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最終章

第32話『下着を選んでほしいな』

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 食堂で昼食を食べ終わった後は、学生スタッフによるキャンパスツアーに参加した。受付のある第一校舎からスタートし、1時間ほどでキャンパスを一周。その中で、よく使われる場所についてはツアー担当の女子学生から説明を受けるといった内容だった。
 一周することで、キャンパスがとても広いことや、高校までの校舎とは全然違う雰囲気だと今一度実感できた。
 また、愛実が楽しげにキャンパスの風景を見ていたり、女子学生の説明を聞いていたりするのが印象的で。そんな愛実が可愛くて、愛実の方に意識が集中してしまうときもあった。

「結構広くていい雰囲気のキャンパスだったね」

 それが、スタート地点である第一校舎に戻ってきてからの愛実の第一声だった。

「そうだな。1時間があっという間だった。……今は午後2時過ぎか。愛実は何か受けたい模擬授業とか、参加したいイベントはあるか?」
「ううん、特にないな。それに私はもう満足だよ。模擬授業を2つ受けたし、食堂でお昼ご飯を食べたし、キャンパスの中を一通り廻れたし。リョウ君はどう?」
「俺も同じ理由で満足してる」
「そっか。じゃあ、調津に帰ろうか。実はナルコで買いたいものがあるの。リョウ君に付き合ってもらえると嬉しいんだけど」
「俺でいいなら全然かまわないよ」
「ありがとう。じゃあ、駅に行こうか」
「ああ」

 俺達は第一校舎を出て、栄治大学のキャンパスを後にする。2時過ぎに下校するのも大学生っぽい感じがする。高校の下校時間は3時半過ぎか、半日期間で12時半過ぎくらいだから。
 周りを見ると、キャンパスを後にする人がちらほらと見受けられる。

「リョウ君。オープンキャンパスどうだった? 誘った身として感想を聞きたくて」
「良かったよ。オープンキャンパスに行くのは初めてだったから、大学ってこういう感じなんだって思えたし。愛実と一緒に模擬授業を受けたり、お昼を食べたりして大学生気分を味わえたしな。愛実はどうだった?」
「私も良かったよ。高校までとは全然違う雰囲気なのが体感できたし。リョウ君と一緒に大学生気分になれたから。あと、3年は文系クラスを選択して、栄治大学の文系の学部を目標に勉強するのもありだなって思った。特に模擬授業を受けた文学部と法学部は」
「俺も栄治大学の文系学部は進路の一つの選択肢になったな。うちの高校が栄治大学を目標にしたり、合格して進学したりする生徒が多いのも納得した。文理選択や進路を考えるいいきっかけになったよ。ありがとう」
「いえいえ」

 愛実は嬉しそうな笑顔でそう言った。
 今後もオープンキャンパスや文化祭とかに行って、自分の進路を考えていきたい。あと、バイト先に高3や大学生のスタッフが何人かいる。その方達に受験や大学のことについて話を聞くのも良さそうだ。
 数分ほど歩いて最寄り駅の栄大前駅に到着する。
 行きと同じで、ホームでは先頭車両が停車する場所で電車を待った。それが功を奏し、帰りの特急列車も愛実と隣同士で座ることができた。そのことに愛実も嬉しそうで。
 涼しい車内で席に座れるのは快適そのもの。愛実とオープンキャンパスのことを話すのも楽しいから、調津駅までの10分間はあっという間だった。
 調津駅に到着し、愛実が買い物したいというショッピングセンター・調津ナルコに。

「そういえば、俺と一緒にナルコで買いたいものって何なんだ?」

 ナルコに入ってすぐ、俺は愛実にそう問いかける。
 ナルコの中は電車と同じくらいに涼しくて快適なのだが、俺が質問した直後に愛実の頬がほんのりと赤くなっていく。俺のことをチラチラと見てきて。いったい、何を買おうとしているんだ?

