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最終章

第43話『ガールズナイト-前編-』

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 お風呂から出た私達は、リビングにいる両親にお風呂が空いたことを伝えて、私の部屋に戻る。
 あおいちゃんと理沙ちゃんと3人での初めてのお風呂はとても楽しかったな。湯船に3人一緒に入れたことには感動したよ。2人も、私の家のお風呂で楽しんでくれたみたいで良かった。
 部屋に戻ってからはドライヤーで髪を乾かしたり、スキンケアをしたり、ゴールデンウィークのお泊まりのときにあおいちゃんから教えてもらったストレッチをしたりした。髪についてはあおいちゃんが理沙ちゃん、理沙ちゃんが私、私があおいちゃんの髪を乾かして。
 あと、あおいちゃん直伝のストレッチのおかげで、太り気味になっちゃうことが減ったんだよね。あおいちゃんにそのことのお礼を言うと、

「体に合ったみたいで良かったです!」

 と爽やかな笑顔で言ってくれた。
 お風呂上がりにいつもすることが終わったので、私達はアニメを観ることに。私が淹れたアイスティーを飲んだり、あおいちゃんがバイトから帰ってくる途中に買ってくれたお菓子を食べたりしながら。
 3人とも好きな美少女日常アニメだから、「このキャラ可愛いね」とか「この展開いいよね」と話が盛り上がって。
 また、午後10時からは3人とも観ているラブコメアニメの最新話をリアルタイムで。このアニメはリョウ君も好きな作品だ。リョウ君も観ているのかな。

「今週も面白かったですね!」
「そうだね。ヒロインが抱きしめられたときはキュンとして声出ちゃったよ」
「あたしも出ちゃった」
「私もです! あそこはキュンキュンしましたよね!」

 ふふっ、と私達は楽しく笑い合う。一人でアニメをじっくりと観るのもいいけど、みんなで一緒にアニメを観ると、こうしてすぐに感想を語り合えるから楽しい。
 2時間以上アニメを見続けていたので、一旦休憩することに。

「今のラブコメアニメは涼我君も観ていますよね」
「そうだね。部屋の電気も点いているし、リアルタイムで観ていた可能性はありそう」
「午後10時からだものね」

 明日以降、リョウ君と一緒にまた観たいな。リョウ君の家側にある窓からぼんやりと見える灯りを見ながらそう思う。

「そちら側の窓から、涼我君の部屋の様子が分かるんですね」
「うん。お互いの部屋の窓が開くと、リョウ君の部屋の中もちょっと見えるよ。今みたいに灯りがぼんやり見えていると、リョウ君も起きているんだなって分かって。リョウ君の姿は見えないけど、近くにいる感じがして嬉しいの」
「そうですか。私の部屋からは涼我君の家は見えても、涼我君の部屋の様子までは全然見えないので羨ましいですっ」
「ふふっ、いいでしょう」

 そう言うと、あおいちゃんは私に羨望の眼差しを向けてくる。
 調津に引っ越してきてから10年以上。ここでの生活が楽しいと思える理由の一つは、私の部屋とリョウ君の部屋が互いに見える位置関係であること。私の家が、私の部屋がここで良かったって実感する。

「あたしは2人が羨ましいわ」

 理沙ちゃんはいつもの落ち着いた笑顔でそう言ってくる。そんな理沙ちゃんの反応に何を思ったのか、あおいちゃんはニヤリと不適な笑みを浮かべる。

「私達が羨ましいってことは……もしかして、理沙ちゃんも涼我君が気になっていたりするんですか? 私、気になります! お泊まり女子会の夜ですし。ここには私達しかいませんし、聞かせてもらえると嬉しいなって」

 そう言い、あおいちゃんは理沙ちゃんの脇腹あたりに指をツンツンしている。恋バナはお泊まりの夜のガールズトークの定番だよね。
 今の話の流れと、私達が羨ましいという理沙ちゃんの言葉から、あおいちゃんは「リョウ君の両隣の家に住んでいることがあおいちゃんと私が羨ましい」と考えたんだ。そこから、理沙ちゃんがリョウ君を気になっているんじゃないかと考えたと。
 理沙ちゃんがリョウ君と出会ってから4年以上。中学の1年ちょっとは陸上部で一緒に活動していたし、リョウ君が辞めてからもリョウ君と仲良く話すことはいっぱいある。リョウ君がいないところでも、リョウ君のことを笑顔で話すこともあるし。理沙ちゃんがリョウ君を男の子として気になっていてもおかしくないと思う。もしかしたら、新たな恋のライバルになったりして?

