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最終章

プロローグ『告白されて』

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最終章



「私を……涼我君にプレゼントしたいです。涼我君のことが一人の男性として好きですから」

 家の前で言われたあおいからの告白を幾度となく思い出す。あのときのあおいの可愛らしい笑顔や、頬にキスしたことと共に。その度にドキドキして、体がとても熱くなる。
 お風呂に入っているときも、アニメを観ているときも、寝ようと思ってベッドで横になるときも。あおいのことが頭から離れない。
 幼稚園の頃のあおいは、中性的な雰囲気の子だった。
 春休みに10年ぶりに再会して、あおいは清楚な見た目になっていたけど、中身は変わらず元気な幼馴染で。
 ただ、再会したあおいと3ヶ月以上一緒に生活する中で、年相応の女性らしい部分も少しずつ見えてきて。
 そして、告白と頬へのキス。そのことで、あおいのことを幼馴染の関係を持ちつつも、一人の女性であるとより意識するようになった。
 また、あおいが告白して、キスした場にいたからだろうか。それとも、10年間一緒にいる幼馴染の女性だからだろうか。たまに、愛実のことを頭によぎるときもあって。愛実もこれまでよりも女性らしく感じられて。
 明日はバイトがある。正午からだけど、あまり遅い時間まで起きてはいけない。だから、寝ようと思っているんだけど、目を瞑るとあおいを中心に2人の幼馴染の顔が次々と思い浮かんで。眠気が襲ってきて眠りに落ちることもあるけど、時間は少ししか過ぎなくて。
 結局、あまり眠ることができなかった。



 7月10日、日曜日。
 ちょっと寝ては起きる……を繰り返していると、外が明るくなり始めていた。あまり眠れなかったのもあって、眠気が凄い。
 外の光を浴びたり、空気を吸ったりすれば、少しは眠気が取れるだろうか。そう思い、ベッドから降りて南側の窓を開ける。

「気持ちいいな」

 7月も中旬に差し掛かってきたけど、早朝なのもあり、空気が爽やかで涼しい。雲の切れ間から青空も見えていて。そのおかげで、眠気と体の疲れが少し取れたような気がする。
 今日は日曜日だし、こういう天気の日はジョギングしたくなる。最近はバイトがある日でも、軽くジョギングをするようになった。
 ただ、今日は昼過ぎからバイトがあるし、昨日はあまり眠れなかった。そんな中でジョギングをしたら、ジョギングを再開した直後のように疲労で体調を崩してしまうかもしれない。今日は止めておこう。



 午前中の間は部屋でゆっくりして、少しでも体力を回復させることに努めた。そんな中でも、あおいのことが自然と頭に思い浮かんで。それだけ、昨日のあおいからの告白が胸に響いた証拠なのだろう。
 ――プルルッ。
 スマホが鳴ったのでさっそく確認すると……あおいからLIMEで新着メッセージが届いたとの通知が。それを見た瞬間ドキッとして、胸を中心に全身が熱くなっていく。
 通知をタップして、あおいとの個別トークを開くと、

『昨日は私の気持ちを聞いてくれてありがとうございました。今日は確か、涼我君はバイトですよね。頑張ってくださいね! 私もバイト頑張ります!』

 というメッセージが表示された。
 これまで、あおいから『バイト頑張って』とメッセージをもらうことは何度もあった。でも、今のこのメッセージが一番嬉しく思えて。胸が温かくなる。告白した翌日だから、照れくささとかがあって、あおいからメッセージは来ないかもしれないと思っていたから尚更に。
 睡眠不足による眠気や疲れはまだまだ残っている。だけど、このメッセージのおかげで今日のバイトは何とか乗り切れそうな気がした。

『ありがとう、あおい。あおいもバイト頑張って』

 と、あおいに返信を送った。これで少しでもあおいの力になれたら嬉しい。
 あおいもトーク画面を開いているのか、すぐに俺の送信したメッセージに『既読』のマークが付いて、

『ありがとうございます!』

 と再度メッセージが送られた。文字だけど、あおいの明るい笑顔ははっきりと頭に浮かんできて。だからなのか、気付けば頬が緩んでいたのであった。



 正午からサリーズのバイト。午後6時までシフトに入っている。
 午前中は家でゆっくりしていたり、あおいからメッセージをもらったり、休憩のときに濃いめのアイスコーヒーを飲んだりすることで、特に問題なく仕事ができている。それでも、普段よりも眠く、体の力が少し抜けているけど。

