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最終章

第23話『愛実のバイト先へ-前編-』

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「着きましたね! 八段下!」
「着いたな」

 電車に乗ってから35分。
 俺達の乗る電車は定刻通りに八段下駅に到着した。車内ではずっとあおいと話していたからあっという間だったな。
 この駅で降りる人は結構いる。駅周辺には有名な観光名所やお店がいくつもあるからなぁ。あと、今降りた人達の中には、国立武道館で開催されるニジイロキラリのコンサートに参加する人もいるのだろう。
 国立武道館も有名な場所なので、武道館の方にある出口の方向を示す案内板がホームに設置されている。俺達はそれに従って駅の構内を歩く。
 改札近くにお手洗いがあったため、お手洗いに行ってから、武道館に一番近い出口から駅の外に出た。

「おおっ……!」

 あおいは目を輝かせながら、駅の周りの景色を見渡している。可愛いな。

「さすがに調津とは違った雰囲気ですね! テレビやネットで観る都心の風景って感じです。興奮します!」
「さすがは23区って感じがするよな」
「そうですね! せっかく来ましたから、涼我君と写真を撮りたいです!」
「いいぞ」

 その後、あおいは駅周辺の景色をバックに俺とのツーショット写真を撮影する。また、あおいは景色のみの写真も撮っていて。さっきのあおいの言葉もあって、あおいと都心の方に観光へ来た気分になる。

「いい写真が撮れました!」
「そうか。良かった。じゃあ、そろそろ武道館へ行くか」
「はいっ」

 俺達は武道館に向かって歩き始める。
 涼しい電車に30分以上乗っていたから、結構暑く感じる。高層ビルなどの建物がいっぱいあるので、調津よりも暑い気がするな。
 今日はニジイロキラリのコンサートが開催されるからか、所々に『武道館はこちらです』というボードをもったスタッフらしき人が立っている。その案内に従って2、3分ほど歩くと、

「あれですね! 国立武道館!」

 国立武道館が見えるように。その瞬間、あおいは興奮した様子で武道館に指さす。

「そうだよ、あおい」
「立派な建物ですね! テレビやネットで見たことがありますが、実際に見るのは初めてです!」

 凄いですっ! とあおいは武道館を見ながら歩いている。何だか、今のあおいを見ていると、ゴールデンウィークにオリティアという同人誌即売会に行ったとき、会場である国際展示ホールの前に到着したときのことを思い出すよ。あのときも、今のように興奮した様子でホールを見ていて、スマホで何枚も写真を撮っていたな。
 それから程なくして、俺達は国立武道館の敷地内に入る。その直後、あおいはトートバッグからスマホを取り出して、武道館を撮影する。自撮りもしていて。やっぱりここでもあおいは写真を撮るか。有名な場所だもんな。思わずクスリと笑い声が出た。

「涼我君。ここでも一緒に撮りませんか? 初めて武道館前まで来た記念に」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございますっ」

 俺はあおいのすぐ側に立つ。そのことで、汗混じりのあおいの甘い匂いが香ってきてドキッとする。
 あおいのスマホで、武道館を背景にしたツーショットの自撮り写真を撮影した。

「いい写真が撮れました! 駅まで撮った写真と一緒にLIMEで送りますね!」
「ああ。ありがとう」

 その直後に俺のスマホが鳴り、LIMEであおいからツーショット写真が何枚も送られてきた。あおいはピースサインをして笑顔で写っているし、あおいと俺の後ろにある駅周辺の景色や武道館も写っている。俺も笑顔になれているから……いい写真だな。さっそくスマホに保存した。
 十分にスマホで撮影できたそうなので、俺達は敷地内を歩いていく。
 まだ開場していないのか、武道館の前にはニジイロキラリのファンと思われる人達がいっぱいいる。グッズを眺めていたり、タブレットでコンサート動画を観ていたり、外にいるのに光るサイリウムを振ったり……と、思い思いの時間を過ごしている。