「……し、下着です」

 と、愛実は俺にしか聞こえないような小さな声で言ってきた。下着という言葉や、愛実が恥じらっているのもあってドキッとする。

「し、下着か」
「……う、うん。最近、家にあるブラジャーがいくつかキツく感じて。それで、お母さんに測ってもらったらGカップになってて」
「……そ、そうなのか」

 春休みにはFカップだと言っていたから、4ヶ月でカップのサイズが一つ大きくなったのか。それが早いのか遅いのかは分からないが。あと、あおいがこの事実を知ったら、とても羨ましがりそうだ。
 胸がGカップだと言われると、自然と視線が愛実の胸に移ってしまう。これが……Gカップか。ブラウス越しでもかなり膨らんでいるほどに大きい。
 夏休みが始まった直後に海に行ったときも、愛実の胸……凄く大きいなと思っていた。あのときにはもうGカップかそれに近い大きさだったのかもしれない。

「新しい下着を3着くらい買おうと思ってて。せっかく買うなら、リョウ君が選んでくれた下着を買いたいなって。だから、大学を後にするときに、買い物に付き合ってって誘いました」

 そう説明すると、愛実は俺の目を見ながらはにかんだ。可愛いな。オープンキャンパスが一番だろうけど、下着を選んでもらうのもデートの目的の一つだったのだろう。

「分かった。俺で良ければ選ぶよ」
「うん、ありがとう」

 愛実は嬉しそうにお礼を言った。
 愛実やあおいという女の子の幼馴染はいるけど、女の子の下着を選んだ経験は一度もない。愛実がいいなと思える下着を選べるように頑張ろう。
 近くにあるエスカレーターに乗って、衣類を取り扱うフロアの2階に向かう。
 目的地は女性向けの下着コーナーだから、2階に到着してからは愛実に手を引かれる形で一緒に歩く。服や日用品を買うために2階にも定期的に来るけど、女性向けの下着コーナーに行くのは初めてだから緊張するな。

「着いたよ」

 俺達は女性向けの下着コーナーの目の前まで到着する。そこには様々な種類や色の下着が陳列されていて。あと、下着コーナーなのもあってか、男性の姿は皆無。

「こ、ここが下着コーナーか」
「そうだよ」
「……男の人が全然いないけど、俺が入っても大丈夫なのかな」
「大丈夫だよ。私と一緒なんだから」

 ふふっ、と愛実はいつもの穏やかな笑顔を見せてくれる。そんな愛実がとても頼りになりそうに見えて。

「そうか。愛実から離れないように気をつけるよ」
「うん。一緒にいれば、変な目で見られることはないと思うよ」
「そう願いたいな。ただ、これだけいっぱい下着があると、どれがいいのか迷うな」
「じゃあ、私が買うことが多いブランドの下着が置いてあるところまで行こうか」
「分かった」

 愛実と一緒に女性向けの下着コーナーの中に入っていく。さっきと同じように、愛実が俺の手を引く形で。愛実の手を離さないよう、俺は愛実の左手をしっかりと握った。
 中に入ると……女性の下着って色やデザインが本当にたくさんあると実感する。愛実は可愛いから、つけたら似合いそうな下着がいっぱいあるな。

「ここだよ」

 そう言って、愛実は立ち止まる。
 目の前にはレース生地の下着がハンガーラックにズラリと並んでいる。花柄の刺繍が可愛らしい。売れ筋なのか、同じデザインだけど暖色系や寒色系、黒、白といった様々な色が陳列されている。

「付け心地も良くて、値段もそこそこで。デザインも可愛いのが多いから、このブランドの下着を買うことが多いの」
「そうなんだ。花柄の刺繍が可愛いなって思う」
「可愛いよね。……参考に、今つけている下着姿の写真を家で撮ってきたの。この下着とデザインが似ているんだけど」

 そう言うと、愛実はトートバッグからスマホを取り出し、何やら操作している。
 こんな感じだよ、と言い愛実は俺にスマホを見せてくれた。画面には今も穿いているスカートに、淡いピンクのブラジャー姿の愛実が映っていた。部屋にある鏡に映った自分を撮影したのかな。確かに、ここに陳列されている下着と似たデザインだ。可愛い。あと、Gカップだから胸の谷間が凄い。写真でもドキドキしてきた。

