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第4章

第31話『誕生日前日』

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 7月5日から、1学期の期末試験がスタートした。
 期末試験は中間試験も実施した10科目と、情報、保健が実施される。12科目を4日間で実施するので、1日3科目ずつ試験がある。なので、中間試験よりもちょっとキツい。
 ただ、今回もあおいや愛実達と一緒に勉強会をしたおかげで、どの科目も結構な手応えがある。この調子で最終日の最終科目の試験まで駆け抜けていきたい。



 7月8日、金曜日。
 今日は期末試験の最終日。今日の試験科目は日本史と数学Bと生物だ。中間試験でもいい点数を取れていたけど、油断せずに期末試験に臨もう。
 今日が最終日だからだろうか。苦手意識のある数学Bの試験があるけど、登校中はあおいも愛実も表情が明るかった。
 2年2組の教室に到着すると、普段と同じように何人かで談笑する生徒もいれば、試験直前の追い込みなのか席に座って教科書やノートを熱心に見ている生徒もいる。

「おっ、麻丘達が来たな! おはよう!」
「おはよう、麻丘君、愛実、あおい」
「3人ともおはよう」

 道本と鈴木と海老名さんは……鈴木の席の周りで3人一緒にいる。ただ、鈴木の机には教科書やノートが開かれた状態で置いてあるので、今日の試験科目について3人で話しているのだろう。
 俺達は道本達に「おはよう」と声を掛けて、試験期間中の自分の席に荷物を置く。出席番号順なので、俺の席は中間試験明けまで自分の席だった窓側の一番前。だから、この席に行くとちょっと懐かしい気持ちになる。

「麻丘君」

 海老名さんの声が聞こえたので、彼女の方を向くと……海老名さんと道本、鈴木が俺の席の近くまでやってきていた。いつもは俺達が3人のところに行くのに。3人ともいい笑顔だし、今日の日付を考えると理由は何となく想像できる。

「どうした?」
「明日、麻丘君の誕生日じゃない。明日は土曜日で学校がないから、今日、誕生日プレゼントを渡そうと思って」
「おぉ!」

 やっぱり、俺に誕生日プレゼントを渡してくれるためか。予想はできていても、実際にもらえると嬉しいものだ。
 去年までも海老名さん達は誕生日当日や、誕生日が休日のときは今日みたいに直前の日の朝礼前にプレゼントを渡してくれた。海老名さん達がどんなものをプレゼントしてくれるのか楽しみだ。

「じゃあ、まずはあたしから。麻丘君、誕生日おめでとう」
「ありがとう、海老名さん」

 海老名さんからスポーツショップの白い袋を受け取る。
 袋に入っているものを見てみると……水色のスポーツタオルと緑色のスポーツタオルが入っていた。

「スポーツタオルだ。2枚入ってる」
「麻丘君、ジョギングを始めたから。これから夏本番になって汗もより掻きやすくなるから、スポーツタオルにしたの。細長いから首に掛けながら走れるし。水色と緑がいい感じだったから、どっちもプレゼント。タオルなら何枚あってもいいと思って」
「そうだな。緑も水色も好きだから嬉しいよ。ありがとう。さっそく使わせてもらうよ」
「うんっ」

 海老名さんは笑顔で頷いてくれる。
 色合いもいいし、触り心地もふかふかで凄くいい。これなら、これからの季節のジョギングも気持ち良くできそうだ。

「じゃあ、次は俺が渡すよ。誕生日おめでとう、麻丘」
「ありがとう、道本」

 俺は道本から緑色の袋を受け取る。
 海老名さんのものよりもやや小さめの袋だけど、どんなものを用意してくれたんだろう。そう思いながら、袋の中を見てみる。何か、細長い箱みたいなものが入っているな。それを取り出すと――。

「これは……水筒か」

 箱に水筒の写真がプリントされている。
 箱から取り出してみると……黒くてかっこいいデザインの水筒だ。それを見てか、あおいと愛実は「おぉっ」と可愛い声を漏らす。

「いいデザインの水筒だな。あと、軽いな」
「そうだろう? 俺の水筒と同じメーカーなんだ。それは軽いし、ワンタッチで開けられるし、保冷性も抜群だ。ジョギングしても負担にならないように350mlにした」
「そうか。今は280mlのペットボトルに麦茶とかスポーツドリンクを入れているからな。今のところ、それでも足りているから、350mlの水筒でちょうどいいな」
「それなら良かった」
「これも、さっそくジョギングで使わせてもらうよ」
「ああ、使ってくれ」