「あたしは麻丘君のこと……好きよ。恋愛的な意味で……」

 普段よりも小さな声でそう言うと、理沙ちゃんの顔が段々と赤くなっていく。いつにないしおらしい雰囲気なのもあって、理沙ちゃんが凄く可愛く見える。さっき観たラブコメアニメが比にならないくらいにキュンキュンするよ。

「理沙ちゃんも涼我君が好きなのですか!」

 あおいちゃんは目を輝かせて理沙ちゃんを見ている。
 理沙ちゃん……リョウ君のことが好きなんだ。好きかもしれないと思っていても、本人の口から好きだって言われるとちょっとビックリする。

「リョウ君のことが好きなんだね。ちなみに……いつから?」
「……中学1年のとき」
「……結構前からなんだね」

 リョウ君が陸上部にいたときだ。理沙ちゃんはマネージャーだし、部活を通じて好きになったのかな。

「涼我君のどんなところに?」
「……陸上部の練習のときに一生懸命取り組んでいる姿を見て。走る姿も美しいし。あと、部活中や愛実達と話しているときの笑顔に惹かれて。明るくて優しいし……」

 やっぱり、陸上部でのことも好きになった理由なんだ。

「そうなんですか! 笑顔も走っている姿も素敵ですよね! 明るくて優しいところがいいのも分かりますっ!」
「私も分かる。理沙ちゃんの言ったところ……私も好きだし」

 自分の好きなところを、あおいちゃんも理沙ちゃんも好きだと言うことが嬉しい。
 リョウ君のことを話しているから、ドキドキして段々と体が熱くなってきたよ。理沙ちゃんみたいに頬が赤くなっているんだろうな。

「ただ、麻丘君の隣には愛実っていう可愛い女子がいるし。告白して断られたら、麻丘君との友人関係も壊れるんじゃないかって思って胸に閉まってた。しかも、今年の春にはあおいが調津に帰ってきて。体育祭の借り物競走では、麻丘君は『大切な人』のお題で2人を連れて行ったし」
「あのときは嬉しかったな。幼馴染としてでも、大切な人として連れて行ってくれたことが」
「私も嬉しさはありましたね。あのときのことが、好意を気付くきっかけになりましたが」

 借り物競走で、私の手を引いてくれたリョウ君の後ろ姿……凄くかっこよかったな。思い出すだけで胸がとても温かくなって、キュンってなるよ。

「あのとき、2人は麻丘君に告白していなかったけど、2人には敵わないなって思ったわ」
「そうだったんですか」
「全然気付かなかったよ」

 あのときも理沙ちゃんはいつもと変わらない雰囲気だったし、私達3人をスマホで撮ってくれていたから。リョウ君を好きで、あおいちゃんや私に敵わないって思っていたなんて想像もしなかった。

「あおいと愛実が麻丘君に告白したって知ったときは『やっぱり好きか』って思ったわ。特に愛実はね」

 理沙ちゃんは落ち着いた笑顔でそう言う。
 私をリョウ君が好きなこと……理沙ちゃんも「やっぱり」って思っていたんだ。まあ、あおいちゃんにも感付かれていたくらいだし、中学入学直後からの付き合いのある理沙ちゃんにも気付かれているか。告白するまで、お母さん以外にはリョウ君が好きだって言わなかったけど、きっと私の想いに感付いている友達はいっぱいいるんだろうな。
 それまで顔に浮かんでいた理沙ちゃんの笑みがなくなり、真剣な表情に。

