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最終章

第49話『流れて、触れて。』

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 あおいはここのウォータースライダーがかなり気に入ってくれたようだ。
 スライダーを滑る度にあおいのテンションが上がっていって。結果的に2人用の浮き輪に乗ってスライダーを4回滑った。

「あぁ、たくさん滑りました! ひとまず満足ですっ!」

 とても弾んだ声であおいはそう言った。4回滑ってひとまずって。ということは、今後もまた滑ろうと思っているのかな。時間はたっぷりあるし、それもいいか。

「4回滑ったもんな」
「ええ! 涼我君と滑るのが楽しいですから。ここのウォータースライダーはとてもいいですね!」
「気に入ってくれて嬉しいよ」

 これまでに何度も楽しんだ場所だから。あおいも一緒に楽しんでくれて、気に入ってくれたことがとても嬉しい。

「あおい。次はどこのプールに行きたい?」
「そうですねぇ。これまで4回もウォータースライダーで勢い良く滑りましたからね。次はゆったりと過ごしたいですね」
「ゆったり……か。じゃあ、流れるプールなんてどうだ? ここの流れるプールは子供でも大丈夫なくらいにゆっくりとした流れなんだ。流れに任せて浮いたり、向こうにある遊具のレンタルコーナーから浮き輪を借りて、その浮き輪に座ったりするのも気持ちいいぞ」

 俺は屋内プールの端にある遊具の貸し出しコーナーを指さしてそう言う。
 愛実達と遊びに来たときも、今言った形で流れるプールで遊んだことがある。特に愛実と海老名さんは、浮き輪に乗って気持ち良さそうにしていたっけ。

「流れるプールで浮き輪に座るの……いいですね。海では理沙ちゃんが浮き輪に乗って気持ち良さそうにしていましたから」
「そうだったな。じゃあ、レンタルコーナーに行くか」
「はいっ。でも、涼我君は大丈夫ですか? ウォータースライダーを4回滑って疲れは溜まっていませんか?」
「大丈夫だ。毎回並ぶ時間があったから、それがいい休憩になったし。それに、流れるプールの水に体を任せると、それが気持ち良くて癒やされるからな」
「それなら良かったです」
「あおいは大丈夫か?」
「はいっ! 元気いっぱいですよ! 遊ぶ前よりも元気ですよ!」
「ははっ」

 ニッコリと笑いながらあおいはそう言ってくる。
 遊ぶ前よりも元気だなんて。さすがはあおいというか。あおいらしいというか。思わず笑い声が漏れてしまった。

「な、何かおかしいことを言いましたか?」
「いいや。あおいらしいと思っただけさ。じゃあ、レンタルコーナーに行くか」
「はいっ」

 あおいと手を繋いで、俺達はレンタルコーナーに向かって歩き始める。
 これまで、ウォータースライダーとゴール地点のプールばかりにいたから、こうして屋内プールを歩くのが新鮮に思えてくる。
 最初にウォータースライダーに行ったときと同じく、すれ違う人の多くがあおいのことを見ていて。あおいは多くの人に興味を抱かせる容姿の持ち主なのだと今一度実感する。
 レンタルコーナーに到着して、浮き輪を一つレンタルした。

「無料でレンタルできるのは凄いですね」
「そうだな。浮き輪以外にもビーチボールとかビート板、アームリングもあるんだ」
「そうなんですね。色々な遊具をレンタルできるのも、ここが人気である理由の一つなんでしょうね」
「きっとそうだろうな。萎ませた状態でも荷物になるし、膨らますのは大変だし。そういう意味でも、この前の海水浴では遊具を持っていくのを担当してくれてありがとな」
「いえいえ」

 ふふっ、とあおいは上品に笑う。水着姿なのもあって、今のあおいは大人っぽく見えた。
 流れるプールに行くと……メインのプールだからか、プールに入っている人は結構いるな。流れに逆らってクロールしている男の子とかもいるけど。俺も小学生くらいのときにやったなぁ。他の人の迷惑になるからと親に怒られたっけ。

「では、流れるプールに入りましょう」
「ああ。俺が浮き輪を押さえているから、その間にあおいは座ってくれ」
「分かりました」

 周りに人があまりいないことを確認して、俺は浮き輪を水面に置く。流れるプールだから水の流れがあるけど、このまま押さえていればあおいが座るのには問題なさそうか。

「どうぞ、あおい」
「はいっ」

 あおいは浮き輪の上に乗る。穴の部分に腰を落とし、両腕と両脚を浮き輪に引っかける体勢を取る。運動神経がいいのもあってか、難なく座ることができたな。あと、浮き輪に座っている姿がかなり大人っぽく見える。

