽しみにしている。
 それから程なくして、制服にエプロンを身につけた女子生徒5人が登場。その中にはもちろん愛実もおり、愛実は桃色のエプロンを身につけている。可愛い部員ばかりだけど、愛実はその中でも群を抜いて可愛い。

「エプロン姿の愛実ちゃん可愛いですっ!」
「うん、可愛いな」
「よく似合っているね。可愛いね」

 あおいも佐藤先生も愛実のエプロン姿を絶賛している。
 エプロン姿の女子生徒が出てきたからか、会場からは主に男子生徒の「おおっ!」という声が上がっている。教室からも一部生徒の感嘆の声が聞こえる。

「……キッチン部だからエプロンか。なるほどね。王道だけどそれがいいね。あと、愛実ちゃんにあの姿で『おかえりなさい』って一度言われてみたいものだね……」

 腕を組みながらそう言うと、佐藤先生はうんうんと頷いている。今言ったシチュエーションを妄想しているのか、目を瞑ると先生の口角が上がった。教師とは思えないほどに自由な発言をするなぁ、この人は。気持ちは理解できるけどさ。
 陸上部のときと同じように、部長を務める女子生徒がキッチン部の活動について説明する。週1で料理やスイーツを作るという内容なため、特に女子生徒から反応の声が上がる。
 部長による説明が終わり、他の部員が順々にコメントしていく。愛実は端にいるからラストに言うのかな。
 やがて、愛実にマイクが渡り、

『キッチン部はとても楽しい部活です。来週1週間は仮入部期間なので、興味がある人は是非、調理室に遊びに来てください』

 いつもの優しい笑顔を浮かべ、優しい声色で愛実はそう言った。そのことで、会場からは拍手が湧く。
 さっきの予想通り、愛実で最後らしく愛実はマイクを部長に渡した。

『以上でキッチン部の説明を終わります。ありがとうございました』
『ありがとうございましたー!』

 最後に全員で挨拶して、拍手に包まれながら会場を後にした。俺もあおいと佐藤先生と一緒に拍手を送った。

「いい説明でしたね。あと、みんな可愛かったです」
「ああ。愛実も堂々としていたよな」
「頼れそうな先輩の雰囲気があったね、愛実ちゃんは。キッチン部に行こうと思う子も多いんじゃないかな」

 微笑みながら、佐藤先生は落ち着いた口調でそう言った。そんな先生の言葉に俺とあおいはしっかり頷いた。
 きっと、見学しに来たり、入部したりした生徒に、愛実は先輩部員として優しく接することができるだろう。
 引き続き、文化系の部活動の説明が行われていく。
 時折、既に説明が終わった部活の説明者として参加したクラスメイトが教室に戻ってくる。そのときには「おつかれ~」という労いの言葉も聞こえて。
 終盤になって、愛実達4人が一緒に教室に戻ってきた。ちゃんと説明できたからか、4人は満足そうな笑顔。その際、俺とあおいと佐藤先生で4人に「お疲れ様」と労った。

『以上で、部活動説明会を終わります』

 愛実達が戻ってきてから数分ほどで部活動説明会は終了した。体育館にいる1年生はもちろんのこと、教室にいる2年2組の生徒も拍手を送った。

「調津高校には色々な部活があるんですね」
「いっぱいあるよ、あおいちゃん」
「何か興味があったり、入りたいと思ったりする部活はあったか?」
「……キッチン部や陸上部を含め、素敵だと思う部活はいくつもありました。ただ、前の学校に通っていたときもバイトをしていたので、調津でもバイトしたいと思っています。調津高校での学校生活や勉強のペースに慣れてきたら」

 俺と愛実、佐藤先生の目を見ながら、あおいはしっかりとした口調でそう言った。この様子からして、部活に入るよりもバイトする意志は固そうだ。それに、あおいはこれまで趣味とか自由に使えるお金を稼ぐためにバイトしてきたそうだから。
 あと、すぐにではなく、学校生活や勉強に慣れたらバイトをしたいと考えているのは賢明だと思う。

「そうか。あおいのやりたいことをやるのが一番いいと思う」
「リョウ君の言う通りだね」
「そう言ってくれて嬉しいです。ただ、料理やスイーツ作りをしたくて、愛実ちゃんのところに行くことがあるかもしれません」
「そのときは歓迎するよ!」

 愛実がそう言うと、愛実とあおいは楽しそうに笑い合った。

「うちの学校はバイトするのは自由だよ。あと、学校生活や勉強について不安があったら、いつでも相談しに来てね」
「はい! ありがとうございます、樹理先生」

 俺もあおいが学校生活や勉強で不安なことがあったときにはサポートをしていこう。
 部活動説明会が終わり、この後はロングホームルーム。クラス委員を決めたり、1学期の時間割が配られたりした。幸いにも、男女共に「1年の時にクラス委員をやったので今年もやっていい」と名乗り出てくれたので、俺は役目を担うことはせずに済んだ。
 ロングホームルームが終わると、その流れで終礼に。今日は金曜日であるため、佐藤先生は来週の主な予定を伝えた。水曜日は全校生徒が健康診断を実施するため、授業はないとのこと。これには一部の生徒が喜んでいた。俺も心の中で喜んだ。
 水曜日と同じくお昼前に学校が終わり、俺は海老名さん達や先生と一緒に教室の掃除をするのであった。


 放課後は午後1時から8時までサリーズでバイト。休日並みの長時間シフトだ。
 ただ、夕方頃にあおいと愛実を含めたクラスメイトの女子数人が来店して1時間ほど店内にいたり、午後6時過ぎに仕事帰りの佐藤先生がホットコーヒーを買いに来たりしてくれた。なので、特に疲れを感じることはなく、シフト上がりまでしっかりと仕事ができたのであった。
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