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最終章

第2話『告白を知って』

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 学校に到着し、俺達は階段を使って2年2組の教室がある4階へ向かう。
 教室に向かう中で、多くの生徒が視界に入るけど、明るい表情をしている生徒が多い。期末試験が終わったり、今日から終業式まで半日で終わる日が続いたりするからだろうか。試験が終わったから、既に夏休み気分な生徒もいるかもしれない。
 階段で4階に到着し、俺達は2年2組の教室に入った。
 今日も、先に登校していた生徒の誰かがエアコンを点けてくれていたようだ。教室の中に入ると、涼しくて快適な空気が体を包んでくれる。
 これまでに見かけた生徒達と同様、教室の中にいる生徒達も多くが明るい表情をしていて。だから、いつもの月曜日よりも教室の中の雰囲気がいい。

「おっ、麻丘達が来たな! おはようだぜ!」
「3人ともおはよう」
「愛実、あおい、麻丘君、おはよう」

 教室後方の窓側にいる道本、鈴木、海老名さんも例外なく明るい雰囲気だ。特に鈴木は。俺達はそんな彼らに「おはよう」と挨拶しながら、自分の席に向かった。

「これまで通り、麻丘君達は3人で来たか……」

 独り言ちているのか、それとも俺達に向かって話しかけているのか判断しかねるボリュームで、海老名さんはそう言った。
 これまで通り3人で来た……どういうことだ? 海老名さんを見ると、海老名さんは目を見開いて「あっ」と声を漏らし、右手で口元を押さえた。
 今の海老名さんの反応を見てか、あおいは微笑みながら「いいですよ」と言った。

「実は昨日の夜、理沙ちゃんには誕生日パーティーから帰ったときのことを話しまして。女子3人のグループトークで、涼我君の誕生日パーティーはどうだったのかを話す流れで。理沙ちゃんは一緒にいることの多い友達ですから。もし嫌だったならごめんなさい、涼我君」

 俺達にしか聞こえないくらいの声の大きさであおいはそう言ってきた。
 なるほど。海老名さんはあおいから、俺に告白したことを話されていたのか。だから、これまでと同じく3人で登校してきたのか……と言ったんだな。
 あおいと愛実と海老名さんはとても仲のいい友人だし、普段からグループトークで話している仲でもある。そんな海老名さんには話しておこうと思ったのだろう。

「俺は別にかまわないよ。気にしないでくれ」
「ありがとうございます」

 ほっと胸を撫で下ろすあおい。俺の知らないところで、俺にも関わることを話されて嫌な思いをするかもしれないと思っていたのかも。

「麻丘の誕生日パーティーの帰りに桐山と何かあったのか?」

 俺やあおいのことを見ながら、道本はそう問いかけてくる。
 俺の近くにはいつも一緒にいるメンバーしかいないから……言うか。

「……あおいに告白されたんだ。返事は待ってもらってる」

 さっきのあおいよりも小さめのボリュームで、俺はそう言う。
 あおいに告白されたことを話すのはこれが初めてだから、ちょっとドキドキするな。告白されたときのことを思い出して、体が熱くなってきた。あおいも同じなのか、頬を中心に顔を赤くしている。

「そうだったのか。桐山は麻丘のことが好きなんだな。まあ、いつも一緒にいるし、麻丘と楽しく話していることが多いもんな」
「まあ、納得だな。あと、今の話を聞いたら、美里に初めて好きだって言ったときのことを思い出すぜ!」

 道本は爽やかな笑みを、鈴木は明るい笑みを浮かべながらそう言う。あおいが昨日までに女子3人のグループトークで告白のことを話しているのに、俺が男子3人のグループトークで話していないことに不満そうにしている様子は見られない。
 あと、鈴木は須藤さんっていう恋人がいるから、今のあおいの話を聞くと須藤さん絡みで色々と思い出すことがあるのだろう。

「道本君の言う通りね。それに、麻丘君のことを話すあおいは凄く楽しそうだし。……麻丘君。時間がかかっても、あおいの告白にちゃんと返事しなさいね」

 海老名さんは真剣な様子で俺にそう言ってくる。そのことで、あおいの告白がとても大切なことであると改めて実感する。

「ああ、分かっているよ」

 これからの日々を送る中で、あおいのことを考えて、あおいからの告白に対する答えを出していきたい。「すぐに決めなくてかまわない」「いつまでも待っている」とあおいから言われているけど、それらの言葉に甘えすぎないように気をつけないと。

