僕が死んだあと、あなたは悲しんでくれる?

いちみやりょう

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千景は俺をまっすぐ見据えて笑った。

「大好きだったよ、青砥。青砥は僕の世界の全てだった」
「だったら!」

だったら、俺のこと好きなんだったなら、待っててくれるはずだろ。

「でも、もう気がついてしまったんだ。この世界は僕の居るべき場所じゃなかったって。この世界には誰も僕を愛してくれる人なんて居なかったけど、愛してくれる人が居ることを知ってしまった」

違う。俺は愛してた。
間違えてしまったかもしれないけど、千景のことをちゃんと愛していたんだ。
いや、今だって愛してる。
それなのに、千景は俺以外のやつと愛し、愛されると言うのか。

「っ、そのマーキングをしたアルファのことか」
「うん。彼は僕を愛してくれる。僕は彼といたらきっと幸せになれるんだ」

そんなポッとでのやつなんかじゃなくて、俺が。

「俺が幸せにしてやるって」
「さっき、青砥はたったの1年って言ったけど、僕にとってはその1年は大事な大事な1年だったんだ。本当なら終わって欲しく無い1年になるはずだったんだ」
「終わって欲しく無い?」
「うん。だけど、今はちょっと願っちゃってる。早く1年経たないかなって」
「それって」

1年経ったら、俺が和樹と別れるから?
なんだ、やっぱり千景もまだちゃんと俺のことを好きなんじゃないか。

「ああ。違うよ。青砥とやり直したいわけじゃ無い。1年経ったら迎えにきてくれるはずなんだ」

慈悲もなく告げられた千景の言葉は、俺の心に突き刺さってジクジクと痛む。
けれど、早く1年経てばいいと思うってことはその相手のアルファも1年待たせるつもりなのか?
なら、俺でいいじゃないか。千景は俺との会話でイラついているような顔をしていた。

「ふざけるな! 千景は俺のだろう!」

俺と話す時に、嬉しそうな顔以外するなよ。

「青砥、声が大きいよ。それに僕はもう青砥のものじゃない。僕に構ってないで和樹を大事にしてあげなよ」

ザワザワと周りで俺の悪口が囁かれた。
けれどそんなことはどうでもよかった。
俺はたった今気がついたんだ。
俺には千景だけがいればよかった。
和樹なんかと付き合わなければよかった。
けれど一度付き合うと言ったからには責任がある。

「なぁ、よりを戻そう。和樹にはバレないように付き合えばそれでいいだろ? そしたらお前も寂しくなくて、そんなアルファのところには行かないだろ?」

そうだ。まだ間に合うだろ?
俺たちはまだやり直せるだろ?
なのに、千景は俺を見てほくそ笑んだ。

「僕のことを触ることもできないのに、どうやって付き合うって言うの?」

途端、先ほどの手の痛みを思い出し、ムカついた。

「それ、は。千景がそのアルファに別れを告げればいいだろ。時間が経てば、マーキングも取れる。その間、例え千景を触れなくても俺がそばにいてやるから」
「そっか。でもそれは無理だなぁ。だって僕は、僕を信じてくれない人なんかと付き合いたくないんだから」
「は……? 俺は千景を信じてるよ?」

千景のことは信じているけど、千景は馬鹿なところがあるから、そう言うところは俺が教えてあげるだけだ。

「そうかな。僕は和樹と話したことなんてないと言ったのに、青砥は僕が和樹に嫉妬していじめてるなんて根も葉もない噂を信じて、僕がリンチされて、やめてって言ってもやめてもらえなくて、声が枯れるほど叫んで、体もボロボロで声が出なくなってた僕に、声が出ないなんてそんな嘘はやめてくれって。青砥はそう言ったんだよ」

確かに、あの日、千景に何があったのかは人伝に聞いた。
あの時は千景の言葉を聞かなかったことを反省したけれど、あれからかなり時間が経っているんだ。それに声が出ないなんて、余命1年と比べたらたいしたことないだろ。けど、今そんなことを言えば千景はよりを戻してくれない。

「それは……でも」

俺が言い淀むと、千景はイライラを押し殺すように静かな声で言った。

「でも、何? 和樹は病気だから仕方がないって? 1年の余命の和樹より、声が出ないなんて軽い症状なんだから我慢しろって?」

なんだ。千景はちゃんと俺の気持ちを分かってるんじゃないか。

「千景……」
「青砥はただ、僕と付き合ってた時も、和樹と付き合ってる今も、“可哀想な子と付き合ってる俺”って状況に酔ってるだけなんじゃないの?」

パチン!!

気がついたら手が出ていた。
俺には千景しかいらないけれど、それを“可哀想な子と付き合ってる俺”に酔ってると思われるのは心外だし、そんなふうに俺を馬鹿にするのは許せなかった。

「見損なったよ、千景。1年経ってもよりなんて戻してやらないからな」

ほら、謝るなら今だぞ。
そしたら許してあげるから。
なのに。

「……そう」

千景は興味も何もないと言う顔で吐き出すようにそう言った。

俺は怒りや恥ずかしさやよく分からない感情のまま、激痛の腕を抑え教室を飛び出した。

飛び出した先には和樹がいて、今の会話を聞いていたのか俺の後をついてきた。

「ねぇ、庇ってくれてありがとう。やっぱ青砥は優しいね」

俺の腫れた方の腕の裾を、何も考えず摘んで笑う和樹にイライラした。

「庇ってない! 俺は……、いや、なんでもない。怒鳴ってごめん」

どれだけイラついても和樹は余命1年だと頭にちらついて、怒ることもできなかった。
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