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特別編2

プロローグ『2学期の始まり』

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特別編2



 9月1日、木曜日。
 今日から9月がスタートし、季節も夏から秋になった。
 そして、今日から高校2年生の2学期がスタートする。俺・麻丘涼我あさおかりょうがは夏休みの終盤に、隣に住む幼馴染でクラスメイトの・香川愛実かがわまなみと恋人として付き合い始めた。恋人ができたのは初めてなので、恋人がいる中では初めての学校生活を送ることになる。これからどんな学校生活になるのか楽しみだ。
 愛実という恋人がいるからだろうか。それとも、夏休み中も趣味の早朝ジョギングをしていたからだろうか。久しぶりに学校のある朝だけど、気持ち良く起きられて、朝の時間を過ごすことができた。

「よし、これでいいかな」

 身だしなみと荷物のチェックが終わった。
 俺は愛実の家側にある窓の方に行き、窓を少し開ける。学校に行く前、愛実とお互いの部屋の窓を開けて話すのが習慣になっているのだ。
 愛実の部屋の窓は開いていない。ただ、照明が点いているので、すぐに愛実も部屋の窓を開けるだろう。
 見上げると、青い空が広がっている。雲もほとんどない。この晴れ渡った空を見ていると、2学期のいいスタートが切れそうな気がする。
 また、夏に比べて、空気もあまり蒸しておらず爽やかだ。夏休み中は朝から蒸し暑い日が多かったので、季節の進みを実感する。これからはもっと過ごしやすくなっていくのだろう。
 ――ガラガラッ。
 愛実の家の方から窓が開く音が聞こえたので、そちらを見ると……愛実の部屋の窓が開かれており、制服姿の愛実がいた。
 俺と目が合うと、愛実はニコッと笑って手を振ってきて。半袖のブラウスと桃色のベスト姿が似合っているのもあり、物凄く可愛くて。恋人になったのもあるかもしれない。愛実にキュンとなりつつ、俺も手を振る。

「おはよう、リョウ君」
「おはよう、愛実」
「制服を着て、窓を開けて、制服姿のリョウ君と話すと、学校生活が始まるんだなって実感するよ」
「学校に行く直前の習慣だもんな。俺も2学期が始まるんだなって思うよ」
「ふふっ。あと……恋人になったからかな。制服姿のリョウ君が今まで以上にかっこいいなって思うよ」

 愛実は俺にそう言うと、うっとりとした様子で俺のことを見てくる。制服姿でも、恋人からかっこいいって言われると凄く嬉しい気持ちになる。再びキュンとなった。

「あ、ありがとう、愛実。俺も……愛実と付き合い始めたのもあって、1学期までよりも制服姿の愛実が可愛く見えるよ」
「……ありがとう、リョウ君」

 えへへっ、と愛実は嬉しそうに笑う。……可愛すぎるんですけど、俺の恋人。

「リョウ君、2学期もよろしくね」
「ああ。こちらこそよろしくな」
「うんっ! じゃあ、また後でね」
「ああ」

 愛実は俺に小さく手を振ると、自分の部屋の窓を閉めた。
 俺も部屋の窓を閉め、スクールバッグを持って自分の部屋を出る。
 1階に降りて、キッチンで冷たい麦茶の入った水筒をバッグに入れた。その際、リビングにいる母さんに「いってきます」と言った。
 家を出ると、俺の家の前にはバッグを持つ愛実の姿があった。玄関が開く音が聞こえたのか、愛実はニコッとした笑顔で俺に手を振ってくれて。可愛いな。

「おはよう。あおいは……まだか」
「うん。まだ時間はあるし、ここで待っていよう」
「そうだな」

 愛実と一緒に、もう一人の幼馴染であり、お隣さんであり、クラスメイトでもある桐山きりやまあおいのことを待つことに。
 1学期は愛実とあおいと3人で一緒に登校していた。
 ただ、2人から告白され、夏休み中に返事をして、愛実と恋人として付き合い、あおいのことを振る形となった。
 これまでと変わらず3人一緒がいいか。
 それとも、俺と愛実が一緒に登校し、あおいは1人か別の友達と一緒に登校した方がいいか。
 昨日の夜にLIMEというSNSの3人でのグループトークで、これからどうやって登校しようか話し合った。
 話し合いの中で、あおいも愛実も『3人で登校するのが楽しかった。だから、2学期も一緒に行きたい』と気持ちが重なっていたことが分かった。そのため、1学期と変わらず、3人一緒に登校することになったのだ。

「ねえ、リョウ君。おはようのキスをしたいな」
「……分かった。おはよう、愛実」
「おはよう、リョウ君」

 朝の挨拶を交わすと、愛実から俺にキスしてきた。愛実の唇の柔らかさと温もりがとても心地良くて。朝、2人であおいを待っているときは、このタイミングでおはようのキスをするのが習慣になるかもしれない。
 キスした後は、最近したお泊まりのことや、現在放送されているアニメのことを話しながらあおいのことを待つ。互いの部屋の窓を開けて話すのも楽しいけど、こうして近くに立って話すのも楽しいな。
 数分ほど話したところで、