「涼我君、ありがとうございます。手を離しても大丈夫だと思います」
「分かった。手、離すよ」

 俺はあおいが座っている浮き輪をそっと離す。そのことで浮き輪は水の流れに乗って動き出した。あおいの体勢は安定しているので、プールに落ちてしまう心配はなさそうだ。
 俺も流れるプールに入る。
 ただ、深さは俺のへそよりも少し上くらいだし、流れも急ではないので普通に立っていられる。このままでは流れに身を任せることはできない。なので、あおいが座っている浮き輪まで泳ぎ、浮き輪をそっと掴んだ。掴んだまま体を水面に浮かせることで、俺も水の流れに身を任せられるように。

「なるほど。流れている浮き輪を掴んで、自分も流れに身を任せるんですね」
「ああ。こうしていると気持ち良くて癒やされるんだ。力もいらないし」
「そうなんですね。いい方法ですね。ちなみに、愛実ちゃんの乗っている浮き輪を掴んだこともあるんですか?」
「ああ、あるぞ。愛実とか道本といった友人とか」
「そうなんですか! 同じことができて嬉しいですっ」

 あおいは柔らかな笑顔でそう言った。愛実とは何度もこのプールに来ているからな。愛実が経験したことは、自分もやってみたいのだろう。可愛いな。

「あおいは浮き輪に座ってみてどうだ?」
「気持ちいいですよ。腰やお尻、手足の先から水の流れを感じますし」
「それは良かった。今までも流れるプールに入ったときは、こうやって浮き輪に座っていたのか?」
「ある程度大きくなってからはこうして座ることもありますね。昔は普通に浮き輪に体を通したり、アームリングを両腕に付けたりしました」
「そうだったのか。あと、アームリング……懐かしいな。俺も小学校の低学年くらいまでは、アームリングを付けて大人向けの深いプールに入ったことがあったよ」
「腕に装着しますから、プールに入ると自然に浮きますもんね。楽ですから、アームリングにハマった時期もありました」
「そうだったんだ。でも、分かる気がする」

 プールに入れば何をせずとも自然と浮くし、よほどのことがない限りはプールに入っている間に腕から抜けてしまうこともないから。
 アームリングを付けているあおいか。小さい頃も付けていなかったから、どんな感じになるのかちょっと興味あるな。あおいの顔を見ながらそう思う。あと、こうして浮き輪に掴まっているから、あおいの綺麗な腕と脚が目の前にあって。海水浴ではあおいに膝枕をしてもらったのもあり、ちょっとドキドキする。

「頬が少し赤くなった気がしますが……どうかしましたか?」
「あっ、いや……目の前にあおいの綺麗な腕や脚があるからさ。ちょっとドキッとして」
「ふふっ、そうですか。綺麗だって言ってくれて嬉しいです。……海水浴のときにも言いましたが……いいんですよ? 涼我君なら、私の体に触っても」

 あおいは優しい笑顔で俺を見つめながらそう言ってくる。ただ、今の言葉もあって、見つめてくるあおいの目つきは艶っぽさも感じられて。顔以外のほとんどは水の中なのに、体の内側に熱を抱いたのが分かった。

「……じゃあ、ちょっと失礼して」

 そう言い、俺は右手を浮き輪から離して、あおいの左の太ももに軽く触れる。その瞬間、

「んっ」

 と、あおいは可愛らしい声を漏らして、体をビクつかせた。そのことで小さな波ができて、口や鼻に水がかかった。

「ご、ごめん。嫌だったか?」
「い、いえ。触れられたのが少しくすぐったかっただけです」

 あおいは俺に微笑みかけてくれる。頬がほんのりと赤くなっているけど、嫌そうには見えない。

「そうか。なら良かった。海水浴で膝枕してもらったからさ。頭でも柔らかさは分かっていたんだけど、手で触るとどんな感じなのかなと思って」
「そういうことでしたか。それで……いかがですか? 私の太ももを触ってみて」
「……柔らかい感触で、肌もスベスベでいいなって思う。海水浴での膝枕が気持ち良くて、昼寝できたのも納得だ」
「涼我君にそう言ってもらえて嬉しいです」

 えへへっ、とあおいは照れくささも感じられる笑い声も出して。ただ、それも含めて可愛く思えて。正直に感想を言ってみて良かった。

「膝枕したときも、今も……涼我君に触れられるのはいいなって思います。キュンとして、幸せな気持ちになれますから」

 あおいは恍惚とした表情になってそう言った。その瞬間、触れる太ももから確かな温もりを感じられるように。
 触られるのが嫌だと思われなくてほっとした。今後もあおいに触れるときは、あおいに嫌な想いをさせないように気をつけないと。
 それから少しの間、俺達はプールの流れに身を任せて、ゆったりとした時間を過ごすのであった。
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