「人がいっぱいいますね。敷地内ですし、多くの人はコンサートに参加するんでしょうね」
「そうだろうな。俺達みたいにチケットがなくて、物販ブースだけって人は少ないかもな」
「ですね。ただ、この立派な武道館で3日間コンサートするほどの人気がありますから、チケットは取れなかったけど、グッズは買いに来たっていう人は割といるかもしれませんよ」
「その可能性もありそうだな。……おっ、あそこにテントがある。あれが物販ブースじゃないか?」

 俺は物販ブースだと思われる白いテントを指さす。そのテントにはパンフレットやタオル、Tシャツ、リストバンド、サイリウムなどの写真が貼られた板が設置されている。一部には『完売しました!』と赤いシールが貼られている。

「雰囲気からしてそうですね。テントのところで、お金や商品のやり取りも行なわれていますし」
「だよな。愛実は接客担当だって言っていたから、あのテントにいそうだな」
「ですね。近くに行って見てみましょうか」
「ああ」

 周りの人の迷惑にならない程度に、俺達は物販ブースのテントの近くまで行く。
 テントの中にいる人……みんな同じデザインのTシャツを着ているな。きっと、スタッフ用のTシャツなのだろう。あと、色もいくつかあり、全部で……7色あるな。ニジイロキラリというグループ名やメンバーの数が7人であることにちなんで7色あるのだろう。そんなことを思いながら、テントの中を見ていくと、

「おっ、あそこに愛実がいた。赤いTシャツを着てる」

 俺がそう言って、接客中の愛実を指さすと、あおいはすぐに「見つけました」と言った。
 今、愛実はワンピース姿の女性に接客中。お釣りなのかお金を渡して、

「ありがとうございました!」

 とお礼を言ってグッズを手渡す。愛実らしい可愛らしい笑顔で接客している。今回が初めてじゃないし、結構リラックスした状態で接客できているな。
 また、愛実の近くでは緑色のTシャツを着たキッチン部の友人の女子が接客している。愛実と一緒だからか、彼女も特に緊張していない様子だ。

「愛実ちゃん、笑顔で接客していますね。素敵ですっ」
「ああ。あまり緊張していないみたいだし、元気そうで良かった」
「ですね。いつもの笑顔ですが、バイト中ですから大人っぽく見えますね」
「そうだな」

 去年、愛実がバイトしている姿を初めて見たとき、普段と変わらない笑顔なのに、凄く大人っぽく見えたことを思い出す。

「なあ、あの赤いTシャツの茶髪の子、凄く可愛くね?」
「だよな。胸もかなり大きいし。ニジイロキラリと同じ事務所の新人だったりして」
「あり得るかもな! あの事務所は可愛い子が多いし!」

 近くを歩いていた男性達のそんな会話が聞こえてくる。身体的特徴からして愛実のことを話しているんだろうな。愛実は凄く可愛いし……む、胸もかなり大きいからな。ニジイロキラリの後輩タレントと勘違いされるのも納得だ。

「今の人達、きっと愛実ちゃんのことを話していたんでしょうね」
「俺もそう思ってる」
「愛実ちゃん、可愛いですもんね。彼らの話を聞いたら、愛実ちゃんがより可愛く見えてきました。アイドルにも見えてきます!」
「ははっ、そっか」
「愛実ちゃんは歌が上手ですから、歌唱力のあるアイドルとしても人気出そうです」
「分かる。歌の上手さが売りの人気アイドルもいるもんなぁ」

 そう考えると、愛実がアイドルの原石のように見えてきたぞ。
 ただ、あおいも美人でスタイルがいいし、笑顔になると可愛らしさも感じられる。愛実ほどではないけど、歌はなかなか上手だし。もし、愛実と一緒にバイトしていたら、あおいも事務所のタレントとかアイドルだと勘違いされていたんじゃないだろうか。

「そろそろ並ぶか」
「そうですね。行きましょう」

 テントを離れ、俺達は物販ブースの待機列の方へと向かうのであった。
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