「じゃあ、いってきます、お母さん」
「いってらっしゃい。涼我君と愛実ちゃんと一緒だっけ?」
「はい、そうです」
「じゃあ、お母さんも家を出ようかな」

 あおいの家から、あおいと母親の麻美あさみさんの会話が聞こえてきた。
 あおいの家の方を向くと、玄関から制服姿のあおいと、スラックスに半袖のVネックシャツ姿の麻美さんが出てきた。ちなみに、あおいは半袖のブラウスに紺色のベストを着ている。
 あおいだけじゃなくて麻美さんまで家から出てくるとは。どうしたんだろう? 愛実とあおいの告白の返事をしてからは初めて会うので、ちょっと緊張する。愛実も同じような気持ちなのだろうか。笑みを浮かべているけど、どこか堅さが感じられる。
 あおいと麻美さんは明るい笑顔で俺達に手を振りながらこちらにやってくる。親子だけあって、2人の笑顔はよく似ている。

「涼我君、愛実ちゃん、おはようございます!」
「おはよう、涼我君、愛実ちゃん」
「おはようございます、あおい、麻美さん」
「あおいちゃん、麻美さん、おはようございます」

 朝の挨拶を交わすと、あおいと麻美さんは俺達の目の前までやってきた。

「涼我君、愛実ちゃん。2学期もよろしくお願いします!」
「うんっ、よろしくね、あおいちゃん」
「よろしくな、あおい」

 恋人になった俺達を目の前にしても、あおいは元気良く挨拶してくれて。この様子なら、あおいとも一緒に楽しい2学期を過ごせそうだ。

「……あの、麻美さん。今日はどうしてあおいと一緒に外に? こういうことは今までなかった気がしますが」
「涼我君が告白の返事をしてから、涼我君と愛実ちゃんとは一度も会っていなかったからね。おめでとうって直接言いたくて。涼我君、愛実ちゃん、付き合うことになっておめでとう。主人も同じ想いよ」

 麻美さんは優しい笑顔で俺と愛実のことを見つめながらそう言ってくれた。
 麻美さんが玄関先まで来たのは、愛実と俺に付き合うことを祝うためだったのか。愛実の告白を受け入れて付き合うことを決めたと同時に、あおいの告白を断ることを伝えたのに。嬉しいと同時にほっとした気持ちもある。あおいを振ったことで何か言われるんじゃないかと思ったから。

「まあ、涼我君はとてもいい子だし、いつか義理の息子になってほしかったから、私はほんのちょっと残念な気持ちがあるけどね」

 笑顔でほんのちょっと言われたよ。2人から告白された後、麻美さんはあおいのことをアピールしていたもんな。

「そうですか。……2人のことを真剣に考えて、愛実と付き合うことに決めました。おめでとうと言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
「ありがとうございますっ、麻美さん」
「いつまでも仲良くね。あと、涼我君は幼馴染として、愛実ちゃんは友人として、これからもあおいと仲良くしてもらえると嬉しいわ」
「もちろんです」
「私もです。あおいちゃんは大好きな友達ですから」
「涼我君……愛実ちゃん……」

 あおいは感激した様子で俺達の名前を呟くと、愛実のことをぎゅっと抱きしめ、

「ありがとうございますっ!」

 大きな声で俺達にお礼を言った。
 愛実は可愛い笑みを浮かべて、あおいの頭を撫でる。2人を見ていると嬉しい気持ちになって、自然と頬が緩んでいく。麻美さんも嬉しそうな様子であおいと愛実のことを見ていた。

「2人ともありがとう。これからもあおいをよろしくね」
「はいっ!」
「はい。……愛実、あおい、そろそろ学校に行こうか」
「そうだね、リョウ君」
「そうですね! お母さん、いってきます!」
「いってきます、麻美さん!」
「麻美さん、いってきます」
「うんっ。3人ともいってらっしゃい」

 俺達は麻美さんに見送られながら、学校に向かって出発する。愛実と俺は手を繋いで。
 直射日光を浴びながら歩くのでそれなりに暑く感じる。ただ、空気が爽やかなので、夏に比べるといくらか楽だ。

「制服姿になって、涼我君と愛実ちゃんと一緒に歩くと、学校生活が再開したと実感しますね!」
「そうだな。あおいが調津に戻ってきてからは3人一緒だもんな」
「そうだね。3人一緒に学校に向かって歩くこの感じ……いいなって思う」
「私もですっ」
「俺もだ」

 1学期の間は俺が体調を崩したとき以外は3人で登校していた。だから、学校生活の一部になっていて。それがいいなって思えて。夏休み中に愛実と俺は恋人になり、あおいを振ったけど……夏休みが明けて、久しぶりに3人で一緒に学校に行くことができて嬉しい。
 その後は海や花火大会、コアマという同人イベントなど夏休み中のことを話しながら、3人で学校に向かって歩いていく。それがとても楽しく感じられた。
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