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第3章

第5話『今日は彼と一緒に』

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 4月24日、日曜日。
 昨日は気持ち良くウォーキングとジョギングをすることができたので、今日も早朝のジョギングをすることに。昨日、ジョギングから帰ってきた後にストレッチしたからか、特に筋肉痛の症状はない。
 昨日は家から多摩川沿いの歩道まではウォーキングしていたけど、今日はコース全てをジョギングするつもりだ。今日はバイトがあるけど、お昼前からなのできっと大丈夫だろう。

「よし、行くか」

 午前6時半過ぎ。
 家の前で軽くストレッチして、俺はジョギングする形で家を出発した。昨日のジョギングの速さを思い出しながら。
 昨日と同じ時間帯なのもあり、駅へ向かう大通りをジョギングしていても、人の姿はほとんど見かけない。朝の静かな風景だ。天気も昨日と同じで快晴。それでも、昨日はウォーキングしていた場所をジョギングしているから、昨日とは少し違って見えた。
 人の出入りが少ない調津駅前や駅の南側の住宅街を通り、多摩川沿いの歩道まで辿り着いた。昨日と同じく、このタイミングで小休憩を取る。

「ふぅ……」

 さすがに、ウォーキングした昨日よりも今日の方が早くここに着いたな。あと、疲労感が昨日よりも強い。
 体が温まってきたのもあり、冷たい麦茶がとても美味しく感じる。体を動かしているときに飲む麦茶は格別だ。
 周りを見渡すと……ジョギングしたり、犬の散歩をしたりと昨日よりも人の数が多い。今日は日曜日だからだろうか。

「あさおかー」

 背後から男子の聞き覚えのある声が聞こえてきた。この時間帯にここで出会いそうな人間は一人しか知らない。
 ゆっくりと後ろに振り返ると、黒いジョギングウェアを着た道本が、こちらに向かって走ってきているのが見えた。
 俺と目が合うと、道本は持ち前の爽やかスマイルで小さく手を振ってきた。そんな道本に俺も小さく手を振った。
 道本は俺のすぐ近くで立ち止まった。そんな道本は少し息が上がっていて。俺に比べたら結構速く走っていたからなぁ。

「おはよう、道本」
「おはよう。麻丘もジョギングか?」
「ああ。昨日から早朝ジョギングを再開したよ。この前のあおいとのレースで走るのが楽しいって思えたし、体力作りのためにもな。まあ、中学の頃に比べたらゆっくりとした速度だけど」
「ははっ、そっか。自分の気持ちいいと思えるペースで走るのが一番いいと思うぞ。それに、3年近く経ったとはいえ、一度は大けがをしているからな」
「ああ。ジョギングが楽しいからって、飛ばさないように気をつけないと」
「そうだな」

 そう言うと、道本は腰に付けているランニングポーチから、スポーツドリンクの入ったペットボトルを取り出して、それを一口飲んだ。そんな彼の姿を見ると懐かしい気持ちになる。

「うん、美味い」
「スポーツドリンクもいいよな。俺は麦茶だけど」
「麦茶もいいよな。今は夏じゃないし、軽くジョギングするくらいなら麦茶で十分いいと思うぞ。俺は部活でもスポドリをよく飲んでいるから、朝のジョギングでもスポドリなんだけどな」
「そっか」

 俺は麦茶をもう一口飲む。さっき飲んだときよりも、少し味わい深く感じられた。

「中学の頃、道本は休日中心に早朝にジョギングしていたけど、それは変わらないのか?」
「そうだな。体調とか天候が悪くなければ、土日は必ず走ってる。日曜日は部活ないし、土曜日も部活はあっても、平日の朝練よりは遅い時間から始まるし。あとは平日でも結構速く起きられたら」
「そっか」 

 昔から変わらずジョギングをしていると知ると、何だか嬉しい気持ちになる。

「道本。少しの間、一緒にジョギングするか? まあ、俺の脚の状態もあるから、俺のペースに合わせてもらう形になるけど。それでよければ」
「ああ、もちろんだ。一緒に走ろう」
「じゃあ、さっそく走るか」
「おう」

 俺は道本と一緒に、下流方面に向かって川沿いの歩道をジョギングし始める。この歩道は広いし、周りにあまり人がいないので、道本と横に並ぶ形で。

「道本。この速さで大丈夫か? ペースが崩れないか?」
「ゆっくりだから大丈夫だ」
「良かった」

 さすがに現役で陸上部員の道本に比べたら、ジョギングする速さは遅いか。
 こうして横に道本がいると、懐かしい気分になるな。中学に入学して事故が起きる直前までは、部活の練習でよく一緒に走っていたから。今のように、早朝に一緒にジョギングすることも何度もあったし。