「まあ、第三者のあたしが言う資格はないかもしれないけど」
「十分にあるだろう。海老名さんはあおいの友達なんだから」
「リョウ君の言う通りだよ」
「それに、あおいを大切に思っているからこそ言ったんだろうし」
「……ええ」

 海老名さんは微笑みながら、小さく首肯した。友達想いの優しい人だな。
 また、当の本人であるあおいは、海老名さんの想いが嬉しかったのか、ニッコリと笑って海老名さんの左腕をぎゅっと抱きしめている。そんな2人を見ていると微笑ましい気持ちになって。俺と同じような気持ちなのか、愛実は落ち着いた笑顔で2人を見ていた。

「やあやあやあ、どうしたんだい。あおいちゃんが理沙ちゃんの腕を抱きしめているなんて。2人とも笑っているし、とても美しい光景じゃないか。体が勝手に吸い寄せられてしまったよ」

 気付けば、佐藤先生が俺達のすぐ近くまで来ていた。吸い寄せられるほどの美しい光景が広がっているからか、先生はとてもいい笑顔になっていて。
 こうなったきっかけは、あおいが俺に告白したことだ。まあ、佐藤先生になら話してもいいかな。そう思ってあおいを見ると、あおいと目が合って。
 俺が小さく頷くとあおいも小さく頷き、

「樹理先生」

 あおいがそう言うと、佐藤先生に何やら耳打ちしている様子。きっと、俺に告白したことを話しているのだろう。

「なるほどね。とっても青春だねぇ」

 あおいと俺のことを交互に見ながら、佐藤先生はそう言った。リアルな人物の恋愛話も好きなのか、佐藤先生は楽しげな笑顔になっている。
 また、俺と目が合うと、佐藤先生の口角が上がって。どうやら、昨日、先生を接客した際に俺がちょっと眠そうに見えた本当の理由を察したようだ。先生は右手で俺の肩をそっと掴んで、

「理沙ちゃんと同じ意見だよ」

 落ち着いた口調でそう言った。ゆっくりと俺に顔を近づけて、

「あとは昨日言った通りだ」

 と、俺に耳打ちしてきて。その際に香ってくる先生の甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
 昨日言ったこと……「キツかったり、不安だったりしたら周りの人を頼ること」「いつでも、佐藤先生は俺の相談に乗ってくれること」……か。相談できる人がすぐ側にいるのは安心できるし、有り難いことだ。
 はい、と佐藤先生に返事をすると、先生は優しげな笑顔で頷いてくれた。

 ――キーンコーンカーンコーン。
「おっ、チャイムが鳴ったね。みんな、自分の席に着いて」

 朝礼を知らせるチャイムと佐藤先生のその言葉に、教室にいる生徒は自分の席へと着いていく。もちろん、俺も。前には愛実、左隣にはあおいがいる自分の席に。
 朝礼中、あおいからずっと視線を浴び続けたのであった。



 今日は試験明け初の学校なので、どの教科も期末試験の答案返却と解説だった。
 返却された教科はどれも90点以上取ることができた。この調子なら、中間試験と同じくらいの成績を取れそうだ。
 あおいや愛実もまずまずであり、道本達も赤点はないとのこと。このままみんな赤点なしで試験が返却され、成績でも赤点科目なしで夏休みを迎えたい。
 また、今日はあおいが不安に思っている数学Ⅱや数学Bの試験が返却され、そのときあおいは、

「赤点ではありませんでした! 涼我君のおかげですね!」

 と、凄く嬉しそうな笑顔で言ってきて。そんなあおいが凄く可愛くて。
 あおいは勉強会のときに積極的に質問していたからな。それを知っているから、あおいの点数に嬉しく思う自分がいた。



 放課後。
 今日から半日期間が始まったので、お昼頃に終わった。授業があってお昼に放課後を迎えるのは試験明けの時期以外には三者面談くらいしかない。なので、昼に学校が終わると試験明けだなぁと実感できる。
 今日はサリーズでのバイトがあるので、放課後になるとすぐにあおいや愛実と一緒に学校を後にする。
 お店の近くであおいと愛実と別れる際、後でお店に来ると言ってくれた。昨日は佐藤先生しか来なかったし、2人が来ることで頑張れそうな気がした。
 スタッフルームで、キッチン担当のスタッフによるまかないを食べ、俺はいつも通りにカウンターでの接客業務を始める。今日もシフトは午後6時まで。頑張ろう。
 調津高校のように、この時期になると半日で終わる学校が多いのだろうか。昼過ぎのこの時間から、学校の制服姿のお客様が多い。
 今日は学校が半日で終わって、お昼のまかないを食べた直後だからか、普段の平日の放課後よりも時間が早く過ぎていくな。
 カウンターでの接客を中心に仕事をし、2時間ほど経ったとき、

