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最終章

第64話『花火大会-後編-』

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 それからも、焼きそばやチョコバナナといった食べ物系や、射的や型抜きといった遊び系の屋台を楽しんでいく。
 七夕祭りのときとは違い、今日は部活があったから鈴木だけじゃなく道本も結構食べている。2人の食べっぷりは見ていて気持ちがいい。須藤さんは豪快に食べる鈴木を見てうっとりとしていた。
 俺はコルク5発100円の射的で、あおいと愛実、海老名さんがそれぞれ欲しがる景品をゲットすることができた。『景品落としの麻丘』の名に恥じぬパフォーマンスを披露できて一安心。景品を手にして嬉しそうにする3人の笑顔を見られたことはもちろん、佐藤先生が「さすがは涼我君だねぇ」と言ってくれることも嬉しかった。
 また、住んでいる地域から徒歩圏内なのもあり、会場内で小中学校時代の友人と会うことができた。
 屋台とか友人との再会を楽しんだのもあって、気付けば花火の打ち上げ開始時刻まであと10分くらいになっていた。なので、俺達は見学エリアに向かって歩き始める。

「屋台を廻るのがとても楽しくて、打上花火があるのを忘れていました」
「ふふっ、あおいらしいかも」
「忘れていましたから、これから打上花火を見られることに得した気分です!」
「良かったね、あおいちゃん」

 あおいは食べ物系の屋台では美味しそうに食べていたし、遊び系の屋台では遊びに集中していた。11年ぶりに来たのもあるだろうけど、俺達の中で屋台を一番楽しんでいたのはあおいだと思う。
 屋台エリアを抜けて、花火の見学エリアに到着する。
 打ち上げ開始まであと10分もないのもあり、既に多くの人がいる。ワクワクとした様子で川の対岸の方を見ている人が多い。
 俺達も対岸の方に向いて立つ。その際、あおいが俺の右腕を、愛実が俺の左腕を抱きしめる。すっかりと日が暮れて、涼しくなってきたから、浴衣越しに伝わってくる2人の温もりがとても心地いい。

「もうすぐ花火ですね! 凄く楽しみですっ!」
「楽しみだな」
「楽しみだね! 1万発打ち上げられるんだよ」
「そんなにいっぱい打ち上げられるんですね!」

 あおいも愛実もとても楽しみにしているな。
 この花火大会には毎年行って、打上花火を見ているけど、あおいと愛実と一緒に見るのは初めて。だから、今年の打上花火は本当に楽しみだ。

「おっ、午後7時になった。まもなくだね」

 あおいの隣に立つ佐藤先生が、スマホを見ながらそう言った。
 まもなく、花火の打ち上げが開始される。今年はどんな感じの打上花火になるのか楽しみだ。期待感を持って多摩川の対岸を見ていると、
 ――ピュー。
 という音と共に、一つの光が星空に向かって上がっていき、
 ――ドーン!!
 と、ド派手な破裂音を炸裂させて、とても大きな赤い花火が打ち上がった! その瞬間に、

『おおっ!』

 という、あおいと愛実を含めた観客の声が湧き上がる。花火の打ち上げがスタートしたからか、拍手も聞こえてきて。
 大輪の赤い花火によってド派手に開幕し、それを勢いづかせるかのように、花火が連続で打ち上がっていく。

「花火綺麗ですね! スタートから勢いがあってテンション上がりますっ!」
「迫力あるよね! 特に最初の赤い花火は凄かったね!」
「凄く大きかったもんな!」

 あおいと愛実が興奮しているのもあり、俺もテンションが上がってきた。
 それからも、花火がどんどん打ち上げられていく。
 花火の大きさや形、色、打ち上げ方のタイミングとバラエティに富んでいる。だから、飽きが来なくて。あっという間に1万発が終わりそうな気がする。
 また、ドデカい花火が打ち上げられると、

「たーまやー!!」
「たまやー!」

 鈴木と須藤さんが夜空に向かってそう叫ぶ。そんな2人に乗ったあおいや道本も「たまやー!」と叫ぶこともあって。俺も叫んでみると……これがなかなか気持ちいい。
 愛実と海老名さんと佐藤先生は叫ぶことはしないけど、楽しそうな笑顔で夜空を見上げている。
 夜空に打ち上がる花火も、花火の光が反射する川の水面も美しい。だけど、花火によって照らされたあおいと愛実の笑顔は何よりも美しくて。だから、たまに花火じゃなくて、2人の顔をじっと見てしまうこともあった。
 あおいと愛実と一緒に打上花火を見られるなんて。こんなにも美しい景色を見られるなんて。去年、この花火大会に来たときには想像もしなかったことだ。とても素敵な時間を過ごせることを嬉しく思いつつ、打上花火と幼馴染2人の笑顔を楽しむのであった。



『以上をもちまして、今年の打上花火は終了となります』

「いや~、素晴らしい打上花火でしたね!」
「凄く良かったね! 綺麗だったし、楽しかったなぁ」
「あっという間の1万発だったな」

 打ち上げている間に特にトラブルはなく、1万発の打上花火が打ち上げられた。色々な種類があったし、打ち上げ方も工夫されていたので本当に素晴らしかった。俺と同じようなことを思っている人が多いのか、周囲からは拍手が聞こえてくる。