 道本はいつもの爽やかな笑みを浮かべる。
 これからの季節はより水分補給が大切になるし、この水筒は大活躍することだろう。
 春からジョギングを始めたから、道本も海老名さんもジョギングに良さそうなものをプレゼントしてくれたな。鈴木も陸上部員だし、ジョギングや運動に適したものだろうか。

「最後はオレだな! 麻丘、誕生日おめでとう! 美里からのプレゼントも入ってるぜ!」
「須藤さんも用意してくれたのか。ありがとう」

 鈴木からベージュの袋を受け取る。袋の大きさは道本と海老名さんの間くらいか。
 袋の中を見ると……黒いキャップと紺色のタオルハンカチが入っている。どっちが鈴木でどっちが須藤さんだろう。そう思いながら2つとも袋から出す。

「キャップにタオルハンカチか」
「帽子の方はオレからのプレゼントだ! 麻丘がジョギングを始めたから、オレもそのときに使えそうなものを選んだんだ! これから本格的な夏になるし、日差し除けにもキャップがいいと思ってな!」
「なるほどな。今まではキャップは被らなかったけど、熱中症対策にもキャップは被った方がいいよな」

 そう言いながら、俺はランニングキャップを被る。

「うん、いい被り心地だ」
「そりゃ良かった! あと、似合っているぜ、麻丘!」

 鈴木は満面の笑みでそう言うと、俺に向かって右手でサムズアップしてくれる。そんな彼に俺もサムズアップ。
 キャップのつばのおかげで、顔に影ができる。これなら、強い日差しの中でも眩しさを感じずにジョギングできそうだ。

「涼我君似合っていますよ!」
「似合っているよ、リョウ君!」
「ありがとう」
「もしよければ写真撮らせてください!」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございますっ!」

 その後、あおいはキャップを被った俺をスマホで何枚も撮影した。あおいの要望でピースサインしたり、海老名さんからプレゼントされたタオルを首に掛けたりして。
 似合っていると言うだけあってか、あおいはとても楽しそうに撮影していた。嬉しそうにも見えて。

「いい写真が何枚も撮れました!」
「私に送ってくれるかな」
「あ、あたしにも」
「分かりました。では、3人のグループトークにアップしておきますね」

 愛実や海老名さんもキャップ姿の俺の写真を欲しがるとは。まあ、誕生日プレゼントのささやかなお礼ってことで、あおいが2人と写真を共有するのを快諾した。

「キャップが鈴木ってことは、このタオルハンカチは須藤さんからか」
「おう! あと、早めだけどお誕生日おめでとうって言っていたぜ!」
「そうか。俺からメッセージを送るけど、鈴木からもありがとうって須藤さんに言っておいてくれないか」
「おう、分かったぜ!」

 彼氏の友人にプレゼントを用意してくれるなんて。須藤さんも律儀な人だ。ただ、鈴木という彼氏がいるし、俺も気兼ねなく使えるものとしてタオルハンカチを選んだのだろう。
 ちなみに、去年は4色ボールペンをプレゼントしてくれた。書きやすいし、インクがなくなったら芯を入れ替えできるタイプなので、今でも授業を中心に活躍している。

「3人とも、素敵な誕生日プレゼントをありがとう。どのプレゼントもすぐに使えそうなものばかりだから、さっそくジョギングのときに使わせてもらうよ」
「ええ。タオルだから、ジョギングでも体育の授業のある日でも使ってね」
「水筒もジョギングだけじゃなくて、バイトやどこか出かけるときにも使ってほしい」
「キャップ被って快適にジョギングしてくれたら嬉しいぜ!」

 道本、鈴木、海老名さんは明るい笑顔でそう言ってくれた。道本と海老名さんが言うように、水筒とタオルはジョギング以外でも使えそうな場面がある。3人と須藤さんからもらったプレゼントは大切に使わせてもらおう。

「涼我君良かったですね! 私は明日の誕生日パーティーのときにプレゼントを渡しますね」
「私もね。楽しみにしていてね、リョウ君」
「ああ。2人からのプレゼントも楽しみにしているよ」

 2人はどんなものをプレゼントしてくれるだろうか。あおいは11年ぶりなのもあって特に楽しみだ。
 また、俺達の会話を聞いていたのか、朝礼が始まるまでの間に、数人ほどのクラスメイトが俺に誕生日プレゼントとして飴やガム、タブレット菓子をくれた。今日も試験があるから、これらで糖分補給しよう。
 友人やクラスメイトが誕生日プレゼントをくれたのもあり、今日実施された定期試験はどの科目も結構できたのであった。
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