「……コアマに行く前日の朝に麻丘君と一緒にジョギングしたって話したわよね」
「うん、言っていたね」
「楽しかったと言っていましたね」
「……楽しかった。ただ、実はジョギング中に……麻丘君に告白してフラれたわ」
「そ、そうだったんですか……」
「そうだったんだ……」

 まさか、リョウ君に告白してフラれていたなんて。昨日のコアマも、今日、うちに来てからも理沙ちゃんは普段と変わらない様子だったし、リョウ君もそんなことを匂わせる様子は見せなかった。あおいちゃんや私のように返事待ちならまだしも、フラれたから言いづらいか。リョウ君も理沙ちゃんの気持ちを考えて、告白については一切言わなかったのだと思う。

「あおいのことも愛実のこともよく考えてって麻丘君に言ったのに。特にあおいについてはあおいの目の前で。それなのに、あたしも麻丘君に告白しちゃって……ごめんなさい」

 理沙ちゃんはそう謝ると、私達に向かって深めに頭を下げた。
 あおいちゃんも私も「返事はいつでもいい」と言ったから、理沙ちゃんは親友として「私達のことをよく考えて」と言ってくれたのだと思う。だから、告白したことが私達に対する裏切りのように捉えているのだと思う。何も悪いこと……ないのにな。

「顔を上げてください、理沙ちゃん」

 あおいちゃんは優しい声で理沙ちゃんにそう言った。そんなあおいちゃんの顔は優しい笑みが浮かんでいて。きっと、私と考えていることと同じだと思う。
 あおいちゃんに言われたからか、理沙ちゃんはゆっくりと顔を上げる。そんな理沙ちゃんの目には涙が浮かんでいる。

「愛実ちゃんや私のことを考えてと言ったのは、私達のことを想う理沙ちゃんの優しさからだと思っています。そんな理沙ちゃんが涼我君に告白する権利はあるとも思っています。むしろ、素敵なことですよ。ですから、理沙ちゃんが告白したことに全く怒っていません」
「私もあおいちゃんと同じ考えだよ。それに、理沙ちゃんもリョウ君が好きなんだって分かって嬉しいし、今まで以上に親近感が湧いたよ」
「私もです! 涼我君が好きだって話す理沙ちゃんが可愛いなって思いましたし!」
「うんうん。だから、私達に何も罪悪感を抱かなくていいからね」
「……うん。ありがとう」

 理沙ちゃんは小さな声でそう言い、ちょこんと頷いた。それもあってか、理沙ちゃんの両目からは涙がこぼれ落ちた。その涙は私達への罪悪感はもちろん、リョウ君にフラれたショックも含まれているのかもしれない。
 私は横から理沙ちゃんのことをそっと抱きしめ、あおいちゃんは理沙ちゃんの頭を優しく撫でた。

「理沙ちゃん。……告白、お疲れ様」
「お疲れ様でした」
「……ありがとう」

 理沙ちゃんはそう言い、右手で両目の涙を拭った。それと同時に理沙ちゃんの顔に笑顔が戻る。

「麻丘君は2人のようには考えられないって言って断ったの。それは麻丘君にとって2人は特別な人だっていう証拠だと思う。大切にされているんだって実感したわ。きっと、麻丘君なら、ちゃんと考えた上で2人に告白の返事をしてくれると思うわ」

 あおいちゃんや私の目を見ながら、理沙ちゃんはそう言う。
 親友の理沙ちゃんがフラれた理由ではあるけど、私がリョウ君にとって特別な存在になっていると分かって嬉しい。

「そうだったんだね。話してくれてありがとう、理沙ちゃん」
「ありがとうございます」
「いえいえ」

 理沙ちゃんは優しい笑顔でそう言った。
 リョウ君が好きだっていう理沙ちゃんの想いが知れて、今まで以上に理沙ちゃんが近しい存在になった。理沙ちゃんとはもっともっと仲良くなれそうな気がする。
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