「ブラボー! ブラボーな花火だったぜ!」
「今年もブラボーだったわね、力弥君!」
「毎年凄いな、ここの打上花火は!」
「今年も綺麗な花火をいっぱい見られて満足だわ」
「今年もいい花火だったね。花火を見る君達の顔も良かったけどね」

 道本や鈴木達も打上花火に満足したようだ。みんな笑顔で拍手している。打上花火が素晴らしかったから、鈴木と須藤さんが「ブラボー」というのも納得だ。

「涼我君とは11年ぶりに、愛実ちゃん達とは初めて一緒に花火が見られて嬉しいです!」
「俺も今年はあおいとも一緒に見られて嬉しいよ」
「私も嬉しいよ、あおいちゃん!」

 あおいも愛実もとても嬉しそうな笑顔でそう言った。そのことで、嬉しい気持ちがより膨らんでいく。
 俺達の会話が聞こえたのか、道本と鈴木達は俺達に笑顔を向けてくれた。
 打上花火が終わったので、多くの人が会場を後にする。
 屋台をたっぷり楽しめたし、打上花火を堪能できたので帰ろうという話になり、俺達も会場を後にすることにした。人がとても多いので、はぐれてしまわないように俺はあおいと愛実の手をしっかりと握った。
 地元の人間だけでなく、電車に乗って来場した人も多いのだろう。会場を後にする人達の流れは調津駅の周辺まで続く。
 あおいと愛実の手を握っていたし、周りを逐一確認しながら歩いていたので、俺達ははぐれてしまうことなく、夕方のときの待ち合わせ場所である調津駅前まで戻ることができた。

「じゃあ、ここで解散だね。今日は楽しかったよ。次に会うのはきっと、2学期の始業式の日になるかな。別の高校に通っている美里ちゃんは分からないけど」
「2学期には文化祭がありますから、そのときには必ず行きますね、樹理さん。今日はとても楽しかったわ」
「オレもだぜ! 夏休み最後にいい思い出ができた!」
「俺も楽しかったよ。月曜からまた部活を頑張れそうだ」
「そうね、道本君。今年もいい花火大会だったわ」
「私も凄く楽しかったです! 海水浴と同様に、来年もみんなで行きたいです!」
「そうだな、あおい。来年は受験生だけど、こういうイベントには参加したいな」
「私も楽しかったです。みんなにお誘いのメッセージを送って良かったです」

 みんな、今年の花火大会を楽しめたようで良かった。
 来年は受験生だから夏休みは受験勉強で大変だと思う。ただ、花火大会や海水浴に行って、いいリフレッシュができればいいなと思っている。
 家の方向もあり、道本、鈴木、海老名さん、須藤さん、佐藤先生とはここで別れることに。その際、俺は道本から背中を軽く叩かれ、佐藤先生から笑顔で頷かれた。返事を言うのを頑張れってことかな。家に到着するまでの間にちゃんと告白の返事をしよう。
 俺はあおいと愛実と一緒に、自宅の方に向かって歩き始める。

「花火大会楽しかったですね!」
「楽しかったね。花火大会が終わると、夏も終わりって感じがするよ」
「毎年恒例だもんな。それに、日も暮れて時間が経つから涼しくなってきたし」

 秋もすぐそこまで迫っている。今年の夏は晴れて暑い日が多かったから、秋は遠いと思っていたんだけどな。季節は確かに進んでいるのだと実感する。

「夏も終わりということは、もうすぐ2学期ですね。課題も終わりましたし、今日はみんなと会いましたので、夏休みが終わるのはそこまで嫌ではありませんね」
「そうだね。キッチン部は夏休みに活動がなかったから、また部活動ができるし」
「それに、2学期は文化祭があるし、2年生だから修学旅行もあるもんな」
「文化祭に修学旅行ですか! そう考えると、2学期が来てほしくなりました!」
「ふふっ。あおいちゃんらしい」
「あおいは調津高校の文化祭は初めてだもんな。修学旅行も俺達と一緒に行くのも初めてだし」

 あおいの存在もあって、今年の文化祭や高校の修学旅行は今までで一番楽しいイベントになりそうだ。
 それからは、今日の花火大会のことを話しながら、自宅に向かって歩いていく。
 花火大会が楽しかったからか、あおいも愛実も可愛い笑顔を見せていて。2人を見ていると愛おしい気持ちになる。
 やがて、それぞれの自宅が見えてきた。
 ここで、あおいと愛実からの告白の返事をしよう。あおいも愛実も自宅の前で俺に告白してくれたから。このタイミングで返事しようと以前から決めていた。緊張してくる。

「……あおい。愛実。大事な話があるんだ。いいかな」

 自宅の前に辿り着いたとき、あおいと愛実にそう問いかける。

「もちろんいいですよ、涼我君」
「私もいいよ」

 あおいと愛実は隣同士に立って、優しい笑顔でそう言ってくれる。そのことで、緊張が少し解けた。
 一度、長めの呼吸をして、

「あおいと愛実からの告白の返事をするよ」
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