「涼我君、来ました! お疲れ様です!」
「お疲れ様、リョウ君」

 制服姿のあおいと愛実が来店し、俺の担当するカウンターの前までやってくる。2人とも笑顔で小さく手を振ってきて。昨日は2人とも来店しなかったので、カウンターから2人の姿を見れるだけで嬉しい。

「いらっしゃいませ。来てくれて嬉しいよ」
「さっき約束しましたからね。愛実ちゃんとお昼ご飯を食べた後、アニメイクやレモンブックスに行ったり、夏服を見たりしました!」
「楽しかったよね、あおいちゃん。アニメイクでは2人とも新刊の漫画を買ったし」
「楽しい時間でしたね」
「そうか。楽しめているなら良かった」

 あおいと愛実が笑顔で話している姿を見ると、それだけで学校やバイトの疲れが少し取れた気がする。

「あおいちゃん決まった?」
「私はまだ。もし決まっているなら、お先にどうぞ」
「分かった。じゃあ、お先に」
「店内でのご利用ですか?」
「はい。アイスコーヒーのSサイズ。ガムシロップを1つお願いします。以上で」
「アイスコーヒーのSサイズ。ガムシロップをお1つですね。250円になります」

 愛実から250円ちょうどをいただき、注文を受けたアイスコーヒーのSサイズとガムシロップを一つ用意する。

「お待たせしました。アイスコーヒーのSサイズとガムシロップになります」
「ありがとう、リョウ君。……テーブル席取っておくね」
「はいっ、ありがとうございます」
「ごゆっくり」

 俺からアイスコーヒーとガムシロップを受け取ると、愛実はテーブル席のある方へと向かっていく。
 テーブル席は……2人用も4人用もいくつか空いているな。愛実は空いているテーブル席の中で、俺が担当するカウンターに一番近い2人用のテーブル席を陣取った。
 あおいは俺の目の前に立つ。先日の告白があったので緊張するけど、今はバイト中。しっかり接客しよう。

「ご注文はお決まりですか?」
「は、はいっ! タピオカ抹茶ラテのSサイズをお願いします」
「タピオカ抹茶ラテのSサイズですね。他には?」
「あとは……」

 そう言うと、あおいの顔が頬中心に赤くなっていく。

「……りょ、涼我君をお持ち帰り……な、なんて」

 俺にしか聞こえないような小さな声でそう言い、えへへっ……とあおいははにかんでいる。
 サリーズは多くのメニューがお持ち帰りできる。ただ、冗談とはいえ、俺をお持ち帰りしたいと言われるのは初めてだ。バイトを始めた直後、面白がった友達から「スマイルください」って言われたことはあったけど。
 それに、お持ち帰りしたいと言ったのがあおいだからドキッとして。顔がちょっと熱い。

「す、好きな人が接客してくれるので、一度言ってみたかったんです」
「な、なるほどな」

 理由まで言うところが可愛らしい。

「……タピオカ抹茶ラテのSサイズ一つで。店内でいただきます」
「かしこまりました。400円になります」

 あおいから代金を受け取り、注文を受けたタピオカ抹茶ラテのSサイズを用意する。

「お待たせしました。タピオカ抹茶ラテのSサイズになります」
「ありがとうございますっ」

 俺から手渡しでタピオカ抹茶ラテを受け取ると、あおいはとても嬉しそうな笑顔でお礼を言ってくれた。その笑顔はこのカウンターから見た今までの笑顔の中で一番可愛くて。あおいの温かな手が少し触れたのもあってドキリとして。

「涼我君、バイト頑張ってくださいね!」
「ありがとう、頑張るよ。あおいも愛実と一緒にここでゆっくりしていってね」
「はいっ!」

 あおいは満面の笑顔で俺に小さく手を振ると、愛実が待っているテーブル席へ向かった。
 それからは、テーブル席に座っているあおいと愛実のことをたまに見ながら、カウンターでの接客業務をしていく。
 自分の注文したドリンクを飲みながら談笑するあおいと愛実はとても可愛い。何度か2人がこちらに小さく手を振ってくれるので、本当に癒やされる。
 また、あおいと愛実のことを、学生服を着ている人達を中心に見ているお客様が多い。あおいは美人で、愛実はとても可愛い見た目の持ち主だからな。ただ、当の本人達はそういった視線を気にしている様子はなかった。
 あおいと愛実は1時間ほどいて、帰るときにも俺に「頑張って」と声を掛けてくれた。そのおかげで元気が出て、残りのバイトも難なくこなせたのであった。
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