「麻丘とジョギングしていると懐かしい気分になるな」
「道本もか」
「ああ。それに、事故があってからは、こうして一緒に走ることは全然なかったし」
「部活も辞めたし、早朝のジョギングも昨日までやらなかったからな。授業で持久走はあったけど、道本とはペースが全然違ったし」
「ああ。だから、こうして麻丘と横に並んで走るのは3年ぶりになるのか」
「そうだな。道本とまた一緒にジョギングできて嬉しいよ」
「俺もだ」

 道本はそう言うと、俺の横を走りながら爽やかな笑顔を浮かべる。また、こういう風に道本と一緒にジョギングする日がまた来るとは思わなかったな。
 あと、道本は特に汗を掻いている様子も見られないし、今の速さなら全然余裕なのだろう。ちなみに、俺は心地良い疲れを感じている。道本との体力の差を実感し始めている。

「そういえば、部活の方はどうだ? 1年生はたくさん入ってきたか?」
「ああ、結構入ってきたぞ。中学で一緒だった後輩も何人も入ってきた」
「そっか」

 さすがは地元の高校だけあって、俺達が卒業した中学出身の後輩も陸上部に入部してくるか。それに、部活動説明会でも言っていたけど、調津高校の陸上部は関東大会に行くレベルの部員がいるし、インターハイに出場した卒業生もいるからな。

「知っている後輩が何人も入部すると懐かしい気分になるよ。だから、結構楽しくやれてる」
「それなら良かった」

 その後輩達も、道本や海老名さんといった同じ中学出身の先輩が何人もいるから、きっと部活がやりやすくて、心強いんじゃないかと思う。

「1年ぶりに先輩としての日々が始まったし、これまで以上に頑張らないとな」
「応援しているよ」
「ありがとう。自己紹介のときにも言ったけど、今年こそはインターハイに出場したいな。100m、200m、400mリレーのどれか一つでもいいから」

 道本は静かに微笑みながらそう言う。
 入院中に俺が陸上部を辞めたとき、道本をはじめとした短距離走の部員が「麻丘の分まで頑張って、短距離のトラック競技で全国大会に出場する」と言ってくれた。彼らの中からはまだ全国大会出場は果たせていないけど、道本のように関東大会の常連になっている人もいる。

「去年はどれも関東大会だったもんな。今年はそれよりもいい結果が出るように応援するよ」
「ありがとう。……今日、久しぶりに麻丘と一緒にジョギングできたし、何か今年は今まで以上にいい結果を出せそうな気がする」
「ははっ、そっか」

 俺とのジョギングが道本の力になるのであれば、いくらでも一緒にジョギングしたいと思う。
 道本と一緒にジョギングするのが楽しくて、川沿いの歩道は道本がいつも走っている距離をジョギングした。それは、昨日、俺が家の方に戻る場所よりも遠いところだった。

「ここで俺は家の方に向かうんだ。ここまで走って麻丘は大丈夫だったか?」
「ああ。俺のペースで走らせてくれたし、道本とジョギングするのが楽しかったからな。疲れはあるけど、少し休憩すれば大丈夫だと思う」
「それならいいけど。じゃあ、俺は家に帰るよ」
「ああ。またな」
「またな。今日は楽しかったぜ。これからも、たまに一緒に走ろう」
「そうだな」

 俺がそう言うと、道本は爽やかな笑みを浮かべる。俺と一緒に走っていたときよりもだいぶスピードを上げて、自宅のある方に向かって走っていった。

「結構走ったな……」

 周りを見てみると、見慣れない景色が広がっている。ここまで来たなら、昨日よりも疲れを感じるのも無理はない。体は結構熱くて、顔や首に汗が伝っていくのが分かる。
 長めの呼吸を何回もして、息を整える。その後、ランニングポーチに入っている麦茶を少しずつ飲んでいく。

「凄く美味い」

 麦茶のおかげで喉が潤されて、麦茶の冷たさが全身にじんわりと伝っていくのが分かる。そのおかげで体が癒やされていく。
 そのまま2、3分ほど休憩して、疲れがある程度取れてきた。これなら、家までジョギングできそうか。

「よし、行くか」

 俺は川沿いの歩道を引き返す。昨日曲がった交差点まで戻り、交差点からは昨日と同じルートで自宅までジョギングするのであった。


 昨日に比べて、かなり長い距離をジョギングした。だから、家に帰ってもしばらくの間は疲れが残っていた。
 ただ、バイトに行くまでは自分の部屋でゆっくり休んだり、バイト中にあおいと愛実、海老名さんが来店してくれたりしたのもあり、お昼前から夜までの8時間のバイトをちゃんとこなすことができたのであった。
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