「可愛い下着を付けているんだな。似合っているよ」
「あ、ありがとう」
「陳列されている下着は似たデザインだから、愛実によく似合いそうだ」
「そう言ってくれて嬉しいな。じゃあ、このデザインの下着を3着買おうか。気に入った下着があると、色違いでいくつも買うし」
「そうなんだ」
「リョウ君、何色がいい? リョウ君の選んでくれる色を試着するよ」
「そ、そうだな……」

 いっぱい色があるから迷うな。
 俺の好きな色は緑だ。緑は……あるな。淡い緑色だ。
 あと、今の写真に映っていたピンクの下着も似合っていた。だから、ピンクも良さそうだ。ピンクも……あるな。
 それと、愛実の好きな色がいいかな。確か、暖色系や水色が好きだったはず。

「緑とピンクとオレンジと水色……かな」
「緑にピンクにオレンジに水色ね」
「ごめん。3着買うのに4色言っちゃって」
「気にしないで。むしろ、少し多いくらいが一番いいよ」

 愛実は優しい笑顔でそう言ってくれた。
 その後、愛実はハンガーラックから、俺がリクエストした緑、ピンク、オレンジ、水色の下着を手に取る。どれも今の愛実の胸に合うサイズがあって良かった。
 試着するため、俺達は試着室の方に向かう。さすがに4着全てを愛実が持つことができないので、俺が緑とピンクの下着を持つことに。こうして自分で手に取ると、ブラジャーのカップがかなり大きいと実感する。これがGカップか。これが今の愛実の胸にはちょうどいいのか。凄い。
 試着室の前に到着する。試着室は全部で4つあり、俺達から向かって左2つは扉が閉まっており、右2つは開いている。どうやら、使えるのは右2つのようだ。

「じゃあ、右端の試着室で試着してみるね」
「ああ。分かった。扉のすぐ近くで待ってる」
「うん。着たら声掛けるね。扉をちょっと開けて見てもらうね」
「了解」

 俺は持っている緑とピンクの下着を愛実に渡して、試着室の扉の前で愛実を待つことに。
 これまでは愛実と一緒だったから良かったけど、試着室の扉が閉まった途端に不安になってきたぞ。試着室の前に金髪の男が立っていると不審がられないだろうか。愛実と一緒にいる姿を覚えていてくれたら嬉しいのだが。
 恐る恐る周りを見てみると……俺の方に視線を向ける女性は店員さんを含め何人かいるけど、嫌悪感を示している人はいない。さっきまで愛実と一緒にいたからかな。
 試着室の中からは、布の擦れる音が聞こえてくる。下着を試着するということは、これまでつけているあのピンクの下着は脱ぐことになるんだよな。そう考えるとかなりドキドキしてくる。

「リョウ君。一つ目の下着を試着したよ」
「分かった。目の前にいるからちょっと開けてくれ」
「うん」

 愛実……まずはどの色の下着を試着したんだろう。自分が選んだのもあり、ちょっとワクワクする。
 カチッ、と試着室の扉の鍵が解錠し、扉が少しだけ開かれる。
 すると、そこには緑色のブラジャーを身に付けた愛実の姿が。さっき見せてくれた写真のように、下はスカートのままだ。あと、こういう姿だからか、愛実から甘くていい匂いがしてくる。

「まずは緑色を試着してみたよ。どうかな?」

 上半身は下着姿なのもあり、頬をほんのりと赤らめながら愛実は問いかけてくる。
 淡い緑色だから、落ち着いた雰囲気だけじゃなくて爽やかさも感じられる。愛実の白い肌ともよく合っていると思う。あと……心なしか、この前の海水浴のときよりも胸が大きくなっている気が。Gカップになったと聞いたからだろうか。谷間も凄い。あと、緑色のブラジャーをしているから胸がメロンに見える。