「アイスコーヒーのMサイズになります。ごゆっくり」
「どうも」

 30代くらいの男性のお客様に、注文を受けたものを手渡した。そのことで来店されたお客様の波が一段落する。

「ふぅ……」

 一度、長く息を吐くと、吐いた息と共に疲れが抜けていくような気がした。コーヒーや紅茶など、提供しているドリンクやフードメニューの匂いも香ってくるので癒やされる。

『涼我君っ』

 ……まただ。接客業務が落ち着くと、不意にあおいの笑顔が脳裏をよぎる。そのことで、体が温かくなって。ここがエアコンの掛かっている所だからいいけど、屋外でのバイトだったら、今ごろ熱中症で倒れていたかもしれない。
 ちなみに、あおいは来店していない。ただ、あおいもファミレスのバイトがあるし、今日は来ないかもしれないな。

「やあやあやあ、涼我君」

 この話し方は。
 気付けば、佐藤先生が俺に手を振りながらこちらに向かって歩いてきていた。俺と目が合うと、先生は落ち着いた笑みを浮かべながら手を振ってきて。ロングスカートにノースリーブのVネックシャツ姿だから、夏の大人の女性って感じがする。そんな彼女の色香に惹かれたのか、男女問わず先生を見ているお客様が多い。

「いらっしゃいませ、佐藤先生」
「いらっしゃったよ、涼我君。いやぁ、君がカウンターにいるときに来られてとてもいい気分だよ」
「嬉しいです。今日もレモンブックスからの帰りですか?」
「うん、そうだよ。一般向け同人誌もエロい意味で成人向けの同人誌も買えて満足だよ」

 その言葉が本当であると示すように、佐藤先生は満足げな笑みを浮かべている。まったく、喫茶店でバイトする現役の教え子相手に、エロい意味で成人向けの同人誌を買えたと報告するとは。ブレない先生である。まあ、今はすぐ近くに人がいないから、注意はしないでおこう。

「あと、昨日メッセージで伝えたけど、17歳の誕生日おめでとう、涼我君」

 佐藤先生は優しい笑顔で俺におめでとうのメッセージを言ってくれた。嬉しいな。あと、あおいからの告白で忘れかけていたけど、昨日は俺の誕生日だったんだよな。

「ありがとうございます。あと、LIMEのスタンプもありがとうございました。俺の好きな漫画のスタンプですから嬉しいです」
「そう言ってもらえて良かった。涼我君だから、好きな漫画関連のものがいいと思ってね」
「そうですか」

 その心遣いが嬉しい。
 佐藤先生は俺のことをじっと見つめている。

「ど、どうしました?」
「……17歳になったからか、これまでよりも大人っぽく見えてね。ただ、ちょっと眠そうにも見える。昨日は誕生日だったし、愛実ちゃんとあおいちゃんに誕生日パーティーを開いてもらって、興奮して眠れなかったのかな?」

 微笑みながら佐藤先生はそう問いかける。
 じっと見つめていたのは、俺が普段通りではなかったことに気付いたからかもしれない。いつものように振る舞っているつもりだったんだけどな。担任として、学校を中心に普段から接しているから気付いたのかも。

「ええ、そうです。寝不足気味で……休憩中には濃いアイスコーヒーを飲みました」

 あおいに告白されて、そのことにドキドキしてあまり眠れなかったとは言えない。あの告白は俺だけじゃなくて、あおいも深く関わっていることだから。
 今の俺の説明に納得したのだろうか。佐藤先生は口角を上げる。

「そうかい。ただ、キツかったり、不安だったりしたら周りの人を頼るんだよ」
「はい、そうします」
「よろしい。もちろん、それは常日頃から言えることだけどね。涼我君の担任教師として、近くにいる大人としていつでも君の相談に乗るさ」

 佐藤先生はいつもの落ち着いた笑顔で、俺の目を見ながらそう言ってくれる。もしかしたら、俺が嘘をついていると見抜いているのかもしれない。恋愛的な内容だけど、先生に相談することがあるかもしれないな。

「ありがとうございます」
「いえいえ。教師として当たり前のことを言っただけさ。……いつまでもここで話していてはいけないね」

 その後、佐藤先生はアイスコーヒーのSサイズをテイクアウトで注文した。先生、本当にうちのコーヒーを気に入ってくれているんだな。

「じゃあ、バイト頑張ってね、涼我君」
「ありがとうございます」

 佐藤先生は俺に小さく手を振ってサリーズを後にした。先生が来店してくれたことで、体が少し軽くなった気がする。親しい人に来てもらえるっていいな。
 その後、バイトが終わる午後6時まで、特に問題なく仕事をこなすことができた。
 また、バイト中にあおいが来店することはなかった。来店しないかもしれないと予想していても、あおいが来なかったことに少し寂しさを覚えるのであった。
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