「似合っているかな、リョウ君」
「凄く似合っているよ。爽やかだけど、緑色だから落ち着いた雰囲気もあって。あと、俺の好きな緑色だし」
「リョウ君緑色好きだもんね。だから、最初にこれを試着したんだ。私もいいなって思ってる」
「そうか。付け心地はどうだ?」
「凄くいいよ。快適」

 ニコッと笑って愛実はそう言う。快適な付け心地なようで良かった。これも、母親の真衣さんがちゃんと測ったおかげだろう。

「リョウ君。スマホで写真を撮ってくれるかな? 見比べるために写真があった方がいいでしょ?」
「確かにそうだな。俺のスマホで撮るか?」
「うん、いいよ。他の人に見せびらかさないなら、下着姿の写真を持ってていいよ。あおいちゃんや理沙ちゃん、美里ちゃんくらいで」

 依然として愛実は笑顔で浮かべているけど、頬の赤みがちょっと強くなる。

「分かった。じゃあ、撮るぞ」
「うんっ」

 スラックスのポケットからスマホを取り出し、下着姿の愛実の写真を撮った。あくまでも見比べる参考資料のためだけど、愛実は笑顔で写っていた。
 写真を撮った後、愛実は試着室の扉を閉めて、2着目の下着を試着することに。次はどんな色を試着するのか楽しみだな。ピンクとオレンジと水色か。どれも似合いそうだ。

「リョウ君。2着目を試着したよ」
「分かった。開けてくれ」

 俺がそう言うと、愛実はさっきと同じくらいに扉を開ける。すると、今度はピンクの下着を試着していた。緑色のときとは違って、とても可愛らしい印象を抱かせる。

「おっ、今度はピンクか」
「うん。このピンクはどう?」
「さっき写真を見せてもらったときにも思ったけど、ピンクは愛実に似合うな。可愛らしい雰囲気があって素敵だと思う」
「そう言ってくれて嬉しいな。私、ピンク好きだし」

 えへへっ、と愛実は言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せて。それもあり、より可愛らしい姿になって。

「この下着姿も撮るぞ」
「うんっ」

 さっきと同じように、俺のスマホで愛実の下着姿の写真を撮る。タイミングもあってか、緑色の下着姿を撮ったとき以上の可愛らしい笑みを浮かべている。
 この後もオレンジ、水色の順番で愛実は下着を試着していき、俺はそれぞれスマホで写真を撮った。オレンジは明るく、水色は爽やかな雰囲気でどちらも似合っている。
 愛実が元の服に着替えるまでの間、スマホで撮った写真を見ながら、4色のうちどの3色がいいか考える。こうして写真で見比べると……愛実は全て似合うな。可愛らしい顔立ちだし、肌も綺麗だし、胸も……大きいし。

「リョウ君。どの3色がいいか決まった?」

 元の服装に着替え終わった愛実が試着室から出てきた。

「緑とピンクは決まった。緑は俺の好きな色だし、ピンクは一番可愛いと思ったから」
「そっか。私も緑とピンクは特にいいなって思ってる」
「そうか。あと一色は……迷うなぁ。オレンジも水色も似合っているから。愛実はどっちの下着が好きか?」
「どっちも好きだけど、どっちかって言ったら……オレンジかな。明るい雰囲気だし」
「そうか。じゃあ、3つ目はオレンジにしよう。愛実がよりいいと思うものを買ってほしいから。もちろん、俺もオレンジの明るい雰囲気はいいなって思うよ」

 俺がそう言うと、愛実は納得した様子で頷く。

「分かった。じゃあ、緑とピンクとオレンジの下着を買うね」
「ああ」

 その後、水色の下着を陳列されていたハンガーラックに戻し、愛実は嬉しそうな様子で緑とピンクとオレンジの下着をレジに持っていく。
 会計を担当した女性の若い店員さんはずっとニコニコしていた。何度か俺を見るときもあって。試着のときを含めて、店内での俺達の様子を見ていたのかもしれないな。そう考えると、ちょっと恥ずかしくなるのであった。
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